世界を滅ぼせとか言ったら、どうなるんだろうな
「まあ、よくわかりませんが」
とノアが話をまとめに入ろうとした。
「要するに、起こしてはならぬ禁断の魔王様をお嬢がひょいと起こしてしまったという話なんですかね?」
「いやいやいや、だから、起こしたんじゃなくて、起きてたのよ、魔王様」
「待て。
禁断なのは森で、私じゃないだろう」
そうアリスンと魔王は言ったが、ノアは、
「禁断の森に住んでるんだから禁断の魔王様でしょうよ」
と主張する。
「そんなこと言ったら、おいしいイタリアンの店のコックさんは、おいしいコックさんになってしまうじゃないの」
「……なんですか、イタリアンの店って」
と言うノアに、
「いや、前世でチラシが飛んできて……。
って、今、その話はいいのよ」
とアリスンは言ったが、魔王様はなにか考える風な顔をしていた。
イタリアンになにかあるのだろうかな、とその横顔を眺めながら、アリスンは思う。
だが、この魔王様、実に美しい真面目な顔で、なにを考えているのかと思ったら、大抵、ぼんやりしたことを考えているからな。
だからといって、優秀でないかと問われると、まあ、優秀な人なのだろうが……。
願ったことも願ってないことも、今まで、ちゃんと叶えてくれているしな、とアリスンは思う。
ただ、我々の願望がしょぼいので、しょぼいことしか叶えておらず、結果として、しょぼい魔王様みたいになっているのではないだろうか。
……世界を滅ぼせとか願ったら、滅ぼせるのかもしれないが。
アリスンは長閑な村の光景を眺め、特に滅したくはないな~、と思っていた。
そこで、タコを手に王子が言い出す。
「確かにこの魔王様は、なにも村に害をなしてはいない。
……私には害をなしているがな」
……どらちかといえば、今、あなたに害をなしているのはタコでは?
手にすごい吸いつかれてるみたいなんですけど、と思いながら、アリスンは、
「王子、なにか魔王様に悪いことされました?」
と疑問に思い、訊いてみた。
王子はチラ、とアリスンを見、チラ、と魔王様を見たあとで、
「……いや、別に」
と言ってくる。
「だがまあ、この魔王様、悪い人ではないのはわかる。
魔王様を禁断の魔王様にしないためには、何処かよそで、禁断の森の魔王様を探してくればいいんじゃないか?」
「え?」
「この魔王様が板に刻まれていた危険な人物でないのなら、何処かに居るはずだろ。
別の危険な魔王様が」
それを見つけてくれば、すっきりするだろ、と王子は言った。
「それはそうなんですが。
なにか他に当てはありますか?」
とオースたちにアリスンは訊いたが、そもそもこの辺り、ゆるっとした平地や丘ばかりで、森がない。
「まず、森を探さないとですね~」
とアリスンが苦い顔をして言ったとき、まだ縫い物をしていたサイバインが言ってきた。
「いや、アリスン。
そんな暇はないぞ。
神社建設の計画に遅れが生じる」
あの、そもそも、この計画、期限はありません、と思ったが、サイバインは縫い上がった黄色いお守りをアリスンに渡しながら立ち上がる。
「魔王様が禁断の魔王様だろうが、なんだろうが。
この村に神社を建て、一代観光地にする計画はもう進んでいるのだ。
今更、引き返すことはできぬっ。
此処の売りはこの豊かな自然と穏やかな気候。
そして、温厚な村人たちだっ。
その長所を守りつつ、村を発展させ、みなが豊かに暮らせる村を作ろうではないかっ」
サイバインの宣言に、おおーっ、と村人たちが拳を突き上げる。
「あの~……、なんで一番ノリノリになってるんですかね、サイバイン様」
村人たちと一致団結するサイバインを見ながら、アリスンは苦笑いし、そう呟いた。




