委員会全面戦争③
「さあ決闘を始めようか」
落雷は拳を握り、叫ぶ。
その声が響き渡り、神原による玉染の説得により止まった部活動総会の動きは再開した。
全面戦争は避けられない。
それでも、神原はまだ諦めていないのか、真っ直ぐに玉染を見ていた。しかし、恐怖によって上塗りされた鎖はさらに片句縛られ、簡単には抜け出せない。
今、玉染は恐怖の中に捕らわれていた。
「玉染……」
「神原ぁ、お前の相手は俺だ。お前からは危険なにおいがするから最初に排除してやる」
落雷は腕を鳴らし、意気揚々と拳を構えた。
神原は冷や汗を流し、二メートルはある旗を肩に担いで硬直していた。その裏で、頭をフル回転させて策を練っていた。
「俺から行くぜ」
一瞬で真正面まで近づいてきた落雷は、素早く重い拳を神原へ振るう。それを旗をつけている鉄棒の部分で受け止めた。が、それをもろともせず、落雷の拳の一振りで神原は少しの間浮くほどに吹き飛んだ。
(これほどのパワー……この男は野放しにはできない)
神原は冷や汗をかきながらも、落雷の前から退きはしない。退けば、多くの者が落雷の暴力に犠牲になる。
「やっぱまだ全力は出ねえな。文月とやりあった時は全力でやってボコされたからな」
(この男を凌駕する強さ、文月とは一体何者なんだ)
「神原、このままじゃお前たちは時間切れの前に全滅だぜ」
「ちっ……手詰まりだな」
まだ策はあったが、その策はこの状況で発動しても落雷をどうにかしない限りは無意味なものであった。
神原は焦る中、体育委員会委員長、獅子堕餓壟天夢はタンクトップ姿で落雷の前に立ち塞がった。
「獅子堕、何のつもりだ」
「神原、あんたには拳と拳の殴り合いは向いてねえよ。だから落雷の相手は俺に任せろ」
獅子堕は筋肉によってピチピチのタンクトップを落雷に見せつけるかのように全身の筋肉に力を入れる。
「お前、ちょっと面白いな」
落雷は楽しそうに微笑み、拳を構えた。
「獅子堕、任せたぞ」
「神原、こんなところでつまずいていては話にならない。この決闘で奴らの支配から解放されるためには、お前の力が絶対に必要だ。最上とともに勝利へ導いてくれ」
「ああ。任せろ」
神原は旗を掲げ、委員総会のメンバーらへ叫ぶ。
「お前ら、私が道をつくる。だから私についてこい」
神原のその声に、委員総会のメンバーらは手を振り上げて叫んだ。
士気は完全に戻った。
「さあ行くぞ。私に続け」
神原は先陣をきり、旗を振り回して部活動総会のメンバーを次々と吹き飛ばしていく。そしてとうとう扉の前にたどり着く。
「行かせないよ」
玉染が神原の前に立ち塞がる。しかし旗のひと振りが直撃し、玉染は神原によって倒された。
たった一瞬、刹那に消された玉染を見て、委員総会メンバーの士気は更に高まっていた。
「すまんな玉染、だがお前が起きた時はきっと支配から解放されているから。今は眠っていろ」
扉を蹴り飛ばし、神原は城の中へと入った。
「突撃だぁぁぁあああああ」
「「「「おおおおおおおおおおおお」」」」
委員総会の威圧に、部活動総会は圧倒されていた。
がむしゃらに走る彼女の背中に誰もが歓喜する。今、神原が率いる委員総会は城へ突撃を仕掛けた。
それを監視カメラの映像を見て玉座に座る文月は知った。
「先頭を走るのは最高委員会委員長、最上でもどっかの委員会の委員長でもない。ただの副委員長、神原銀か」
感心する文月のもとへ、氷上がゆっくりと歩いてきた。
「文月っち。和国っちが侵入者を止めるって言ってどっか行っちゃった」
「相変わらず和国は」
文月はため息を吐いた。
「和国は天然だからなあ。あいつを一人にさせるのは心細いが、一応和国は城中に仕掛けを仕掛けてくれている。氷上、神代だけは和国のように先走らせるな。
城のてっぺん、つまり最上階の屋根の上に刺さっている旗にまでたどり着かせなければ我々の勝ちだ。神代は最上階の一個下の階である三階の警備から離れさせるな」
「分かったにょーん」
氷上は唇を尖らせ、蛇のような目付きで言った。
「文月っち、あと一つ言い忘れてたんだけどさ、手紙来てるよ」
「手紙?」
氷上から受け取った手紙。それは確かに文月宛ての手紙だった。
その手紙を送った相手とは……。




