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王子がケチをつけにやってきました

 

「そんな感じに魔王様は手伝ってくださっているんですの」


 アリスンは王子にこれまでの経緯を説明し、そう言った。


「お前、カミサマを探しに行ったんじゃないのか。

 なに気軽に魔王とか拾ってきてんだ。


 返して来い、元居た場所に」

と言う王子にアリスンは、


 いや、犬か……と思っていた。


「っていうか、王子。

 婚約破棄したんですよね?

 私のやることにいちいち口出ししないでくださいよ~」


 そうアリスンが文句を言うと、ぬっと何処からともなくノアが現れ、王子に言った。


「お嬢は無茶も言いますが、今回ばかりはお嬢の主張が正しいです」


「お前までアリスンの味方か」

と王子は、ちっ、と舌打ちして言う。


 いや、この人、本来、私の味方であるべき従者ですからね。

 まあ、普段から反抗的ではあるんですけど、

とそんな王子のセリフを聞きながら、アリスンは思っていた。


 いつも、とりあえず逆らう、みたいな感じになっているからな、とアリスンはノアを見る。


 ノアも魔王に対してはまだ警戒心があるようだったが。


 とりあえず、ここはアリスンの味方をしてくれるようだった。


「まあ、また来る……」

ととりあえず、話を終わらせ、王子は食堂の庭を後にする。


 また来るんだ……と苦笑いしながら、アリスンはそれを見送った。




 アリスンが厨房に入っていくのを確認したクリストファー王子は、そっと茂みの陰から厨房の中の様子を窺おうとした。


 アリスンめっ。

 近いぞ、魔王と距離がっ。


 二人が話しているのをイライラしながら見ていると、魔王がなにか訊き、アリスンが魔王の手を取った。


 鍋の磨き方を手取り足取り教えているようだ。


 アリスンも鍋の磨き方など知っていたはずもないから、ここに来て習ったのだろう。


 だが、そんなことより、アリスンが魔王の手をずっと握っていることの方が気になっていた。


「おのれ、魔王め~っ。

 なにもわからぬフリなどしおってっ。


 魔王なら、この世のことすべて知っているのではないのかっ」


 王子は魔王を過大評価しながら、そう罵る。


 そのとき、

「そんなこと思うのなら、婚約破棄なんてしなければよかったじゃないですか」

と言う声が真横でした。


「まあ、王子のややこしい事情と、ややこしいお気持ちもわかりますけどね」


 ノアだった。

 いつの間にか忍び寄っていたようだ。


「お嬢に未練がおありなら、早めにどうにかされないと。

 王子がお嬢を振ったというので、公爵家にはすでに話がいろいろと来ておりますよ」


「話?」

と訊き返すと、


「縁談です」

とノアは言う。


「なんだとっ。

 私が婚約を解消したのは、つい、この間のことだぞっ」


「はあ、でも、お嬢は王子に一方的に振られたんですし。

 お嬢が身を清めてじっとしてないといけない理由なんてありませんしね。


 ほら、あの方、中身はちょっといろいろあれですが。

 見た目は美しいし、公爵家の財力も権力もあるし。


 もう今、引く手数多(あまた)で大変なんですよ。

 しかも、みな何故か、今、お嬢は王子に振られて傷心で、田舎に引きこもっていると思ってますしね。


 傷ついた美女に言い寄るなら今って感じですよ。


 まあ、公爵家が今、お嬢が領地の何処にいるのかもらしていないので、まだ誰も来てはいませんけど」


 王子が一番乗りです、と言ったあとで、ノアは、

「でもまあ、バレるのは時間の問題かと」

と言う。


 王子が渋い顔をしていると、ノアは忠告するように言ってきた。


「王子よ。

 振られるにしても、ハッキリ自分の思いをぶつけてからの方がいいんじゃないですかね?」


 いやなに、振られると決めてかかってるんだ。


 いや……、いや、振られて当然か。

 私が痺れを切らして婚約破棄してしまったから……。


 そう思う王子に、ノアは言う。


「ともかく、今はお嬢は他のことに夢中ですから。

 ご自分からアタックされないと、なんにも起こらないと思いますよ。


 許嫁をクビになってから、もうほんと生き生きしてますから」


 ここに来てアリスンを見て。

 自分も内心感じていたことをハッキリ突きつけられ、王子は、ぐっと詰まった。


 確かに。

 生まれてから今まで、アリスンは第一王子の許嫁ということで、我慢していたことがいろいろとあるだろうと思う。


 そこから解放してやれたのはアリスンにとってよかったとは思うのだが……。


「夢中になっている他のことって……。


 あの魔王か?

 それとも、カミサマ探しか?」


 すると、ノアは肩をすくめて言ってきた。


「それがお嬢ってほら、すぐ目の前の楽しいことに横滑りする人じゃないですか。

 おかげでいつもご機嫌なんで助かってはいるんですけど」


 まるで、ベビーシッターで預かっている子どもがむずがらないので助かる、みたいな口調だった。


「お嬢、今は、宿屋と食堂の経営に夢中なんですよ。

 変に才覚のある人なんで、みるみる繁盛してってますし。


 そのうち、此処に立派な街が完成したけど、神社作るの忘れてた~、とかなりそうですよね~」

とノアは共に働いているくせに他人事(ひとごと)のように語る。


 アリスンに、

「お嬢、本来の目的をお忘れですよ」

 などと忠告しててやる気はサラサラないのだろう。


 こいつはこいつで此処にいる方が楽しそうだな。


 ……なんか自分も混ざりたくなってきた、と王子は思ってしまったが。


 残念ながら、自分は王子だった。


「まあ、また遊びに来てください。

 あ、ご予約はお忘れなく。


 結構満室なんで」


 結局、宿屋の宣伝かっ、と思いながら、

「気が向いたらなっ」

と言い捨て、クリストファー王子は隠れて待たせていた馬車の方へと向かった。


 去り際、チラと振り返ると、アリスンは無表情な魔王に向かい、なんだかわからないが、楽しそうに笑っていた。



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