対決、優等生VS優等生①
この学校に入ってから早五日。
敷地内にある大まかな施設も覚え、私は一人巨大な図書館にて歴史について書かれた本を読んでいた。
そんな私のもとへ、私より一つ二つ歳上っぽい少女が歩み寄ってくる。彼女は私の許可無しに隣へ座る。
「ねえ、あなたの噂、聞いたわよ」
まだ幼い容姿にしては妙に色っぽい声。
その声を有する彼女は私の読んでいる本を取り上げた。
「何をする?」
「良いじゃない。少しあなたと話がしたいと思ったのよ。成績優秀スポーツ万能であるあなたと」
「良く理解しているじゃないですか。私が成績優秀者だと」
「そもそもこの学園に入れただけでその者は逸材。だけどどの学園にもカーストがあるように、たとえ満点同士でもカーストはある。あなた、私の奴隷になりなさい。この学園にはあるゲームがある。それが"決闘"。ルールは自由、そこで私はあなたへ勝負を挑みたいと思っているのだけれど、駄目かしら」
色気のある視線を送り、彼女は私を見ている。
だが当然、私の答えは、
「No。是非とも断らせてもらうよ」
戦う理由がない。
そもそもこの学園に入った時点で勝ち組であることは確定している。それでも尚上下関係をつけたいなどとは愚の骨頂、あまりにも強欲すぎる。
やはり人間の欲求である傲慢さは消えることはないのだろう。
相変わらず人とは愚かな生き物だ。だが当然その中に私も含まれている。
上下関係、奴隷……
立ち上がり、去ろうとした彼女へ私は言う。
「やはり受けよう、その決闘とやらを」
「ほう。受ける気になったか」
「いいや。ここで断ったところで、君はまた私に勝負を挑んでくるのだろう。ならば今断ったところで意味がないじゃないか。私は君の決闘を受け、そして容赦ないまでに潰してあげよう。私の全力を見て感服させてやる」
「では決闘内容はここに書いてある。読んだ後、ここへサインしてくれ」
彼女はペンと紙を差し出してきた。紙には重要となる決闘内容について書かれているが、私はその内容を見ずにペンを握ってサインを刻む。
「これで良いか」
「内容は見なくて良いのか?」
「ああ。見なくとも十分に理解しているつもりさ。これまでの君の言動から察するに、スポーツと頭脳の複合させた競技での対決だろ」
「良く分かったね」
「最初にお前は言っただろ。成績優秀スポーツ万能であるあなた、と。その時点でおおまかなことは理解した。君は私と頭脳と運動神経で競いたいのだと」
「鋭いな。だが種目の内容を見なかった時点で君の負けは決している」
彼女は笑みを浮かべている。それも何か企んでいるような裏のある表情を。
それに不信感を募らせた私は、ふと決闘内容が書かれているプリントへ目を向けた。そこに書かれていた内容を見るや、私は思わず動揺をした。
「リフティング……!?」
「ああ。私は君へリフティングで勝負を挑もう」
「…………」
私は何と返答をすれば良いのか分からなくなっていた。
「ルールは簡単。リフティング一回の間に出された問題を答える。だが問題をそんなにも早く出せるはずがない。だから問題内容はあらかじめ提示されているためそれを覚え、その上でリフティング一回につき答えを言う。相手へ出す問題は対戦相手が決める」
私はその説明を聞きながらプリントを眺めていた。
「問題数の限りは百問か。お互い百問答えた場合は?」
「その時は君の勝ちで良い。まあ無理だろうが。決闘は一時間後、互いに百問の問題を作ってくること」
「楽しみにしておくよ」
「勝つのは当然ーー」
「「私だよ」」
彼女は立ち去った。
この学校に来てからずっと面白味を感じていなかったが、ようやく面白いと思える相手に出会えた。
私はどこか楽しみにしている。彼女と戦える、その時を。
「満点を取れるような問題を作って上げよう。そのくらいのハンデはないと、私が意地悪な奴みたいになってしまうからな」