白熱の生徒会選挙④
謎の少年との決闘が始まってから十分、戦況は五分五分といった感じだろう。
どちらも同じように駒を取られ、どちらも同じように追い込まれている。
紅が囚われていた際に戦った黒マスクの少年よりかは何倍も強い。こちらの動きを読み、そしてそれに対抗する一手を繰り出す。まさに悪魔の如く。
手強い。
これほどまでに強いと感じた相手は初めて……違ったな。この学園に来てから、頻繁に強者と戦っている気がする。
全く、この学園に来てから、私は最高に楽しんでいるな。この学園での生活に。
勝負も大詰めとなり、互いの駒は互いにキング、ポーン、ナイトだけとなった。
「チェックメイト」
キングを狙うようにナイトが構えている。私はポーンで塞ぎ、そこへナイトを進めさせた。ポーンは取られたが、それと同時に相手のナイトも取った。
これで戦況は私が有利となった。だが次の瞬間、神の一手とでも言おうか、引き分けに持ち込めるような一手が打たれた。
「このままでは勝てない……」
考えている中、突如扉が開けられ、そこから姿を現したのは十器聖の頂点に座する者ーー全知全夢。
彼は真っ先に少年を睨み付け、言う。
「こんなところで何をしているのかな。"暗黒"」
「全知、久しぶり。こうやって真正面から会ったのは何年ぶりだろうか」
「さあな。だが暗黒、僕の学園を滅茶苦茶にしようとしたんだ。当然、報いは受けてもらうよ」
「君こそ私の大事な決闘を邪魔したんだ。もう少しでステルスメイトで引き分けだったのに。まあ良いや。全知、この生徒会選挙で誰一人として勝たせない」
「生徒会選挙自体を潰すつもりか」
「その答えはもうすぐ分かる」
「それがお前がこの学園へ転入した理由か」
「見ていなよ。きっと君の退屈は、少しは取り除かれると思うけど」
六月二十九日。最終選挙前日。
学園内を駆け巡るほどの事件が発生していた。
生徒会長候補者全員の悪行が学園のいたるところに貼られていたのだ。それもその九割が偽りであり、作られた嘘であった。だが嘘を嘘と見破れない者は多く、選挙自体へ不満を持つ者が多くなった。
「全知、これは……」
「ああ。さすがに予想外だ。あの戸賀でさえ、今回ばかりはお手上げらしい。まあ僕がこれをされても、さすがになす術がないしね。一度信用がねじ曲げられれば、その信用を取り戻すことは難しい」
全知と宿木は現状に頭を悩ませる。
これでは誰が当選したところで苦情がくるだろう。それもこれほどの者が生徒会選挙へ異議を申し立てているのなら尚更だ。
殺伐とする生徒会選挙。
今日という日の終わりまでは生徒会長へ立候補する者を受け付けているが、これほどの批判の中で立候補する者は誰もいない。
全知はこの圧倒的劣勢な状況を生み出した暗黒の言動を思い出し、苦笑する。
「どうした?」
「いいや。僕たちはこれからもっと地獄に叩き落とされるだろうと思ってさ」
「それはどういう意味だ?」
「暗黒は言った。この生徒会選挙では誰一人勝たせないと。ではなぜこのような状況を生み出したと思う?」
「生徒会選挙自体を潰すことで、この学園自体を崩壊させたい、というのが奴の狙いだと思うが。それにこの状況では生徒会長には誰も選ばれない可能性が高い」
「確かに暗黒はこの学園を潰したいのだろう。だけどこの学園には生徒会に並ぶ勢力として僕たち十器聖がいる。この学園が崩壊するかは曖昧だ。ではどのすれば確実にこの学園を滅ぼせるか。それは恐らくーー」
ーー六月三十日。
四人の立候補者が会場に集まった。
今日は生徒会選挙最終日。
そして今日、生徒会長が決まる。それとともに副会長や書記など、生徒会メンバーが新規に決められることとなる。
前生徒会メンバーは、用意された控え室、そこにあるモニターで会場を見る。
「ねえねえ青黒薔薇、誰が生徒会長になるのかな」
「副会長や書記などは、大まかな予想はつけられる。だが生徒会長だけは別だ。学園中に広められたあの噂がデマであったであれ、現在の状況では生徒会長だけは誰になるかは分からない。もしくは決まらないということもあり得る」
「ということは、」
「ああ。最悪の場合、生徒会自体がなくなる可能性がある」
「それってまずいよね」
前生徒会副会長ーー白峰は生徒会に迫る危機を理解し、動揺する。
前生徒会生徒会長ーー青黒薔薇はそれを解りつつ、何もできない状況でただ静かにモニターを眺める。
「仕方ない。今は奴らに託すしかない。全ては、奴ら次第だ」
前生徒会が不安を募らせる中、会場に集まった四人の生徒会長立候補者へ多種多様な視線が送られている。
「皆、静かにせよ。これより生徒会選挙を始める」
宿木はざわつく会場を静め、話を続ける。
「まずは生徒会長の部を始めるーーが、ここでひとつお知らせだ。生徒会長へ新たに一人立候補することとなった」
その説明とともに、一人の少年が会場へ姿を見せる。その少年を見て、霞ヶ崎や辞退していった元立候補者はその少年を睨みつけた。
「なぜお前が」
少年はその視線を気にすることはなく、会場に立ってマイクを持って言う。
「皆さんはじめまして。私は先週この学園へ入学したばかり暗黒、そしてこの生徒会選挙にて生徒会長に立候補することに致しました。
ーーこの学園に革命を起こすために」