学園全面戦争⑪
神原は魔道とぶつかり、喜んでいた。
「紅の妹、この人は私が相手をする。だからお前は先に行け」
「ああ。ありがとう」
神原が魔道を足止めしている間に、橙霞は先へ進む。
久しぶりに出会う魔道と神原。両者は竹刀を交えながら、話をしていた。
「暁委員長、なぜあの時私をクビにしたのですか」
「委員総会のメンバーは強制的に支配者の言いなりになる。それが現在のこの学園だ。しかしお前だけがあの時の唯一の希望だった」
「まあ予想通りの答えですね」
「だろうな。お前が真に求めている答えは何だ?」
互いに竹刀が激しくぶつかり合い、火花を撒き散らすのではないかという程の強者の攻防。
周囲の者が援護に入ろうと思おうとも、それは邪魔になってしまう。それほどの戦いが目の前では繰り広げられていた。
「暁委員長、あなたは最初から和国の手下ではなかったのですか?」
「それはどういう意味だ」
「委員総会と部活動総会が全面衝突したあの日、なぜあなたは風紀委員のメンバーの招集を少しでいいと言ったのですか?」
「…………」
「答えてはくれないのですね」
沈黙する魔道を見て、神原の抱いていた疑惑は確信へと変貌する。
嘘だと言ってくれればいいのに、なんて少し前まで神原は思っていたが、沈黙する魔道を前にして強く竹刀を握りしめる。
「もう容赦はしませんよ。暁委員長。私は私の正義を貫くために、この刃をあなたへ振るう。さあ、裁きの審判を下しましょう」
「覚悟ならできている。だから来い。結局世界とは勝った者が動かす」
「ええ。だから私はあなたに勝つ」
神原は魔道へ激しく竹刀を振るう。それを魔道は受け止める。
「学園の風紀を乱す者は、たとえ誰であろうと私が裁きを下す。それが風紀委員会副委員長、神原銀の天命だ」
激しい攻防が繰り広げられる中、刻々と生徒総会は追い詰められつつあった。
弓道部の睡眠ガスを放つ矢。それが再び始動する。
「私が行かなきゃーー」
「いいや。ここは俺一人で十分だ」
焦る冬待へそう言ったのは、馬暗だった。
彼は弓を構え、矢を弓道部の集団の中へと放つ。その矢からは睡眠ガスが出、眠りにつく。
「冬待、ここで兵を減らすのは駄目だ。兵を率い、城への活路を見出だしてくれ」
「馬暗、倒されるなよ」
「俺はそう簡単にはやられねえさ」
冬待は最前線へ駆け抜ける。
最後尾に立つ馬暗は、徐々に向かってくる弓道部の前に一人立っていた。
弓道部の先頭には部長、四六双六がいる。
「おっと、馬暗か。味方だって聞いていたが、裏切りか。こりゃあ良い首が手に入りそうだ」
四六は矢を馬暗へ向けて放つ。だが、矢の動きを完全に捉えていた馬暗は矢を素手で掴み、投げ返した。
睡眠ガスがそこへ充満し、弓道部は四六をはじめとして眠りにつく。
弓道部は一網打尽となった。
だがその背後でペイント銃を構えていた者たちは一斉に銃弾を馬暗へと放つ。
「何!?」
馬暗は咄嗟に木の陰に隠れた。
「へえ、馬暗殿、裏切るのですね。マジ切腹案件ワロタ」
聞き馴染みのある声に、馬暗は木の陰から顔を出した。
そこにいたのは、かつての友人であった織田九頭竜であった。
「お前、やっぱこの戦場に来ていたか」
「拙者、地獄の底から舞い戻ってきたのでござるよ。馬暗殿に裏切られた復讐をするために」
裏切り。
その言葉を聞き、馬暗はかつての記憶が思い出された。
馬暗がまだ十器聖になる前、彼には唯一の友がいた。それが織田であった。彼もまた馬暗いが唯一の友であった。
だからこそ二人の友情は固く結ばれていたーーはずだった。
「馬暗殿、拙者と約束しようでござる。これからもずっと拙者と友達で居続けると」
そう約束をした。約束をしたはずだった。
けれど、馬暗にはそんなことはどうでも良かった。彼は十器聖になる前から弓道の才能があり、天才だった。
そのため、彼は次々と大会で優勝し、クラスメートにちやほやされ始め、織田との距離は一気に開いてしまった。
「ねえ馬暗くん、私たちと一緒に帰ろうよ」
「ごめん。今日は一緒に帰る約束をしてる人がいるから」
「ええ残念。じゃあまたいつか誘うからその時は予定開けといてよ」
人気になり始めた馬暗は、段々と織田のことを足かせと思うようになっていた。
一緒に帰っている道で、織田は楽しそうに馬暗へ話しかけている。
「馬暗殿はやはり凄いでござるよ」
「ああ。そうだな」
しかし、馬暗はそうではなかった。
あの日交わした約束も、邪魔としか思わなくなっていた。
未来がもっと見えたのなら、きっともっと良い生き方ができたのだろう。
まるで今を悔やんでいるように、馬暗はそう思っていた。
だからだろうか。
十器聖として学園に招待された時、躊躇いなく織田のもとから去った。
それ以来、馬暗はこう思うようになっていた。あいつのことなんか忘れてしまおう。
だから彼は自分を偽り、虚飾に生きた。
それが今、大きな足かせとなってしまった。
「馬暗殿、拙者、ひとつ胸に誓ったことがあるのですよ。馬暗殿に裏切られたこの心の痛みを晴らすにはどうすれば良いか、その答えはたったひとつ。拙者が強者となり、馬暗殿が弱者になれば良い」
「織田……」
「切腹案件マジワロタ。ゲームオーバーにしちゃいますよ。馬暗殿」
それぞれの因縁がこの決闘の中で暴かれる。
誰が勝ち、誰が敗北するのか。
それはもはや神にも分からぬ、ということだろう。




