最後の決闘、文月VS全知③終
「文月、お前は少しやり過ぎた」
宿木は文月の首へ拳を振るうーーがそれを寸前のところで文月は止めた。そして宿木の手に握られている物を見て、文月は笑みを浮かべる。
「注射器ですか。私を眠らせようとしているのですね。だけどあなたに勝ち目はない」
宿木が持つ注射器を奪い、それを床に投げて踏みつけた。
壊れた注射器からは液体が染み出る。
「麻酔ですか。まあ、私には効きませんけど」
文月は拳を構え、宿木へ身構える。
「宿木先生、この学園は貰っていきます」
「何をするつもりだ」
「支配するだけですよ。この学園を、私の中に眠る全ての力で。全てを支配し、私は王になる。王にね」
文月と宿木の戦いが始まった。
十歳ほど歳上の宿木にも、文月は退くことを知らず攻めていく。飛び蹴りや打撃、何度も攻撃を重ねるが、その全てを宿木は防ぎきっていた。
しかし全知と同様に、防ぐだけで攻めきれない。
まるで獣のような獰猛さ、宿木ですら遊ばれているようだ。
圧倒的すぎるが故、文月には敵わない。そう思っていた。そう思えざるを得なかった。
「強すぎる……」
「それが私だ」
文月の蹴りが宿木の脳天へ直撃する。その一撃は重たく宿木へのし掛かり、激しい一撃となって宿木の体勢を破壊した。
忍者のように着地した直後、宿木の腹へ拳を振るう。だがその腕は宿木に掴まれた。
ーー名門に産まれたが故、名門の名を背負わなくてはいけない。本当に苦痛だ。だが、今の私の背中を押してくれる。
「たった一瞬の好機、この時を待っていたよ」
宿木が体勢を崩しているから故、文月は自身の体勢が整う前に攻撃を仕掛けた。だがそれが隙をつくった。ほんのわずかな隙を。
文月を床に押し倒し、両腕を右腕で掴んで縄で縛りつけた。身動きがとれなくなった文月の首にかかる髪をはらい、隠し持っていた注射器を取り出すーー
が、宿木が隠し持っていた注射器を取り出そうとするも、いつの間にか文月に奪われていた。
動揺に駆られる中、足で胴体を掴まれ、そのまま文月に背後に回り込まれた。文月は強靭な力で縄を破き、その注射器を首に打たれた。
「終わりだ」
宿木は眠りについた。
勝利した文月は息を切らしつつも、その場にいた者たちへ告げた。
「敵は倒した。無敵の私に挑もうとする者はいるか?それほどの勇者はいるか?」
その場にいた者は全員沈黙する。
文月の威圧に圧倒されているからだ。
「いねえよな。ならばこれから、この学園を支配していこう。私が望む学園に」
文月は狂喜の笑みを浮かべ、皆へそう宣言した。
そのおぞましい表情を見て、紅は言葉も出ずただ固まっていた。
「では覚えておくと良い。この学園の支配者は私、文月京となった」
その日、文月はもうひとつの人格に支配された。
十器聖編、閉幕。