対決、優等生VS優等生④終
私は勝った。
全問正解、それを成して。
私に敗北を刻み込まれた紅は、膝を床につき手をついて明らかな困惑を見せる。
「私が……負けた?何で……私が……」
動揺する紅、そんな彼女のもとへ私は歩み寄り、そして言った。
「気づいていなかったのか。全百問の問題の答え、全てあいうえお順になっている。正直分からない問題も幾つかあった、けどその法則を見つけたおかげで容易に問題を解けた」
それを聞き、紅は目を見開いて驚いていた。
「あり得ない。そんなことーー」
「ーーしたつもりはない、だろ。だが人間というものは不思議なものでね、自分ばかりが優勢な時、無意識的に相手へハンデを上げようとする意識が働く。それによって君は無意識的に私が有利になるように行動してしまったわけさ」
「それが私の敗因ってことか……」
「ああ。この勝負は、私の勝ちだ。だから私の奴隷になってもらおうか」
紅は深くため息を吐いた。
負けるはずがない、そう思っていたからこそ彼女は激しい動揺を見せていた。
「……分かった。奴隷になる」
覚悟を決め、彼女はそう言った。
だが正直、奴隷制度というのは過去を見ても失敗していることが多々ある。それに奴隷制度はよく非人道的だとも言われているしな、私は過去ではなく今を生きている。
なら答えは一つ、私は歴史をなぞらない。
「なあ紅。奴隷解放だ」
「……え!?」
理解に苦しむように、紅は首をかしげて私を必要以上に見つめていた。
だから私はもう一度彼女へ言う。
「奴隷は今をもって解放する」
「えええぇぇえぇぇえええええええ!?」
紅は目を見開き、驚きのあまり大声でそう叫んだ。
「文月、それで良いのか。私は勝手に勝負を挑み、そして負けた。なのになぜ私に何もしない。報復の一つくらいしてもーー」
「ーーそんなものに興味はない。私に奴隷は必要ないからな」
私は紅の目を見た。
彼女は負けたことに悔しさを覚えているのではない、そんな気がしてならない。
彼女が本当に求めているものは何なのだろうか、完璧な私でも、人の心というものはそう簡単には読めない。
だから私は私の願いを叶えるため、ポケットかた一つのコインを取り出した。
「なあ紅、私は頭は良いけど孤独なんだ。だからさ、このコインが犬の絵が描かれた面を向いたら友達になってくれ。もしイルカの絵が描かれた面が出たのなら、その時は親友になってくれ」
「ちょ……」
私はコインを指で弾き飛ばした。
宙で何度も回転するコイン、こればかりはどの面が出るかは運だ。力の調整、角度、風速、そんなものがこの賭けには意味を成さない。だからきっと私は初めて、運、という曖昧なものにすがる。
コインは私の手の中にゆっくりと落ちていった。
私は手を開き、コインを見せた。
面は……犬。
私は思わず笑ってしまった。
紅も吹き出していた。
私は笑みを浮かべながら、紅へと言った。
「紅、私の友達になってくれ」
「私の方こそよろしくね。文月」
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私には友達ができました。
出会いは最低だったけれど、この先共に歩いていきたいと思えるようなそんな友に出会えました。
一人は寂しいから。だから私はもうくじけない。
過去を見るのは、もうやめた。