学園全面戦争⑬
学園のいたるところで因縁が燃え上がっていた。
そして文月は今、最上階の屋根の上に立ち、屋根瓦を蹴り飛ばし、穴を開けてその中へと入った。
降臨した文月を前にして、和国は並々ならぬ緊張感を感じていた。
「敵にすると恐ろしいな。この女は」
「久しぶりだな。和国十郎座衛門。そして私に仕えてくれた四天王諸君」
文月の目の前には、和国、神代、氷上、落雷が立っている。
既に皆戦う準備はできているようだ。
「文月、こちらは四人。そしてお前は一人。それでも立ち向かってくるか」
「だからこそ、退けないんだよ。私はこの学園の支配者だったから。この支配の原因をつくったのは私だから。たとえどれだけの劣勢に身を置かれようとも、私はこの足を一歩も退げない」
文月は大地を踏みつけ、強くそう言い放った。その声には明確な覚悟があり、その瞳には真っ直ぐな志がある。その背中には罪を背負っている。
「何度も後悔した。だが後悔するだけじゃ、この行き場のない思いにモヤモヤを抱えたままになってしまうだろ。だからこのモヤモヤを晴らすために、そして贖罪をするために、私は今ここでお前を討つ。覚悟しろ」
「一歩も退く気はないか。ならば来い。全力でお前をねじ伏せてやる。氷上、神代、落雷、文月をたおーー」
「ーー和国、私、決めたよ。私は文月についていく」
和国の言葉を遮り、氷上は言った。
「氷上、何を言っている」
「本当はただ時の流れに身を任せ、和国、お前の指示に従っているだけでいいと思っていた。だがな、それじゃ何か違うと思ったんだ。そこにはまるで私の意見がない。私は私がしたいようにする。だから私は文月についていくよ」
氷上は和国のそばから離れ、文月のそばへ立つ。
「裏切り者が。神代、落雷、氷上を捕らえろ」
神代は氷上の行動を見て、微笑んでいた。そしてその足を一歩ずつ文月へ近づける。
「氷上、奇遇だね。実はちょうど僕もそうしようとしていたんだ」
神代も氷上と同様に、文月側へと寝返った。
「だったら俺も行くしかないな」
落雷も文月側へと寝返った。
これで和国は一人、文月は四人。形勢は完全に逆転した。
「お前ら、おいらを裏切るのか」
「ああ。そもそも私たちは生徒を誰彼構わず奴隷のように扱い、強者としてふんぞり返っているお前が気にくわなかったんだ」
「それに僕たちは文月四天王。君の四天王ではない」
「俺は正直どっちでもいいけどよ、俺は俺が認めた者の下以外にはつかないんだ。だから和国、俺は俺が認めたこの人のついていく」
孤立し、劣勢へと追いやられた和国は、過去のことを思い出していた。
この学園に入る前、和国は今のような強者ではなかった。むしろこの学園でいう弱者に近かった。
日々強者に虐げられる毎日。
ただクラスに馴染めなかったから、ただ周りに話が合う人がいなかったから、ただただ人付き合いが苦手だったから。
「和国さん、私たち放課後予定あるから掃除よろしくね」
「あれ?和国さんってこのクラスにいたっけ」
「ねえねえ和国さん、可哀想だね」
おいらは可哀想なんかじゃない。
おいらにだって幸せなことのひとつやふたつ……。
どうしてこんなにも報われない。どうしてこんなにも妬まれる。
おいらはただ自分が生きたいように生きているだけなのに。
どうして皆、おいらに冷たい態度をとる。そっと優しく手を差し伸べてよ。もっとおいらを褒めてよ。誰でも良いから、おいらのそばにいてよ。
ーーだから誓った。
「おいらが強者になればいい」
だからおいらはまず学校の弱者と片っ端から交流をとり、彼らとともに勢力を築き上げた。
学校で禁止されていることを平気で行って、おいらはいつしか学校の頂点に立った。
かつておいらを虐げていた者は集団で追い詰め、不登校にまで追いやる。
どうだ?おいらは強くなっただろ。誰よりも強い存在になれただろ。
そして和国は戦国氏立戦場学園へ入学し、あっという間に学園の四天王とまで呼ばれる存在になっていた。
だというのに、彼女は文月という存在に一瞬で敗北した。それから四天王になった。
「あの日から、おいらの復讐は始まっているんだ。おいらはもっと強者にならなくちゃいけない。だから文月、おいらはお前を越えていく」
和国は電流が流れる木刀を握りしめた。
「痛みには慣れている。だから私はこの木刀でお前ら全員ねじ伏せる。そしておいらが支配者になって、この学園の支配者で居続ける。そうでなくちゃ、これまでしてきたことが全部無意味になる」
「なら全部無意味にしてその重荷から解放してやる。氷上、神代、落雷、手を出すなよ」
文月は一人、和国の前へ出る。
「和国、お前の相手は私一人で務める。語り明かそうぜ。己の全てを、集大成を」
とうとう激突、和国VS文月。
強者となるのはどちらか。




