委員会全面戦争①
ーー八月三日午後六時
生徒会が落とされたことで、私立月虹学園、そしてその学園に附属する四つの学園に存在する全ての委員会が一同に集まり、会議を始めていた。
委員会は立場的には生徒会の下に位置している。だがその生徒会が落とされたとなれば、委員会がどのような運命を迎えるかは雲行きが怪しい状況であった。
そう思われたのは、昨日のことだ。
その日の出来事を、最高委員会の委員長である最上劉全は皆に話し始めた。
「これは昨日のこと、生徒会の下には二つの組織が存在している。一つは我々委員総会、もう一つは部活動総会。だがしかし、部活動総会を統率する最高部のメンバーが集められた」
「誰にでしょうか?」
「呼び出したとされるのは、現生徒会副会長、氷上だ」
「ということは文月絡みか。面倒ですね」
風紀委員長、暁魔道は面倒くさそうに言った。
「呼び出された最高部のメンバーは既に全員文月の奴隷だ。さらに最悪なことに、最高部の意見にはほぼ全ての部活動は逆らうことができない。逆らえば部費がなくなる」
「それではどう対抗すれば良いのですか……」
図書委員長、皇桜夜は頭を抱える。
しかし最上の目にはまだ諦めはなかった。その目には希望が光っている。
「ではこうしましょう。全面戦争です」
「ちょっと待て。相手はあの全知をも倒した最悪の存在。その上部活動総会の勢力を配下に従えている。たとえ我々委員総会の勢力で立ち向かっても勝てるかどうか分かりません」
交通委員長の轟はそう強く言い、最上の提案を真っ向から否定した。
しかし、最上はいたって冷静に言葉を返す。
「では、これ以上文月の勢力拡大を見て見ぬふりをしておくのですか?それはいささか怠惰ではありませんか」
最上の意見は最もであった。
もしこのまま何もしなければ、文月によって学園の大多数の勢力を乗っ取られる。それでは何もできずに学園は乗っ取られるということだ。
それだけはこの場にいる誰も避けたいことであった。
誰も反対意見は言わない。
「では明日の午前零時、全面戦争を仕掛ける。現在文月は十器聖のいた城にいるらしいからな。すぐに準備をしておけ」
そう言い、最上は立ち去った。
最上の全面戦争発言に、その場にいたほとんどが動揺していた。その中にも、一切動じていない者はいた。
「委員長、全面戦争って……最上さんは何をするつもりなのでしょうか?」
副風紀委員長の神原は、風紀委員長の暁へ問う。
「さあな。だが分かることと言えば、最上が最高委員会の委員長になったのは、容赦ない性格とその残忍さ故だった。もしかすれば、この戦いで誰かが死んでもいいと思っているかもしれない」
「死ぬって……そんなのこの学園では禁止事項ですよ」
「身代わりを立ててきたんだろうな。実際、奴によってこれまで何人もの生徒がこの学園から消えたのは事実だ。あの男はそういう男だ」
暁は立ち上がり、背後にいる神原の方を向く。
「神原、零時までに風紀委員を少しで良いから集めておけ」
「少しで良いのですか?」
「ああ。この全面戦争は、何か妙な胸騒ぎがする」
不吉さを滲ませる全面戦争の前夜。
この全面戦争で何かが起きるとでも言うのだろうか。
ーーその頃、文月のいる城では、
先ほどまでの委員総会に参加していた"とある者"は、玉座に腰掛ける文月の前で膝をついていた。
「文月様。六時間後の零時、委員総会はこの城へ全軍で突撃を仕掛けます」
「そうか。これで最高委員会を倒し、委員総会の権力すらも握れば、この学園の三分の一は私のものになるというわけだ。良いじゃないか。支配に一歩近づいたじゃないか」
文月は不適に微笑み、これから全面戦争を仕掛けようとしている委員総会を嘲笑うかのようにして、城から学園を見下ろす。
「天下統一を成し遂げた暁には、お主をそこそこに良い身分にしてやろう」
「ええ。ありがたき幸せです」
「さあ手始めに委員総会を支配しよう。全ては私のものだ」