委員会全面戦争⑥
「決闘委員会委員長?なるほど。ところでそんな格好では、まともに戦えないんじゃないか」
柵を倒され、さらに早乙女女女の登場に少しは焦ったものの、早乙女の姿を見て氷上は柵を踏み、冷静に言った。
それに対し、早乙女は扇子で口元を隠すようにしながら、
「汝、わらわを舐めておるのではないか?」
「その格好じゃどう見ても戦いづらくて仕方がない。その格好で戦場に来るなど、アホだろ」
「貴様、早乙女様に向かって何て無礼な言動を」
「椿、落ち着きなんし」
早乙女は荒れ狂って柵を何度も踏みつけている女子生徒へそう言うと、彼女の荒れていた心は落ち着き、すぐに早乙女の側へ駆け寄る。
「で、早乙女とやら、お前は私と戦えるのか」
「随分と物騒じゃな」
「私は"狂喜の研究者"と異名付けられたこともあるくらいだ。物騒でなきゃそんな異名はつけられないよ」
「お前は狂っておるな。全ての面において」
誇らしげに氷上は言ったことに対し、早乙女は終始扇子で口元を隠し続けながら返答する。
「私の思う狂喜とはな、喜びと狂おしさの間に快楽を見つけることだ。それ以外は狂喜でも何でもない。私以外の狂喜は認めない」
「これが狂喜に支配された人間か。恐ろしい」
まるで蔑むように、早乙女は氷上へ視線を送っていた。
「何だその目は」
「氷上、そなたは狂喜などではない。ただの可哀想な子供だ」
「可哀想?子供?お前、今私をそう言ったな。もう許さねえ。お前は絶っ対ぇ地獄行きだ」
氷上は両手の袖から無数の蛇を出現させた。
「これは私の体内にのみ住み着く特殊な蛇さ。蛇それぞれに特殊な能力がある。ある蛇は火を、またある蛇は水を、またある蛇は電流を、またある蛇は毒を。
私は私自身すらも研究材料にした。その末に得たのがこの蛇たちさ。私はこの子を可愛がってあげているんだよ」
「狂っているな……」
「それが私だ。狂喜の研究者さ。それじゃあ早乙女、まずてめえは死なない程度の毒で侵してやるよ」
氷上は早乙女へと走る。
「焚、宴」
「「了解」」
早乙女の両脇にいた大きな傘を持つ二人の少女はそう返事をし、向かってくる氷上を迎え撃つ。
「雑魚は退いてろ」
氷上は両手を二人へ向けるとともに、黄色と黒の縞模様の蛇の口を開かせた。蛇の口からは黄色染みた液体が放たれ、傘を持つ二人の少女へ飛ぶ。
「麻痺液、痺れておしまい」
しかしその液体が体に触れる前に、二人の少女は傘を広げ、そのまま氷上へと飛び込んだ。
傘の突進に押され、氷上は遠くの壁まで吹っ飛んだ。
「初見殺しの技を防ぎ、そして突進か。随分と面倒くせー動きしやがるな」
起き上がりながら愚痴を吐き、氷上は戦況の不利さに苛立っていた。
そこへ、神代が氷上のもとへと歩いてきた。
「神代、遅い登場だな」
「すまないね氷上。でも大丈夫。ちょうど今外で戦っている落雷から連絡が来たよ。外にいた委員総会メンバーは全滅。すぐに来てくれるってさ」
「なるほど。これで戦況は一気に逆転だな」
氷上は早乙女へ視線を移し、笑みを浮かべた。
「ねえ、結局君たちは変えられない。ただ地べたに這いつくばることだけが、弱者に与えられた特権だ。その権利を楽しめぇ」
傘を持つ二人の少女が氷上へ襲いかかろうとするも、二人の肩を叩き、早乙女は清廉で美しい素振りをして氷上へ扇子を向ける。
「氷上とやらよ。わらわはそなたに怒りを表している。それが分かるか」
「知らねえよ。そもそもそんな格好で私が倒せるか?ぁあ」
「では見せつけてやろう。わらわの武器を」
早乙女は右手を氷上へと向けた。垂れ下がっている袖から見えたのは、小型のガトリング砲。
「何!?」
袖に隠されたガトリング砲は回転し、幾つもの銃口から餅が一斉に放たれる。餅は秒速333mで放たれ、壁や床、天井に張りついた。
氷上と神代はそれらを軽々とかわした。
「さすがは四天王といったところか」
「あまり調子にのるなよ。お前は私よりも下だ」
氷上は右袖から生やす六匹の蛇を一斉に早乙女へ伸ばす。
(伸縮自在の私の蛇は、お前を決して逃がさねぇ)
向かってくる蛇を避けることなく、早乙女は扇子で蛇たちを薙ぎ払った。振り払われるも、蛇は早乙女の方へと戻っていく。それを再び扇子で払い、早乙女は氷上へと走る。
走りながら右手を氷上へと向けた。
「今度こそ終わりだ、氷上」
「私を終わらせる?無理だよ」
早乙女の右袖に隠されたガトリング砲の全ての銃口は凍りついていた。その時、早乙女たちはうっすら寒いことに気付いた。
「何だ、この異質な寒さは」
「私は研究者、これまでありとあらゆる物を創ってきた。私の体から生える蛇は十数種類もあって、それが私が四天王になり得た理由だ。じゃあ今君の銃口を氷漬けにしたのは何でしょう」
「冷気すらも操る蛇か……」
「大正解。"氷蛇"、冷気を自在に操る蛇」
氷上の持つ幾つもの能力に、早乙女は既に翻弄されていた。
氷上の持つ蛇の力はまだあるということ。それが嘘であれ真実であれ、早乙女の深層心理は揺らいでいる。
氷上の力が示された時、早乙女らの背後からとある男は現れた。
「おいおい氷上、なんか寒いけど、まさか氷蛇を使ったのか」
「よ、落雷」
四天王三人に囲まれ、早乙女らは窮地に立たされる。
氷上は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、焦りを表情には見せない早乙女を見下すように視線を向ける。
「さあとどめを刺そう。弱者に、強者からの審判を」
四天王三人に囲まれた。
圧倒的劣勢の中、心境を表情に表すことのない早乙女。彼女は一体何を考えているのか。




