流鏑馬!起死回生の一矢⑧終
私たちは馬暗との戦いに勝利した。
十時間以上にも渡る決闘の末、勝利した。だが十時間以上も走り続け、ユニクォーンは披露からか崩れ落ちた。
私は馬から降り、ユニクォーンの頭を撫でながら言う。
「ユニクォーンのおかげでこの決闘に勝ったんだよ。この十時間、よく頑張ったな」
それに反応するように、ユニクォーンは鳴いた。だがその声は小さく、か細いものであった。
私は知っている。本当はもう走れなかったことを、最初に転んだ時、既に限界が来ていたということも。
それでも彼は走り続けた。
「なあユニクォーン。嬉しいか?」
ユニクォーンはまた鳴いた。
私はユニクォーンの声を聞く度、不思議な気持ちにとらわれていく。
「勝ったぞ。私たち、勝ったんだよ」
またユニクォーンは鳴いた。
ユニクォーンの声は少しずつか細く、小さくなっていく。
「勝った……勝ったんだ……勝ったよ……」
ユニクォーンは鳴いた。
その声を聞いた途端、私は涙が溢れだした。だってこれが、ユニクォーンにとっての最後のレースだったから。
私は泣いた。私の横で、ユニクォーンも鳴いている。
「ユニクォーン。ありがとう。私は、私はさ……ユニクォーンと走れて凄く楽しかった。本当に楽しかった」
私は思い出していた。
この十日間で、私がユニクォーンとともに過ごした日々を。
辛く苦しい練習だった。だけど確かにその成果は実り、私たちを大きく成長させた。
今回の練習はしんどかったし、苦しかった。けれどユニクォーンがいたから、私は頑張れた。君の夢を叶えたかったから、私は頑張れた。
結果、勝ったんだ。
「ユニクォーン。私たちは勝ったんだ。だからもう眠れ。そして生まれ変わったらさ、また私と一緒に走ろ」
馬は最後、大きく鳴いた。
そして私の腕の中で、静かに眠りについた。
「ありがとう」
眠るユニクォーンの顔は、とても嬉しそうで、幸せそうだ。
私は涙を拭い、ユニクォーンへ手を合わせる。
私がそれを終えると、宿木先生が私のもとへ歩み寄るなり、言った。
「文月。じきに専門の人が来てユニクォーンを墓場へ運ぶ。本来は馬肉になるはずだったが、そういうわけにはいかないだろ。ここまでの友情を見せたんだ。だからユニクォーンは安らかに眠るようにするから」
「ありがとうございます」
「それにしても、足が折れているにも関わらず、よくもまあここまで走れたものだ」
「この勝利はユニクォーンのおかげです。ユニクォーンがこの長い時間走り続けてくれたから、私は今ユニクォーンを見送れているんです」
「そうか。良い友を持ったな」
「はい」
私の決闘は終わった。
相棒、ユニクォーンは眠りにつき、後日、広場の隅に墓が立てられた。それは私の相棒、ユニクォーンの墓。
広場にいる馬たちはその墓を不思議そうに眺めている。
私は墓の前に座り、静かに手を重ね合わせ、話をする。
「ユニクォーン。私は君との思い出を忘れないよ。初めて会った時のことも、練習した時のことも、決闘で勝利した時のことも、全部全部忘れないから。君は私のかけがえのない相棒だ。きっと天国でも走っているのだろ」
私はそう思いを馳せ、静かに祈る。
どうか、君があの世でも笑えるように、そして楽しい人生を送れていますようにと。