カミサマの代理人
「昔、飢饉や川の氾濫や、いろいろあるたび、人々はカミサマに生贄を捧げて祈ってて。
新しい天変地異とか起こると、新たな生贄を……
いや、生贄っていうのとは違いますかね?
ともかく、新しくその土地を守ってくれるものを社に捧げていたんです」
災害が起これば、その捧げものは力を失った、ということで、また新しい、生贄が捧げられたのだ。
「私は赤子のときにこの社に祀られました。
赤子の方がなんか長持ちすると考えたんでしょうね」
いや、肉体はなくなっていただろうから、そんなの関係ないんですけどね、とアリスンは言う。
「死んだ覚えはないんですけど、生きてもなかったというか。
そんなこんなで、私は村を守ってたんですけど。
でも、そのうち、人々は科学の力に頼るようになり、生贄も捧げなくなりました。
なので、代替わりしないまま、長い長い間、私は古い社の中に居て、人々を眺めていたんです」
美味しいイカ焼きの匂いとか嗅ぎながら、とアリスンは言う。
「まあ、拝まれても、願いを叶えられていたかは謎なんですが……。
そんなある日、母親に連れられてやってきた幼い男の子が、社の中に人が居ると言い出して。
小さな社殿なので、中に神主さんが居たり、巫女さんが居たりとかないところだったので。
お母さんが、ええ? と言って、その子を連れて、社に近づき、中を覗き込みました。
近くまで来たその子と目が会ったとき、その子が私に向かって言ったんです。
『もういいよ』
って。
『もういいよ。
今までありがとう』
って深い感謝を込めて、五歳くらいの男の子が言ったんです。
私を生贄として捧げた村長さんでした。
転生して、此処まで来てそう言ってくれたんです。
ちょうど社殿が建て替えになって、私はあの場所から解き放たれました。
何処へ行こう、と自由になった私は思いました。
ふと、イカ焼きを持ってきてくれた女の子とお母さんが頭に浮かびました。
そして、中に人が居る、と言った我が子を抱え、覗き込んできたお母さんとあの男の子が頭に浮かびました。
生まれてすぐ生贄になった私は家族というものを知りませんでした。
一番熱心にお参りしてくれて、泣いていたあの女の人が私のお母さんかな、とあたりをつけてはいましたが。
村の人たちみんな、泣きながら、祈ってくれていたので、正確にはよくわかりませんでした。
私は、今度は、家族みんなで暮らせる、あたたかくてやさしい人たちの居る場所で生きていきたいと願いました。
此処がそうです。
みなさんがいらっしゃる此処がそうです。
あたたかくて、楽しくて。
愛あふれる、新しい私の居場所です」
何故かサイバインがもらい泣きしていた。
「アリスン……」
とレイモンドと王子もアリスンの手を取り、涙を落とす。
アリスンも親の愛と王子の友情を再確認しながらも、これだけは、と思い、微笑みながらも言っておいた。
「いきなり婚約破棄されたり、さっさと次の人に嫁に出されようとしたりしてるけど。
此処が、私の居場所です」
「根に持ってますね」
とノアが笑って言った。




