盤上の対決、仕組まれた一手④終
文月たちが去った後、そこへ一人の少年が現れた。その少年を見て、先ほど文月にチェスで敗北した少年は目を見開いて驚いていた。
「お前は……全知!?」
全知全夢、彼は驚く少年を見て、落胆する。
「なんだ。暗黒じゃなかったな。久しぶりに会えると思ったんだけど」
「全知、なぜお前がここに……」
「君と構っている暇はないんだけどな」
「僕と勝負しろ。チェスで、僕と」
感情的になりすぎたあまり、息を荒げて少年は言っていた。
その少年を見下しながら、全知は呟く。
「お前は俳優か何かか?でなければそこまで感情豊かに反応はしないだろ」
挑発紛いに全知は少年へ呟く。
「駄目だ。僕とチェスを、勝負を」
「嫌だよ。お前と戦っても僕にメリットはない。だからさ、大人しくしてくれるかな。今、少しイラついているから」
全知は鋭い目付きで少年を睨み付けた。それに震え、少年は身を縮めた。だが文月と繰り広げたであろう盤面を見て、全知は呟く。
「お前、文月から駒を七つも取ったのか。だがそれに対し、駒を全て取られている。だが七つも取ったんだ。そこそこに実力はあるのだろ」
「なら僕と勝負を」
「良いけど、秒で終わるよ」
それから六十秒、圧倒的な戦法に少年はなす術なく敗北した。
たった六十秒、およそ十手ほどしか繰り広げられていないにも関わらず、まるで誘導されたように駒を動かし、敗北した。
全知の恐ろしさを身に染みて感じ、少年は椅子から崩れ落ちていた。
「帰ろうかな。君たちさ、次僕の街で暴れたら、○すから」
その目には殺気が込められていた。
少年は震え、立ち上がることすらもできない。全知はその少年を面白がりながら振り返り、帰ろうと足を進める。そこで扉のすぐ近くに立っていたゴリラの仮面をつけた男を見て、全知は足を止める。
「ねえ、こんなところで何してるの?」
「何のことでしょうか。ウホッ」
「まあ良いや。次会ったら、また話そうよ。昔みたいにさ」
そう呟くと、全知は去っていく。
彼が去ったのを確認すると、ゴリラの面を被っていた男は少年へ歩み寄る。
「黒金、分かっているとは思うけど、また暗黒街からやり直してもらうよ」
「僕は、まだ僕は」
「失敗した者の言うことに二度も耳を傾けると思うなよ。世界とは不条理なほどに平等だ。力ある者が生き残り、力のない者は淘汰される。そして君には力がなかった。当然の結末じゃないか」
「相手が悪かっただけだ。次こそは、もう一度チャンスを。僕は、僕は……」
「どこまでも弱者は強欲だな。だから私は君たちを軽蔑し、嘲る。弱者は地べたでいつまでも這いつくばってなよ。自分の弱さを哀れみながら、恨みながら、悔やみながら」
ゴリラの面を被った男は見下すように、嘲るように、呟くように言った。
黒金、そう呼ばれた少年は地に手をつけ、落胆するように深いため息を吐いた。
(再びあの闇へ戻るのだろう。
あの暗い世界へ戻ることになるのだろうか。
ああ、もうすぐ日の光を浴びれると思っていたのに、もうすぐこの暗黒の世界から解放されると思っていたのに。
いつまで僕は、囚われ人を演じ続けなければいけないのだろうか。)
「お前ら、黒金を暗黒街へ連れていけ。当然序列は剥奪だ。最下位から頑張れよ」
少年は冷たい視線を周囲から向けられる。
黒金は絶望も悲しみも苦しみも怒りも、無数の感情が抱かれ、そのひとつひとつに黒金は哀れみを、恨みを、後悔を…………
「さようなら、敗北者よ。弱者の存在は我々には不要だよ」
黒金は男たちに取り押さえられ、車の中へと運ばれていった。そしてその車は向かう。暗黒街という、謎の街へと。
彼が去った後、黒金はわずか六十秒で決着がついたその盤面を眺めた。
「さすがだな。全知」
その少年は仮面を外し、そして呟く。
「早くまた戦いたいな。全知よ」




