委員会全面戦争④
神原を先頭に、委員総会は城へ突撃を仕掛けていた。
城中にいる部活動総会のメンバーを次々となぎ払い、二階へ駆け上がった。
だがその勢いは長い間続くわけではなく、城のいたるところに仕掛けられた仕掛けに神原らは苦戦していた。
落とし穴や接着剤が塗られた矢のトラップ、捕縛縄が飛んできたり体が痺れるような電流が流れたりと、足止めを受けていた。その上道も狭く、部隊をいくつかに分けていた。
「これすらも奴らのトラップだろうな。私たちを分裂させることで捕まえやすくしているんだ」
神原は罠にはまっていると分かっていても、足を止めることはできなかった。
とそこへ、木刀を握る女性が神原へ向けて振り下ろす。何とか旗の鉄棒部分で防いだが、その木刀と触れ合っている最中、神原の手には電流が流れていた。
「まさかその木刀……」
「おいらの木刀は特殊で、常に電流が流れているでござる」
「お前にも流れるんじゃないのか」
「確かにおいらにも電流は流れるけど、慣れちゃってるから効かないでござる。でも君たちには効く。だからこの木刀で君たち全員足止めでござるよ」
和国は神原を痺れて動けなくしようと木刀を旗の鉄棒部分に押しつけ続けるも、それに神原は必死に耐えていた。
「ええ。そんなに我慢しなくても良いのに。怒っちゃうでござるよ」
「最上最高委員長、暁委員長、彼女は私が相手をする。だから仲間を率いて先に進んでください」
「逃がすわけないでござるよ」
和国は神原のもとから飛び離れ、一本道を塞ぐように立ち塞がる。
「神原殿、どうするのですか?」
神原は旗を強く握り締めた。
「最上最高委員長、暁委員長、あなた方に後は任せましたよ。彼女を足止めできるといってもせいぜい十分ほど。だから振り向かず走ってください」
神原は和国へと歩き出し、旗を振るって窓ガラスを割った。
「まさか、神原!?」
「では任せましたよ」
最後に神原が二人へ見せたのは恐怖を隠すための笑みであった。
神原へ走り出した和国は木刀を振り落とし、神原へと振るう。神原のその木刀を素手で受け止め、強く握り締める。当然腕には電流が流れる。
その痛みに思わず神原は叫ぶ。それでも木刀から手を離すことはなかった。
「和国、ここでお前を止めないと何も変えることができない。それでは私は私を嫌いになってしまうから。だからぁぁあああ」
神原は旗で和国を覆い、割れた窓から飛び降りた。丁度そこには屋根瓦があり、そこを転がり、屋根の下にあった池へと飛び込んだ。
和国は木刀を手離して池に足をついて着地した。
「お主、なかなかの武士道でござるな。見惚れたぞ。だが、自己犠牲などではおいらは止められないでござるよ」
神原は池に倒れたまま、起き上がらない。
和国は神原の握る木刀を掴む。だが、神原の握る力は強く、なかなか離れない。
「気絶したまま掴んでいるでござるか!?」
驚きもつかの間、突如神原は起き上がり、和国の腹へ木刀の一撃が直撃した。
和国は池から足が離れ、地面へ投げ出された。一回転して受け身をとり、すぐに体勢を立て直す。
「生きておったか、神原殿」
池の中から、びしょ濡れになって現れたのは木刀と旗を握り締める神原だ。
「お主、よくまだ意識を保っていられるな」
「当たり……前だ。私は、私はぁ……風紀委員副委員長、神原銀。学園の風紀を乱す貴様らの罪を償わせ、未来を護る責任を背負っている」
「風紀委員としての責任でござるか。随分と大きなものを背負っているでござるな」
「ああ。だから簡単に倒されたら、仲間に顔向けられねぇだろ。だから私は……私は、ったたかうんだよ」
神原は旗を地面に突き刺し、電流が流れている木刀を強く握り締めた。流れている電流は死にはしないものの、十分体を麻痺させるほどこ電力はあった。
だがそれでも、神原はその電流に負けることはない。
「風紀委員副委員長、神原銀、参る」
木刀を握り締めた神原は、素手の和国へ向かって走る。
「先も言ったのだが、おいらに電流は効かぬでござる。それでも神原殿は向かってくるのでござるか」
「それが私の武士道だ」
「見事。ではおいらもとっておきの技で沈めてやろう」
「はああああぁぁぁぁぁああああああ」
神原は叫びながら大地を疾走し、和国の頭部へ木刀を振り下ろした。
「真剣、白刃取り」
振り下ろされた木刀を、タイミングよく両手で挟んで木刀を掴んだ。そのまま木刀を掴んだまま、木刀ごと神原を振り回す。
それでも、神原は木刀から手を離さない。
「え?お主、死ぬでござるよ。たかが決闘で命をかけるなど馬鹿馬鹿しいでござる」
「それでも私は馬鹿で良い」
「お主は面白い。だから死なせぬよ」
和国は手を離し、遠心力によって神原は体勢を後ろに崩した。そこで神原は猫だましをする。神原の木刀を握る手の力は緩んだ。その瞬間に和国は木刀を奪い、神原と距離をとる。
「神原、お前はもうとっくに限界を越えている。体に電気を流しすぎだ」
神原は千鳥足になりながらも、和国へとゆっくりと近づいていた。
「私は……責任を……」
「神原、お前の勝ちだ」
神原は意識を失い、和国の胸の中に倒れた。
「学園附属の病院から救急車を派遣しておいた。それまで私は君の看病をしているから。おかげで足止めくらちゃったでござるな。結局、君の作戦通りだったか?」
神原は倒れた。
敵であった和国は彼女へ敬意を表して、神原を膝枕で看病する。
和国の足止めには成功した。あとは城で戦っている最上たちが屋根に刺さっている旗までたどり着けるかであったが……