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全問正解子ちゃん  作者: 総督琉
女王文月編
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学園全面戦争⑭終『裏』

 男が今舞い降りた。

 とこしえの憤怒を纏い、いにしえの怠惰を纏い。男は一歩一歩城へと近づいていた。



 森の中、馬暗は織田と激闘を繰り広げていた。

 織田はペイント拳銃を二丁構え、ペイント弾を馬暗へ浴びせる。それを馬暗はかわしながら、催眠ガスを放つ矢を放つ。

 しかし矢はペイント弾に打ち落とされ、馬暗をも巻き込むガスがまん延する。


「まずい……」


「馬暗殿、拙者は馬暗殿が好きだった。でも馬暗殿は拙者を裏切った。だから今こそ天誅を」


 織田は馬暗の右足にペイント弾を当てた。それから右手、左足、胴体とペイント弾を浴びせ、膝立ちで固まる馬暗の額へ銃口を向ける。


「馬暗殿、どうして拙者を裏切った」


「俺は自由に生きてみたかった。その結果、お前を傷つけることになった……」


「さよならだ」


 ペイント弾が放たれた。馬暗の額はペイントに染まり、そして倒れた。


「なあ織田、俺はお前に何もできなかった。一番そばにいてくれたお前の優しさに気付けなかった。でも後々後悔したよ。織田、許さなくていい。ただこれだけは伝えさせてくれ。今までずっとそばにいてくれてありがとう」


「随分と感動的な話をしていますね」


 水溜まりのようにペイントが溜まっている場所を踏みつける足音とともに、一人の男がそこに姿を現した。


「お前は……」


 その男の背後には織田が率いていた部隊が皆気絶して倒れていた。


「君たちも眠るといい」


 後ろ首を叩かれ、馬暗と織田は眠るように気絶した。

 その男は城へと向かっていた。



 城の前に広がる広場は乱戦状態。

 その中を男はゆっくりと歩いていた。その行く手を阻むように、神原と暁の戦いが目の前で繰り広げられる。

 神原と暁は激しく竹刀をぶつけ合う。


「神原、お前は強くて賢い奴だ。だから俺に敵わないことくらい分かるだろ」


 神原はボロボロで、暁はまだ十分に戦える様子だった。


「敵わないから戦わないなんて、そんな選択を私は選ばない。だって私は風紀委員だから。学園の風紀を守るため、私は相手が誰であろうと立ち向かう義務と責任がある」


 神原は強く大地を踏みつけて、己を鼓舞する。疲れきっている腕で竹刀を握りしめ、暁へと走る。


「神原……」


「暁委員長、覚悟ぉぉおおお」


 暁は竹刀を構え、神原の太刀を読んでそれをかわす。そして側面から攻撃をーー

 だが一瞬、暁は躊躇った。躊躇う直前にふと頭を過ったのは、神原との思い出だ。


「初めまして。私は神原銀です。私は風紀委員になったからには、この学園の風紀を徹底的に取り締まりたいと思います」


 いつだって神原は自分の正義に真っ直ぐで、いつも前だけ見て歩を進めていた。

 躊躇いを見せた暁へ、神原の竹刀でのひと振りが振るわれる。暁は倒れた。


「神原、随分と強くなったな。さすがは風紀委員会の仲間だ」


「……はいっ」


「神原、俺は風紀委員長を辞退するよ。だから受け継いでくれるか。委員長を」


 涙を浮かべながら、神原は暁の手を握って言った。


「任せてください」


「なら、良かった」


 暁は笑みを浮かべ、神原との思い出を思い出していた。


「もう昔みたいには、戻れねえよな」


 そう言いながら、暁は眠る。それと同時、神原も眠りについた。

 二人の背後にはやはりあの男が立っていた。




 そこから進むと、最上と士道の決闘が繰り広げられていた。士道と一緒に生徒会メンバーもともに戦っている。

 しかし最上の素早い薙刀術に吹き飛ばされ、倒れていく。残ったのは士道のみ。


「士道、君は優秀ではない。それでもなぜ副委員長に任命したか分かるか?最も扱いやすかったからだ」


「利用ってことか」


「正解。君は利用しやすかった。だから私は君を副委員長にした。結果、君はまんまと騙されたっていうわけだ」


「そうか。はっきり言って、俺はあんたを尊敬してた。でも今のあんたは俺は嫌いだ」


 明らかな敵意を纏い、士道は薙刀を握りしめる。


「俺はあんたを越えるんだ」


「不可能なことを大声で叫ぶな。ちゃんと現実を理解しろ。それが大人になるということだよ」


 士道は薙刀を構えて最上へ一直線に突っ込む。だが士道は軽々と吹き飛ばされた。


「お前では私には敵わない」


「確かに俺一人ではあんたには敵わないさ」


「生徒会メンバーは先に全滅させておいた。お前はもう一人なんだよ」


「最上、あなたを慕っていたのは俺だけじゃない。最高委員会の皆があなたを慕っていた。だからこの反逆は俺一人じゃない。最高委員会全員の反逆だ」


 気付けば最上は四方を大勢の最高委員に囲まれていた。


「俺たちは勝つ。行くぞぉぉぉおおおおお」


 最高委員は一斉に最上へと薙刀を持って走る。


「多勢なら勝てると?滑稽」


 最上は次々と薙刀で最高委員を吹き飛ばしていく。素早く、重たく、強い。

 それでも誰一人恐れることなく、誰一人諦めることなく最上へと刃を突き立てる。

 それでも余裕に、平然と振る舞う。


「お前たちはどうせ私には勝てないんだよ」


「勝つさ。俺たちは」


 その声が聞こえた方向、それは最上の頭上だ。


「いつの間に!?」


「あなたの領域で俺はあなたを越える」


 最上と士道の薙刀がぶつかり合う。両者の薙刀は砕け散る。


「俺たちの、勝ちだぁぁあああ」


 そう叫びながら、士道は最上の上へ乗っかった。

 最上は取り押さえられ、身動きがとれなくなった。


「まさか本当に勝つとはな」


「ええ。勝たせていただきました」


「士道、実はお前を副委員長に選んだのにはもう一つ理由がある。それはお前がいつか俺を越えるほどの男になると思っていたから。お前が最高委員会の委員長を背負うに相応しい背中をしていたからだ」


「俺が……ですか」


「ああ。この騒動が終われば、俺は委員長の座を降りる。だからその時は、俺の後任はたった一人だ」


「はい」


 士道は最上に打ち勝った。

 下克上を果たしたのだ。


 そして彼らは皆眠る。

 その背後を男が通り、城へ足を近づけていた。



 その少し前では、霞ヶ崎と戸賀が戦っていた。

 勝負は一進一退。そこへ割って入るように、男は二人の中間に立った。


「争っても無意味だ。どうせ君たちは()の奴隷になるだけだから」


「お前はーー」


 男は二人の額へ指を当てた。それだけで、二人は意識を失って眠りについた。


「もうすぐ会えるな。文月京」


 そこから足を進めると、城の入り口では玉染を捕縛網で拘束している冬待と冬無の姿が目の前にあった。

 そこを素通りしようとするが、二人は男を見た途端にその行く手を塞いだ。


「ちょっと待て。お前……どうしてここに!?」


「冬待、冬無、俺はお前ら二人には世話になった。だからあまり傷つけたくないんだよ」


「何を言っている。お前は戦意喪失しているはずじゃ」


「ひとつ教えておくよ。僕は基本なんでもできる。そしてそのなんでもの中に"演技"も含まれている。全部演技でした」


 男は狂喜的に微笑んだ。


「私たちがどれだけ心配したことか」


「ありがとう。でも僕にはすべきことがある。怠惰を守るために、どんな手段も使う。それが僕の支配さ」


 二人は眠りについた。

 そして階段を上がり、最上階へつく。

 その時はちょうど紅橙霞が最上階へついたところだった。


「紅、どいてくれ」


 橙霞が振り返ると、そこにはある男がどういうわけか立っていた。それに驚いていた。

 戦意喪失していたはずの男が、平気な顔してこの場に平然と現れている。


「全知全夢。あれは全て嘘だったのか」


「当たり前さ。僕がそんなガラスメンタルなはずがないだろ」


 そう。そこに現れたのは全知全夢。

 十器聖最強にして、文月と因縁深い相手であった。


「この時を待っていたよ。学園が終焉を迎えた時、それは僕が王としてこの学園に君臨する。さあ、この学園は僕がもらうよ」


 学園が混乱する間に、全知は密かに策を始めていた。

 戦意を喪失?そんな状況には陥っていなかった。ただ周囲を誤魔化し、嘲笑っていたのだ。

 ただこの時、この学園を奪う好機を狙うために牙を隠していた。


 牙を剥き出しにする彼は、もうこの学園を支配する。

 絶望、そんなものは今の彼にはない。

 今の彼は学園を支配する欲に駆られた支配者だーー


「さあ文月、決闘を始めよう」


 今、文月と全知は巡り会う。


因縁激突。

とうとう本性を現した怪物、全知全夢は長きに渡る因縁に流れ続けるオープニングに決着をつけようとしていた。

ようやく因縁は決着へーー

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