ものすごい本末転倒な感じがするぞ
魔王様がいい感じに乾かしてくれたヨモギをアリスンは料理長に借りた木製のすり鉢とすりこぎで粉砕しはじめた。
途中で疲れたので、ノアがやり、遊びに来ていた従業員たちの子どもたちがやり、魔王様がやった。
粉砕したヨモギをふるいにかけ、余分な部分を取り除いて、また、すりこぎで粉砕する。
そして、また、ふるいにかける。
葉や茎の部分がどんどんと取り除かれていき、白っぽくなってきた。
ヨモギの裏の白い綿毛の部分だけが残っていくのだ。
わあ、と子どもたちは歓声を上げたが、アリスンはふるうたびに少なくなっていくヨモギを見て不安になっていた。
「……これって。
相当な量のヨモギがないと、できないんじゃないですかね? もしかして」
モグサの作り方はなんとなく知っていても、実際、作ったことはなかった。
思ったより、綿毛がとれない。
「このまま、ちんまり盛って火をつけても、直接肩を焼く感じになりませんかね?」
とアリスンが言うと、
「まあ、とりあえず、一度作って火をつけてみたらいいんじゃないですか?」
とノアが適当な返事をする。
だが、魔王様が、
「いや、とりあえずで私の肩を焼こうとするな」
と文句を言ったので、急いでまた摘みに行った。
幸い、ヨモギは地下茎で増えていくので、まとまって生えている。
みんなで大量にとって来て、魔王様に乾かしてもらい、またみんなで粉砕する。
ふたたび、ふるいにかけながら、アリスンは思っていた。
いやこれ、もしかして、魔王様に粉砕してくださいって言えばよかったんじゃないかな。
でも、魔王様、ほぼ魔力ないもんな~。
粉砕してくださいってみんなの前で言って、できなかったら、恥かかせちゃうよね。
魔力使えなくて、なにが魔王だよ。
コスプレの人かよってみんなに言われちゃうよな~、とアリスンは思っていた。
魔王様が聞いていたら、
「……コスプレとはなんだ?
というか、それ、お前が腹の中で思ってることだろう」
と言ってきそうだったが。
「アリスンよ」
そこで、第二陣を粉砕していた魔王様が言ってきた。
「これ、作ってる間に、相当肩こらないか?」
本末転倒じゃないか、と言われたが、
「我々はみな、一致団結して、もう引き返せぬ道を突き進んでいるのです。
このまま、最後までやりとげようではありませんかっ」
とアリスンはふるいを手に叫ぶ。
厨房のあちこちで作業している人たちが、おおーっ、と声を上げた。
みな疲れすぎて、変なハイテンションになっているようだった。
そういえば、さっきから、あちこちで唐突に笑い声が上がっている。
疲労が溜まりすぎて、箸が転がってもおかしいようだ。
アリスンも細かくなったヨモギにむせながら、笑ってしまう。
「さあみんな、あと一踏ん張りっ。
……か、どうかはわかりませんがっ。
頑張りましようっ!」
おおーっ、とみんなが手を突き上げる。
その様子を見ながら、魔王様が呟いていた。
「扇動して革命でも起こしそうな勢いだな……」
ノアが乾いたヨモギを運びながら笑って言う。
「その場合、追い落とされるのって、クリストファー王子ですよね」
と。