ちょっと気になることがある
実はちょっと気になっていることがある、と魔王は思っていた。
「アリスンよ。
お前の世界のイカ焼きとはどんな味なのだ?」
そう問うと、アリスンは、え? という顔をしたあとで、
「言ったではないですか、魔王様。
すごく香ばしくて、いい匂いがするものです。
あれは焦げた醤油の匂いですよ。
焦げた醤油の匂いが、私的には、この世で一番、おいしい匂いのような気がしますね」
と笑う。
「……味は?」
それは匂いで、味ではない、と思いながら、魔王は問うた。
「イカ焼きの味は?」
アリスンは苦笑いして、
「いや、だから、それが食べたことはないんですよね」
と言う。
「私は夜店が立つ、祭りのときには忙しくて。
……いや、実際には、境内にも入らずに、夜店がある参道だけで帰っちゃう人多いんですけどね。
ともかく、夜店にはいけないので、イカ焼き、食べたことはないんですよ。
イカの干物と醤油はあるので、こんな感じかな、と想像はできますが。」
ああそう、とアリスンは笑って言った。
「可愛い女の子が、そんな私を哀れに思ってか、イカ焼きくれようとしたんですけど。
お母さんに止められてましたね。
そんなものあげちゃ駄目じゃないのって。
すみませんって謝られたんですけど。
いや~、私は全然オッケーだったんですけどね。
あの場で、とても、そうとは言えなくて」
アリスンは、はは……と笑う。
そんなアリスンを見下ろし魔王は訊いた。
「……さっき言っていたイタリアンの店というのは、食べ物の店か。
コックがどうとか言っていたが」
「そうですけど?」
「お前、その店に行ったことはあるのか?」
「いえ、チラシを見ただけで、行ってはないですね~。
あ、チラシって宣伝のための紙なんですけど。
私たちの世界では、紙はもっと安価なものなので、普通に宣伝に配ったりできるんですよ。
それが境内を風に乗って飛んでたんで見ただけなんですけど。
でもチラシだけでも美味しそうでした」
「アリスン」
と呼びかけると、アリスンが自分を見上げる。
「いや、なんでもない……」
と言葉を濁し、魔王は裏庭に行った。
「魔王様、魔王様ー。
タコ、焼けましたよー」
とすぐに子どもたちが呼びにくる。
「トリスさんの家の台所から出て来た、忘れられていた秘伝のソースをかけたら、絶品だそうです~」
……あったのか、秘伝のソース。
っていうか、食べられるのか、忘れられていたソース、と思いながらも、
「ありがとう。
すぐに行こう」
と子どもたちに言った。
だが、戻ろうとする彼女らを呼び止める。
「すまない。
ちょっと頼みがあるのだが――」
と。




