表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/48

汝の願いを叶えよう

 

 あの日、ひとり静かに暮らしていた洞穴に、公爵令嬢アリスンが嵐のようにやってきた。


 自分にはなんの力も特性もないと言うと、

「それじゃ、魔王の仮装してる人と変わらないではないですか」


 そうアリスンはのたまった。


 この役立たずめ、ちっ、という態度をとられたような気がして……、


 いや、よく思い返してみたら、そんなことは全くなかったのだが。


 魔王として一人前でないという思いに(さいな)まされていたせいか、そんな被害妄想に(おちい)ってしまった。




 数日後、魔王は人里に出てきてみた。


 この田舎に不似合いな屋敷がひとつだけある。


 この辺りの土地を管理しているヴィヤード家のものだ。


 魔王が近づいていくと、庭で他の娘たちと話していたアリスンがこちらに気づいた。


 周りに居る村の娘たちも愛らしいが、アリスンの美しさは際立っている。


 なにより、人を惹きつける雰囲気と品の良さがあった。


 確か、王子の許嫁をクビになったと言っていたな。


 まあ、なんかクビになりそうな奴だ……と魔王が思ったとき、強い風に妖しく髪をなびかせながら、アリスンが笑って言ってきた。


「おやおや、魔王様。

 よくぞ、ここまでたどり着かれましたわね」


 口調は改まっているのだが、その目つきと尊大な態度に、


 ……いや、お前が魔王か、と思ってしまった。




 魔王の自分より、アリスンの方がラスボス感が強かったので、ビビって――


 というわけではないが。


 魔王はアリスンに望まれるがままに、食堂で皿を洗っていた。




 あのとき、

「魔王様、なにしに里に出ていらっしゃったんです?」

と訊いてきたアリスンに、


「いや、魔王らしくお前の願いを叶えてみようかと」

と言うと、まあ、ほんとうですか? とアリスンは可愛らしく手を打って喜んできた。


 ……さっきの迫力との落差が激しいな、と思いながらも魔王は言った。


「ああ、叶えてやろう。

 お前の望みはなんだ?」


 お前の望みはなんだ? とか訊くと、なんだか偉くなったような気がするな、と思いながら。


 そうですわね、と小首を傾げたあとで、アリスンは言う。

 

「思ったより、宿屋も食堂も繁盛してしまって。

 人手が足らないのです。


 手伝っていただきたいですわ」


「私がか……」


「そうです。

 魔法で従業員を出せるのなら、それでもいいんですけど」


 いや、それはできん……と思う魔王にアリスンはいろいろ算段しながら言ってくる。


「魔王様が人間の前に出て給仕をするとか、魔王様的にはまずいですよね?


 厨房ならお客様から見えませんから。

 厨房を手伝ってくださいますか?


 皿など洗ってくださったら助かりますわ」


 ……思っていた望みと違うようなんだが、と思いながらも、普段やらないことに、ちょっと興味があり、魔王は訊いてみた。


「……皿を洗うとはどうやるのだ」


 言い終わる前にアリスンは若い娘たちを振り返り、


「すみませんが、皆様。

 魔王様にお皿の洗い方を教えてあげてくださいませんか?」

と訊く。


 はーい、とみなが手取り足取り丁寧に教えてくれた。


「すごいじゃないですか、魔王様っ。

 とても初めてとは思えませんっ」

とアリスンが自分が洗った皿を見て、褒めてくれる。


「魔王様、ご自分には、なにもないとおっしゃってましたが。

 とりあえず、皿洗いが上手い、という特性ができたではないですか」


 そ……そうなのか?


 なんだかわからいなが、アリスンは花のように笑い、喜んでいる。


 その顔を見たせいではないが、なんとなく、言われるがままに魔王は皿を洗い続けた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ