ヨモギでモグサを作ります
「うむ。
これが人間が言うところの、肩がパンパン、というやつか」
夜、皿洗いを終えた魔王様が厨房で、ぐるぐる腕を回してみている。
「疲れがたまってきてますね~。
っていうか、変なところで人間っぽいですね~」
とアリスンは笑ったあとで、
「そういえば、外でいいものを見つけたんですよ。
まだ芽が若く、柔らかくて美味しそうだったので、ちょっとむしってきてしまいました」
と言いながら、アリスンは摘んでカゴに入れていたそれを見せた。
「ほう。
ヨモギだな」
この世界でもあまり物の名前は変わらない。
裏に白くてふかふかの毛があるヨモギを見ながら、魔王は言った。
「へえ、ヨモギって言うんですか」
とこちらは知らないらしい、街育ちのノアが覗いて言ってくる。
「そう。
ヨモギモドキもあるから気をつけて。
よく似たトリカブトなんて、猛毒だし。
この裏が白くてふかふかなのが、ヨモギね」
とアリスンは教える。
ノアはアリスンをじっと見て言った。
「お嬢が読書家なのは存じてますが。
最近、特に妙な知識をたくさんお持ちですね。
カミサマとか神社とか、ヨモギとか」
いや、それ全部、ひとくくり……? と苦笑いしながら、アリスンは言った。
「そう。
物の本で読んだんです。
このヨモギを乾かして粉砕したら、モグサというものができるらしいんですよ。
それでお灸をすえたら、肩が楽になるかもしれません。
あ、お灸って……
えーと。
こっている場所にモグサを載せて火をつけるんです。
ちょっと……かなり熱いですけど、効くみたいですよ」
ほう、と魔王は興味を示したようだった。
「しかし、干して作るというが、どのくらい干していたらいいのだ?
すぐにできるものなのか?」
「……干したり、乾かしたりして、
……三年後くらいにはできますかね?」
そのくらい置いておいた方が良いもぐさができると聞いた気がする、と思いながらアリスンが言うと、案の定、
「お前の提案、役に立つことはあまりないな」
と魔王に切って捨てられそうになる。
「あ、でも、一ヶ月くらいでも。
そこそこのモグサなら……」
とアリスンが言いかけたとき、溜息まじりに魔王がヨモギの上に手をかざした。
一瞬でヨモギがいい感じに乾く。
「魔法っ、使えるではありませんかっ」
「……使えたな」
「これで、皿洗いが得意な魔王様から、ヨモギが乾かせる魔王様に昇格ですねっ」
「それ、昇格なんですかね……?」
と横でノアが言っていた。