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全問正解子ちゃん  作者: 総督琉
女王文月編
107/114

過去回想編②

 決闘が始まった。

 二人は懐中電灯を手に、地下通路の出口を探して走り回っていた。

 道は何重にも入り組んでおり、そう簡単に出口への道が見つかることはない。


「僕は絶対に小唄に勝つんだ。そして生徒会長に」


 全知は小唄にいつも競争心を芽生えさせていた。

 それは小唄という存在がライバルであったからだ。彼女は全知にとって唯一無二のライバルであった。

 だから勝ちたかった。いつも小唄には負けてばっかだったからこそ、勝ちたかった。


 だがその思いの裏には、どんな手を使ってでも勝ちたいという気持ちがあった。だからこそ全知はずるをした。

 全知は昨晩ずっとこの迷路の出口を探していた。そして見つけた。だから全知は最初の五分だけ迷っているふりをして、その後道に迷うことなく真っ直ぐに出口へと向かった。


 ずるをしたのだから勝って当然。

 だが、小唄は全知よりも先に出口にたどり着いていた。


「全知、あと五秒全知が早く来ていれば私は負けていたよ」


 全知はこの上ない劣等感と罪悪感に襲われた。

 自分はずるをして確実に勝てる方法で勝負したのに、小唄はそんな全知よりも早く出口までたどり着いた。

 運というのが大きいが、それでも負けたことに変わりはない。


 結果、生徒会長は月宮小唄に決定した。

 副会長は氷上、書記は落雷、会計は神代となった。本来、役職はその四つだけだった。しかし小唄は新たに補佐員という役職を作り、そこに全知を就かせた。


「全知、これからも一緒に頑張ろうね」


「ああ。頑張ろう」


 小唄は全知と一緒に生徒会になれてとても喜んでいた。

 しかし、全知は上手く笑えなかった。


 それから全知は小唄と過ごす度に、劣等感を抱くようになっていた。

 ずるをして負けたあの日から、罪悪感は激しい劣等感へと変わって全知を襲っていた。


 ある日、全知は小唄を呼び出した。

 場所は例の地下迷路。


「ねえ小唄、お前は僕のことをどう思っているんだ?」


「そりゃ、大切な友達だと思っているよ」


 それは小唄の心からの本音だ。

 だから、余計に全知は悔しかった。


「ライバルだとは思ってくれないのか」


「ライバル……か。そうだな。でも今までずっと私が勝ってきたでしょ。だから全知がライバルは、うーん。難しいかな。だってさーー」


「いや、もういい。お前が僕をどう思っているかは大体分かったよ。だからもう、これで最後にしよう」


 全知は持っている二つの懐中電灯の内、ひとつを小唄へ渡した。


「もう一度勝負だ」


「勝負内容は?」


「かくれんぼ。僕がお前を十分以内に見つけることができたら僕が生徒会長になる。だがもし見つけられなければ僕は生徒会を辞退するよ」


「良いよ。じゃあ約束ね」


 小唄は全知に約束を交わした。

 小唄が隠れてから、全知は小唄を探しに迷路を走り回る。これが最後の決闘になるからこそ、全知は必死に小唄を探し回った。

 そして見つけた。出口に立っている小唄を。


「九分五十五秒。僕の勝ちだな」


「私を見つけてくれてありがとう。全知」


 小唄はどこか悲しく微笑んだ。

 その表情はまるで何か大切なことを隠しているような表情だった。


「何で私がこの決闘を受けたか分かる?」


 小唄は何か言いづらそうにしていた。


「私はね、実は大きな病を背負っていたんだ。だからしばらく私は入院することになった。学園を離れるんだ。どのみち生徒会長の座は全知に渡すつもりだったよ」


 全知はこの決闘で勝利した。それでもこれは彼の望む結果ではなかった。それを小唄は分かっていても、この選択以外を選ぶことはできなかった。


「試合に勝って勝負に負けた。いや、少し違うな」


 全知は深々と落ち込んだ。


 全知にとって小唄はライバルであったが、何よりも小唄は全知にとっての心の支えでもあった。

 だからこそ小唄を失ったことで、全知に大きな傷口が残された。


 その後、全知は生徒会長の座を冬無へ託し、学園から姿を消した。


消えた全知。

結局勝てないまま終わってしまった。

いつまでも全知は勝てなかった。だからこそ全知は怠惰の道へ踏み出そうとしていた。


怠惰へと、、、

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