過去回想編①
全知の幼い頃の記憶。
それはこの学園の創設当初、この学園の初めての生徒は全知、冬無、月宮小唄だった。
最初はまだ三人。それでも理事長ーー月宮詩歌は生徒を持てたことに誇りを抱いていた。
全知たちはまだ一軒家ほどの大きさしかない校舎で授業を受ける。
休み時間、全知は小唄と冬無と話をしていた。しかし小唄と全知はどっちが頭がいいかで喧嘩になり、全知は小唄のほっぺを叩いた。
小唄は泣き、全知から逃げる。
「ママ、全知がいじめてくるよ」
小唄は泣きながら詩歌のもとへと駆け寄った。
全知は必死に弁明するも、全てを見通していた詩歌は全知を叱った。
「ごめんなさい……」
「もう二度とこんなことはしてはいけませんよ」
全知は深々と反省した。
それから一年、生徒もたくさん増えてきていた。
最初は3人だったが、気付けば百人ほどの生徒がこの学園に入ってきていた。赤子から大学生まで、幅広い年代の生徒がこの学園に集まっていた。
その中には、冬待や暗黒、氷上や落雷や神代などもいた。
すっかり賑やかになった学校を見て、全知たちは驚いていた。
「小唄、冬無、すごいよこれ。めちゃくちゃ人がいるよ」
「本当だね。でも私たちが一番の先輩だよ」
「うん。じゃあ私たちは先輩として威厳を見せつけるのだ」
小唄は高らかに言ってみせた。
それに冬無と全知は微笑んだ。
それから数日後。
全知、小唄、冬無の三人は学校の周囲を探険していた。探険していると、冬無はとある場所を見つけた。
「ねえねえ、ここ、地下に行けるようになってるよ」
森の中、土の下に隠されていたのは地下へと繋がっている扉。はしごを降りると、長そうな通路があった。その道は真っ暗で何も見えない。
冬無は持っていた懐中電灯で辺りを照らす。天井は2メートルあり、横幅は1メートルほど。狭い道を冬無を先導に進んでいく。
全知と小唄は怖いのか、ビクビクしながら後ろを歩いていた。
「冬無、この通路どこまで繋がってるの」
「分からない。でも出口ぐらいあるんじゃないか」
そう言って、冬無はどんどん前へ進んでいく。
全知と小唄はどんどん置いていかれ、気付けば冬無とはぐれていた。
「あれ?冬無は」
全知と小唄は互いに泣きながら手を取り合い、来た道を戻って入り口まで戻る。
「全知、男の子だったらもっと強くなってよ」
「怖いものは怖いもん」
ようやく入り口のはしごまでつくと、二人は安堵してそこから地上に出た。
「やっと出れたよ」
「もう。凄く怖かったよ」
涙を拭い、二人は校舎へと戻る。
そんな怖い経験をしたためか、それから全知と小唄は一段と仲良くなっていた。
そんな二人をクラスメートの暗黒や冬待たちは、微笑ましく見守っていた。
それからまた一年、既に生徒の数は三百を越えていた。そのため、学園の方針を定める生徒会のメンバーを選ぶため、生徒会選挙が行われることとなった。
生徒会長に立候補したのは全知と小唄だ。生徒会長に立候補したのは二人のみ。
「全知、生徒会長の座は渡さないよ」
「僕こそ渡すわけにはいかない。生徒会長になるのは僕だ」
当時の生徒会選挙では、まだこれといった決め方はなかった。ただ各々が納得した方法で選ぶというものであった。
そのため、どちらが生徒会長になるかは二人次第。
「小唄、僕に提案がある」
「何?」
「どっちが生徒会長になるか、それを"決闘"で決めよう」
「決闘?それはつまり、なんだ?」
「一対一の正々堂々とした勝負だ」
「何の勝負をするの?」
「この前探険しに行った時に地下にある迷路を見つけただろ。それで冬無はあの迷路を攻略したらしいじゃん。だから先にあの迷路を抜け出せた方が勝ちっていうのはどうだ」
「いいね。まあ勝つのは私だけど」
小唄は笑みを浮かべ、全知へそう言い放つ。
しかし全知も負けてはいられない。
「小唄、僕はお前を越えてやる」
「望むところだ」
これより、二人の決闘が始まる。
学園初の決闘。
それは全知と小唄という少女。
その決闘の行方はいかに。




