あなたもそこまでですっ
ノアの首に剣を突きつけ、その動きを止めてくれた王子だったが、
「ノアよ。
何故、魔王様に害をなそうとする。
私が必死にそうしたい思いを抑えているというのにっ」
と言い出した。
ひいっ。
この男も自分の味方ではないっ、と魔王は怯える。
それにしても、何故、私は二人の男に命を狙われるはめにっ!?
ただ、長い間、ぼうっと寝ていて。
起きてからは、ひたすら皿を洗ってるだけなのにっ、と思う魔王は、
アリスンに恋する二人の男が、自分とアリスンが急接近していることを快く思っていない、という発想にはたどり着かなかった。
まず、アリスンを好きである自覚がなく、アリスンにちょっぴり好意を持たれている、という事実にも気づいていなかったからだ。
まあ、アリスン自身が自分の気持ちに気づいていないので、当然といえば、当然なのだが。
そのとき、
「王子、そこまでです」
とまた似たようなセリフを言う者が現れた。
今度は王子の首に剣が当てられている。
通りかかったアリスンが王子の腰からもう一本の剣を抜いて、その首許に押し当てたようだった。
「ま、待てっ、アリスンッ。
私はノアが剣で魔王を脅していたので、それを止めようとしただけだぞっ」
と叫ぶ王子はアリスンを振り返ろうとして、首が切れかけたようだ。
ひっ、と叫んで前を向く。
「そのようですね」
と言いながらも、アリスンは剣を引かない。
「いや、単に手近に王子がいたので、とりあえず脅しただけなんですけど」
そうアリスンは言った。
ノアが遠かったので、とりあえず、近くに居た王子から剣を下ろさせようと思って剣を突きつけたらしい。
いや、手近に居たからって、どんな元許嫁だ……と思う魔王の前で、アリスンがノアに命じた。
「ノア、剣を下ろして」
だが、ノアは、
「いやいや、お嬢。
下ろした途端に、スパッと王子に首をかき切られるかもしれないではないですか」
と言って従わない。
「待て。
なんで私がお前の首をかき切らなきゃならん」
と言う王子に、ノアは、
「そりゃあ、お嬢と私の縁談話が進んでいるからですよ」
と言った。
「いや、それで、お前をスッパリやったら、私が罪もない男を殺した罪で断罪されて。
アリスンは結局、他の男と結婚することになるだろうが」
「自分で婚約破棄したくせに、なに言ってんですか。
とりあえず、まず、王子が剣を下ろしてくださいよ」
とノアは言ったが、王子は、
「なにを言う。
私こそ、剣を下ろした途端に、アリスンに後ろからスッパリやられるかもしれないではないか」
と言って抵抗する。
アリスンが、
「なんで私が王子をスッパリやるんですか」
と問うと、王子は、
「……みんなの前で婚約破棄して、恥をかかせたからだろ」
と言いたくなさそうに言う。
「悪いことした自覚あったんですねえ」
と言ったノアが、
「じゃあ、そのままお嬢にスッパリやられてください」
と言うと、アリスンは、そうか、私、スッパリやってもいいんだっ、という顔をして、剣を下ろさない。
全員、身動き取れなくなっているところに、サイバイン卿が通りかかった。
もともと脅されていたのは、自分なのだが、今、一番恐怖を覚えているのは、王子だったらしく。
サイバイン卿を振り返り、叫んでいた。
「サイバインっ。
なんとかしてくれっ」
「……なにをやってるんですかな、あなたがたは」
と溜息をつきながら、サイバインがアリスンの剣から順番に叩き落としてくれた。




