学園全面戦争⑫
各地で激しい攻防が起こる中、霞ヶ崎は元生徒会メンバーを引き連れて城への活路を見出だしていた。
猪の如く駆ける霞ヶ崎に、委員総会は次々と倒されていく。その中で、最上が霞ヶ崎の暴走を止めた。
霞ヶ崎が振るう木刀は、最上の薙刀に受け止められた。
「私の攻撃を受け止めたか」
「この程度の攻撃は攻撃とは呼ばぬ。素振りというんだ」
「何言ってるかよくわかんねえよ」
霞ヶ崎の木刀のひと振りが最上を数歩後ろへと下がらせた。
「素振りで後退するなんて、少し弱すぎじゃないか」
「弱い?弱いか。随分と馬鹿にされたものだな。仕方ない。委員総会の最高指導者の力を見せてあげよう」
高らかに宣言し、彼は薙刀を強く握りしめた。その直後、まるで疾風の如く素早い一撃が霞ヶ崎の頬をかすった。
その速さを霞ヶ崎は目で捉えられなかった。
「最上家は代々武術を極めさせられる。極めすぎたが故、誰も目で追えぬほどの素早い太刀を振るえるようになった。お前には見えないだろう」
「過信し、軽率する。相変わらずだな支配者は。だからお前たちは必ずヒーローに倒されるんだよ」
霞ヶ崎は木刀を構え、目を瞑って最上の前に立っている。
浅く呼吸をし、精神を整えていた。
「何をしようと私の薙刀術の前には敵わーー」
「ーー遅い」
音速を越える最上の一撃を、受け止めた上に弾き、腕に打撃を与えた。最上は驚き、腕を押さえながら目を見開いて霞ヶ崎を見ていた。
「世界は広いんだよ。お前の薙刀のひと振りなんて、宿木家の素早さに比べればどうってことはない。まるで劣っている。教えてやるよこれから」
腕を押さえる最上へ見下すように歩み寄り、木刀を向けて言う。
「どうしてお前が弱者がお似合いなのかを」
最上は苛立ち始めていた。
自分が優れている、そう思っていたからこそ、侮辱されたことが許せなかった。
怒る最上を察し、彼の肩を背後からある女性が叩いた。
「最上、こいつの相手は私が努めるよ。それに、再戦といきたかったところだ」
最上の背後から現れたのは、十器聖の一人ーー戸賀狂嫁。
彼女を前にして、霞ヶ崎は笑みがこぼれた。
「戸賀、こいつの相手は私がーー」
「ーー静かにしなよ。ここは学校だよ。私語厳禁、良いよね」
顔は確かに笑っている。けれどその裏には狂気が感じられる。
戸賀の威圧に圧し負け、最上は渋々霞ヶ崎の相手を戸賀へ任せることとなった。
「霞ヶ崎、しばらくぶりだね。いつか君と対峙するこの日のために、私はあの日から成長しているから。だからこれは私の身勝手なリベンジマッチだ」
「いいだろう。かかってこい」
戸賀は拳銃型のペイント銃を二丁取り出し、それぞれ構える。そして霞ヶ崎へ銃口を向けた。
「油断はしない。徹底的に貴様を討つ」
霞ヶ崎と戸賀の因縁に火が燃え上がる中、最上は蚊帳の外状態になっていた。
そこへ、ある男が最上の前に現れる。
「最上委員長。お久しぶりですね。随分と雰囲気も変わられたようで」
「ん?ああ、士道か。どうした?そんな顔をして」
最高委員会副委員長、士道蓮太郎。彼は今最高委員会委員長を前にしてひそかに怒りを向けていた。
それ故、彼は薙刀を構え、最上へと向ける。
「どういうつもりだ」
「もっと前から気付くべきだった。あなたが既に和国によって操られていたということに」
「そんなことをまだ根に持っているのか。士道、世界とは常に強者が絶対だ。だから私は常に強者についていく」
「ええ、あなたはそういう人だ。だかたこそ、俺はあなたのその考えをぶち壊しに来た」
「ぶち壊す?私の考えを?冷静になったらどうだ?」
「冷静になるのはあなたの方です。俺はあなたのことを尊敬していた。ですが今のあなたを俺は嫌いです。だから俺は今のあなたに一撃くらわせてやるためにこの日を待っていた」
士道は慣れていない手つきで薙刀を構える。
「いざ、勝負です」
「上司に部下が逆らうなど滑稽。あまり私を怒らせるなよ。士道」
「怒ればいい。怒るあなたを俺は斬る」
最上と士道の戦いが始まった。
それを見て、霞ヶ崎は元生徒会メンバーへ告げる。
「黒影、花札、しいな、暁、士道を護ってやれ。あいつの因縁を晴らさせてあげてほしい」
黒影、花札、しいな、暁は士道の援護へと走る。
士道と最上の戦いは、僅かに最上が優勢であった。薙刀を吹き飛ばされ、首へ刃先を向けられる。
「薙刀術は俺の領域だ。一歩も踏み出せるはずがない」
士道は敗北するーーかに見えた。
「へえ。委員総会が支配者層に取り込まれる原因をつくった最上くんじゃないか」
士道の背後から現れた四人の生徒がそれぞれ薙刀を構えて最上へと襲いかかる。
それらを全てたった一本の薙刀で受け止める。
「帰ってきていたか。第二十七代生徒会」
彼らは一旦距離を取り、体勢を整える。
「長かった。だが学園を取り戻すために強くなったんだ」
「ようやくここへ帰ってこれた」
「帰ってきたぞ。この愛しき学園に」
「さあ始めよう。今この場所で決闘を」
生徒会VS最上。
最上は涼しい表情のままで生徒会四人を相手にしても臆することはなかった。
「四人まとめて潰してやろう。どこからでもかかってこい」
憧れは遠退いた。
憧れていた人は自分たちを裏切り、強者側へと寝返った。
だからこそ彼はその拳を振るわずにはいられなかった。倒されても尚、まだ火は燃え上がろうとしていた。




