過去回想編③終
生徒会長の座を託された冬無。
だがその座を半ば投げやりに渡された冬無は苦悩していた。大親友である全知と小唄はいなくなり、一人取り残されてしまった。
「二人とも……私を置いてどこに行ったの」
一人苦しむ冬無の手を掴んだのは、彼女の従妹の冬待だった。
「白奈、大丈夫ですか?」
冬無白奈にとって、冬待来無は心の支えでもあった。
彼女のおかげもあって、冬無は生徒会の任期である一年を無事終えて、時期生徒会選挙で当選した暗黒へ生徒会長を託すことにした。
「暗黒、これから頑張れよ」
「はい」
生徒会長の座が冬無から暗黒へ。
「冬無、これからの学園は俺が良くしていきます」
「任せたよ。暗黒」
生徒会長の座から降りた冬無は心なしかどこかすっきりしていた。暗黒は生徒会長として、これから学園をより良いものへと変えていこうとしていた。
だがその会場へ、ある少年が姿を現した。彼を見て、冬無らは驚いていた。
「全知……!?」
「やあ、皆」
明らかに雰囲気が変わっていた。
第一声だけでもそれがすぐに分かった。まるで別人だ。
全知は一歩一歩暗黒ら生徒会メンバーが立つ壇上へゆっくりと向かっていた。
「僕さ、ひとつ思ったんだよね。どうして僕には何もできないのだろうと。だが実際は何もできないのではなく、何もしてこなかった。だからこの一年間、僕はあらゆる学問を学び、体術も鍛えてきた」
全知は暗黒の前に立ち、止まる。
「今日からこの学園は僕が支配する。だから生徒会長暗黒零、これより君は僕の奴隷だ」
「待てよ。どういうことだ」
「そのままの意味さ。暗黒零、この学園は僕が支配する。僕が思うがままに変える」
「許されるはずがないだろ。今までこの学園を放っておいて、今さら何を言っている」
「あまり余談ばかり喋るな。それよりも僕の下につくかつかないか、決闘で決めようか」
「決闘?」
「ああ。君が提示する勝負を僕が引き受けよう。それで僕が勝てば君は僕の言いなりになってもらうよ」
暗黒はその提案を渋々受け入れた。
そして行われた決闘で、暗黒は全知に敗北を期した。よって全知によって学園は大きく変えられていった。
十器聖の設置。
委員総会や生徒総会の設立。
学園内に医療施設や娯楽施設の設置。
新たな学園方針の決定。
など、数えきれないほどの政策を行い、学園は変えられていった。
それから全知は世界中を見て回り、十器聖に相応しい人材を各地から集めていった。
その期間、月宮小唄が病で学園から去ったために理事長の月宮詩歌もしばらく不在であった。そのため、この学園はまんまと全知の手によって支配された。
「全知、これが君のしたかったことか?」
「ええ。これで素晴らしい学園の完成だ。そう思いませんか?月宮理事長」
月宮詩歌は思っていた。
全知という男は恐ろしい存在であるということを。だがしかし気付いていた。
全知が行った政策の中には医療施設の設置や運動する施設の設置が為されている。それはまるで健康で居てくれるようにという配慮が見えた。
(全知、お前は小唄と離れ離れになったことが悲しいのだな。君はまだ幼すぎる。だからこういう経験がもう少し後にすべきだったな)
まだ幼い少年には、そのことは少しばかり重すぎた。
大切な者をどんな形であれ失ったのだ。たとえそれが自分のせいではなかったとしても、全知はそれを自分のせいだと勝手に解釈してしまった。
子供だから故、そう踏み出してしまった。
もう二度と踏み出した道は引き返せない。ただ己で耕したその道を黙々と歩くことしかできない。
(君は本当に、救われないな)
いつまでも彼は救われない。
いつまでもその罪を背負ったまま、少年は苦しみ続ける。
いつまでも、いつまでも、いつまでも、少年はただ静かに進み続けた。
その道が間違っていると分かっていても。




