策の激突、戸賀狂嫁VS霞ヶ崎小雪④
「文月、蒼と紅は恐らく敵と交戦状態にあるだろう。だがこのタイミングで電波障害。ここジャングル全域の電波が全て途絶えた」
「ここまでしてくるとは思わなかった、が、卓城がスパイとして入っていたからこそ、ある程度の対策はできているーーが、それも諸刃の剣、そこまで役に立つかは不明だ」
私と霞ヶ崎は、ジャングルの最端で策を練っていた。
「一応見つからない程度に旗の周囲に待機させることは伝えておいたが、敵の全軍がそこに押し掛ける可能性もある。敵は梓沼計、十器聖ならば、そのようなこともやってのけるだろうからな」
「されて嫌なことを平気でやってのけるでしょうね」
「敵の数は未だ未知数、とはいえ、最低百はいると卓城は言っていた。つまりは敵の全滅はほぼ不可能」
「暴走族の仲間も来れないようだし、ひとまず旗を見つけられれば良いけど、電波障害が起きている以上はどうにもできない。これに対抗するには……」
霞ヶ崎が言葉に詰まっている。
そこで私はある策が思いつき、彼女へ言った。
「なあ霞ヶ崎、私は敵の本拠地へ乗り込んでくるよ。そこで電波障害を起こしているものを見つけて止めてくる」
「それって凄く危険じゃ……」
「大丈夫。私は一応頭だけでなく運動神経も十器聖を上回る。だが私がここから離れるということは作戦の指示は全て霞ヶ崎に委ねるということになる。良いか?」
「うん。任せておいて」
「じゃあ後は頼んだぜ。生徒会長の座、守り通すんだろ」
そう言い残し、私は拳銃型のペイント銃を両手に構え、ジャングルの中へ駆け出した。
意外にもまだ私たちの陣地の周辺には敵はいないようだ。さすがにこれほど拾い場所となると、どれだけ数が多くとも一苦労なのだろう。
しばらくジャングルを走っていると、ようやく一人目の敵が見えた。それも一人ではなく十人ほど。
「初っぱなからついていない。まあ、私の相手にはならなそうだけど」
私は拳銃を両手に、ジャングルを駆ける。そこでようやく気付いたのか、一同に敵は私へ銃口を向けた。
敵の持つペイント銃は全てマシンガン型だ。連射が厄介だが、私は敵が引き金を引いたと同時、連なる木々を足場として地面から十メートルほど高く飛んだ。
「さてと」
頭上より、私は引き金を引く。
青いペイント弾が彼らへ目掛け放たれた。それらはまず敵二名を青く染め上げた。残り八人は後退しつつ、私へ発砲を続けている。
私も下がろうと思ったが、ここで引き下がっては敵に体制を立て直されるのみ。それではここを突破するのに時間が掛かってしまう。
「これを使ってみようかな」
彼らへ向けて、私は手のひらサイズ程の球体を投げ飛ばした。それが地面へ落ちた瞬間、その球からは青いペイントが錯乱する。
「ペイント爆弾。二つしかない内のひとつを使ってあげたんだ。ちゃんとやられてくれよ」
ペイント爆弾により、残り八名の内六名が青いペイントに染まった。そこへ私は青いペイントの水溜まりを踏みつけ、残り二名の腹へ拳銃を向けた。
「ゲームセット」
引き金を引くとともに、男二人の腹は青色に染まる。
「さてと、こいつらは本拠地の手がかりになるようなものを持っていれば良いけど……」
などと考えながら男たちの荷物を漁っていると、地図らしきものを隠し持っているのを見つけた。
その地図には旗の場所や自分達の拠点の場所が記されていた。
「なるほど。戸賀が決闘の場所をここに設定したのはそういうことか。それならば納得だ。にしても、反則スレスレじゃないのか。これは」
だがこれさえ手にいれれば戦況は覆る。
よし。あとは奴らの本拠地に乗り込んで電波障害を起こしている機械を止めないとな。
にしても、ここまで用意周到だとは思いもしなかったよ。
地図で記されている本拠地の周囲には、見張りや護衛のような者はいない。それどころか一見ただの木のようにも見えるその場所に耳を当ててみると、確かに声が聞こえてくる。
「ここか。奴らの本拠地は」
私は残りひとつとなったペイント爆弾を片手に、もう片方の手にはペイント銃を握って入り口を覗いた。
そこには幾つもの機械が置かれている。私はその全てのスイッチをオフにしようと手を伸ばす。だがその直後、後頭部に銃口を当てられた。
「まさか……」
「旗の位置を記した地図を作っておくなんて、そんな反則スレスレのことはしないよ。ただ君を誘き寄せるためだけに作った偽りの地図なのだから」
「梓沼計、それがお前の策略か」
「正解。文月」
やはり背後にいるのは梓沼計らしい。
「君さえ倒しちゃえばもう俺たちの勝ちは確定。つまり君の敗北が俺たちの勝利の確定演出になるというわけさ。さよなら。文月京」
引き金は引かれた。
私の頭部は赤いペイントに染められた。