最後の決闘、文月VS全知②
文月と全知の戦いは、激しさを増していた。
互いに多くの傷を負っており、痛々しい光景が広がっていた。全知も文月も息を切らし、それでも二人はぶつかっていた。
拳と頭、腕と足、周囲にいる者たちは二人の速さについていけず、呆然とただ見ていることしかできなかった。
「ぐはっ」
蹴りが全知の腹に炸裂する。嗚咽をもらし、全知は軽く足が地面から離れる。そこへすぐさま文月が腕を振るう。その拳を両腕で受け止め、一旦距離をとる。
「逃がすか」
距離をとったが休憩する間もない。文月の激しい攻撃が続く。全知はひたすら防御に徹し、攻撃を受け続けていた。
「全知、その程度か」
「お前……想像以上にやばい人格だったのかよ……」
「私は小学生の頃に暴行事件を起こしている。それからどうなったかは知らんが、まあ全治一年はかかっただろうな」
「やっぱお前、狂っている」
「私は狂っているよ。それほどまでに私は、ぶっ壊れているんだ。だからこれから君を殺すよ。もうこの体は私のものだ。だから全知、さようなら」
回し蹴りが全知の脳天に直撃した。全知は白目をむき、倒れる。
そんな全知に文月は拳を振るう。
既に全知は意識を失っていた。
しかし、文月は未だに全知へ拳を振り下ろす。これでは冬待の言っていた通り、全知は死ぬ。
それをいち早く察知し、紅は飛び出した。
「紅!?」
木栖美入たちは止めず、紅を見ていた。
「文月、それ以上やれば」
文月の腕を掴んだ紅、だがその瞬間に文月は紅の腕を掴み、吹き飛ばす。
「邪魔をするなよ」
文月は紅へ向け、冷酷に言った。
「文月、私は紅だ。私は、」
「は?知らねーよ」
文月は友であるはずの紅を見ても何の変化もなかった。むしろ決闘を邪魔され、腹を立てているようにも思えた。
もう文月は戻らない。
そう誰もが思っていた。それは友達に冷酷なことを言われた紅も同じだ。
全知を何度も殴る文月。その光景は地獄絵図。
とっくに痛みを感じる神経も効果を失っている。そう思わされるほどに悲惨な光景であった。
「こうなったら仕方ないな」
冬待はスナイパーライフルを取り出し、銃口を文月に向けた。
「冬待、何をする気?」
「安心しろ。麻酔弾を撃つだけだ。このまま放っておけば全知は殺される」
冬待は文月の首目掛け、弾丸を放つ。放たれた弾丸は文月の首へと進む。その速さは人間では捉えることができない。それも背後からならば……。
次の瞬間、冬待は驚き、固まった。
それは人間では不可能なことをした者がいたからだ。背後から放たれた弾丸を人指し指と親指で掴むという神業を成し遂げた者がいたからだ。
「嘘だろ!?あの速さだぞ」
文月の手には弾丸が握られていた。
「また君たちか。邪魔をしないでと言ったはずだよね」
文月は手に持つ弾丸を冬待へ投げた。その速さはスナイパーライフルから放たれた時とほぼ同じ速さ。
避けることもままならない、だが弾丸は冬待に当たる前に止まった。それは、その弾丸を文月と同じように素手で掴んだ者がいたからだ。
「随分と騒がしくなっていると思ったら君か。文月京」
「宿木先生!?」
ヒーローのように登場したのは、何を隠そうこの学園の教師ーー宿木糧波だ。
「後は全て私に任せろ」
宿木は堂々と文月の前に立ち、そして言った。
「お前の専属教師として、私がお前を裁こう」




