対決、優等生VS優等生②
一時間後、私は体育館へとやってきた。
そこには問題を用意していた彼女が既に待機していた。
「逃げずに来たか。新入生」
「あまり私を舐めるなよ」
私は作ってきた百問の問題が書かれたプリントを彼女へと差し出した。彼女はそれを受け取り、内容を見た。
「舐めているのはお前の方じゃないか」
そう彼女は言った。
私が彼女へ渡したプリントにはかけ算と割り算の問題しか乗っていない。言わば数字を覚えるだけの簡単なリフティングだ。
「私への問題は?」
「ほら。百問作ってきた。それも全て中学三年生レベルのね」
私はそのプリントを受け取ったと同時、固まった。
ーーそれもそうだ。
私はまだ年齢で言えば中学一年生、中学三年生の問題などやっているはずのない年齢である。
「どうした?なぜ固まっている?」
明らかに彼女は笑みを溢している。それも悪巧みをしている小悪党の顔だ。
「私は一言でも言ったか?お前のレベルに合わせて問題を作ると」
彼女は傲慢に浸っていた。
それも二年分、という遥か高みからの見物を。
「君の容姿や髪質、体型や言葉遣い、それらから導きだした答え、それは君がまだ中学一年生に成り立てであるということ。違うかい?」
「なるほど。私の言葉遣いからも中学一年生だと分かったか。なるほど。君はあれだな。ほら、あれだよあれ」
「何を言っているかさっぱり分からんが。言葉が出ないのなら早く問題を覚えた方が良いぞ。覚える時間は十分、まあそれまでに解ける問題があるのなら解いた方が良いと思うけど」
全てが傲慢だ。
私は彼女の態度に腹が立っていた。
傲慢すぎるが故、私が心の奥底に封印していたはずの憤怒を甦らせた。
「私はお前の作り上げたフィールドの上で勝ってやる。百点満点、私は百点満点以外を取るつもりはない。だから、後悔しても遅いぞ」
「なら暗記の時間は百秒にしてあげるよ。一問一秒、私のフィールドの上で戦うのだ。それで足りるだろ」
「ああ。私は君のフィールドの上で勝つ。一問に一秒もあれば十分だ」
「では、暗記時間の計測は私が行います」
そう言い、一人の女性が私の前に姿を現した。彼女は明らかに大人、ということはだ。
「私はこの学園の教師、宿木糧波です。平等な判断の下、私が勝敗を裁きましょう」
スーツ姿に魅力的な女性。真面目そうな雰囲気と合間ってクールな印象を受ける。
彼女は手にストップウォッチを構える。
「ではまずは紅が先に行う。暗記時間、始め」
宿木へ言われ、彼女は私の出したプリントへ目を通す。
その間、僅か三十秒。
「この程度の問題に、百秒もいらないよ。じゃあ満点を取ってしまおうか」
彼女は自信満々にそう言い放ち、床に転がっているサッカーボールを踏む。
「では紅、リフティングを始めろ」
彼女はボールを蹴り、器用にリフティングを始める。
一度蹴る度に彼女の口から出る言葉は数字のみ。そして既に百回のリフティングを終えていた。
「紅、間違いはなし。全問正解だ」
「当たり前ですよ、宿木先生」
宿木は彼女の言葉を無視し、私へ視線を送る。
「では次は文月の番だ。暗記時間、始め」
私はプリントへ目を通す。
だが問題を見ている最中に気づいた。問題の多くが中学三年生の間に出てくる問題、それはいい。だが問題は、多くの問題の答えが長いということ。
この決闘のルールはリフティング一回の間に問題の答えを言う。つまりは答えが長ければ長いほど高くボールを上げなければいけない。
だが一度勝負を挑んだのだ。負けて良いはずがない。
私は完璧でなくてはいけない。完璧で有り続けなければいけない。
一問足りとも答えられないなどということはあってはならない。
私は問題の答えを一秒もかけずに頭へ叩き込む。答えが分からない問題は問題を覚え、ひとまず後だ。
法則性を見つけろ、自分自身で法則を作り出せ。
今私の記憶を司るアカシックレコードの扉は開いている。全ての問いの答えをその法則性から逆算し、そして叩き込め。
この一瞬だけで良い。数分後には忘れていても構わない。
この一瞬だけでも、私は完璧で有り続ける。
それが私、文月京だ。
百秒経過。
暗記時間はもう終了か。
「では文月京、リフティングを始めろ」
私はサッカーボールを前に深呼吸をして息を整える。
ああ、ここで私の満点伝説は終わってしまうのだろうか。
ーー否、伝説はまだ始まったばかり。
「紅って苗字だったんだな。お前」
「君こそ、文月という苗字だったとは初めて知ったよ」
「ではお前の記憶に深く刻んでおけ、紅。文月京、私に負けたという悔しさを」
私は高くボールを蹴り上げた。
第一問『私はこの勝負で百点を取るつもりだ。この文を英訳せよ』
「I will get 100 points on this battle」