表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/48

お前が魔王になにか捧げたんじゃないのか


「魔王ともあろうものが何故、皿を洗っているのだ。

 お前が魔王になにかを捧げたから、お前の仕事を手伝ってくれているのではないか」


 王子がそんなことを言い出した。


「いや、捧げるって、なにをですか」

とアリスンは訊く。


「処女とか」


「……処女を捧げて、皿洗いしてもらうとか。

 私の対価、安すぎませんか?」


 私、幾らの設定なんですか、元王子の許嫁なのに、とアリスンは文句を言う。


「いや、なんだかんだで魔王なんだろう?

 それが皿を洗ってるんだぞ、宿屋の食堂の。


 そうだ。

 魔王に皿を洗わせるとは何事だっ」


 いや、なんであなたが魔王サイドで物を言うのですか。


 どんだけ魔王をリスペクト……と思いながら、アリスンは言った。


「いやいや。

 温厚で人当たりのいい魔王様なんですよ。


 一度、お会いになったらわかりますって」


 ささ、こちらに、とアリスンは王子を魔王の許に連れていく。




 なんだ、温厚で人当たりのいい魔王って……と思いながら、クリストファー王子はアリスンについて行った。


 なるほど、ヴィヤード家の屋敷の後ろに木造で雰囲気のいい建物がふたつできている。


 宿屋とその隣が食堂のようだ。


 先に立って、食堂の厨房らしき部分に入ろうとしたアリスンを王子は止めた。


「待て。

 ……ちょっと此処から覗いてみよう」


「え? 何故です?」

とアリスンが振り返る。


 いや……と王子は言いよどんだあとで、

「だって、魔王だぞ。

 なにかが起こるかもしれないじゃないか」

と言った。


 はあ、とアリスンはピンと来ないような顔で相槌を打つ。


「……はあ、なにかが起こるかもしれませんね。

 泡が飛んでくるとか、水が飛んでくるとか」


 アリスンは自分に付き合い、いっしょに窓から中を覗いてくれた。


 長い黒髪に王冠をつけた立派なマントの男が皿を洗っている。


 無表情に洗っている。


 冷たさすら感じる知的な瞳。


 すっと通った鼻筋。


 高貴な表情のその男がこちらを見た。


 射殺(いころ)されそうな目つきに、思わずしゃがんで隠れてしまう。


「魔王だ……。

 魔王がここにいるっ!」


「だから、そう言ってるじゃありませんか」

とアリスンが自分を見下ろし、言ってくる。


 いやっ、あの目つきの何処が温厚で人当たりがいいんだっ、と宿屋の壁に隠れるように座り込んだまま、王子は思っていた。

 



 今、なにかが外から覗いていたような。


 まあ、たいした気配も感じなかったし、小物かな、と思いながら、魔王は皿を洗っていた。


「魔王様ー。

 その種類の取り皿、三枚ほど急ぎでお願いしますねーっ」

と大量の皿を下げてきた村のおばちゃんに言われ、


「……ああ」

と返事をする。


 ……何故、こんなことになっているんだ、と律儀に皿を洗いながら、魔王は思っていた。


 そうだ。

 あの娘があの日訪ねてきて……と魔王 モブは思い出す。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ