心当たりがないんだが……
「……私は起こしてならぬ存在だったのか」
とその板を見ながら魔王様が呟く。
「いやいや、そんなことはないですよ。
起きてくださって、とても助かっています」
とアリスンは魔王様に慌てて言った。
「だが、この板を書いた奴は私に起きてくるなと言っている」
……なんか根に持っているようだ、と思いながら、アリスンは言う。
「まあ、わからないですよ。
この板を書いた人が悪い人で、魔王様が起きてこない方が都合がよかったのも……」
そう言いかけ、ハッとした。
オースに向かい、謝る。
「す、すみません。
これ書いたの、オースさんのご先祖様かもしれないのに」
せっかく探してきてくれたのに、悪かったなとアリスンは思ったが。
オースは特に気にしていないようで、いやいや、と笑う。
「うちの先祖が書いたとは限りませんよ。
拾ったものを納屋に放り込んでただけかもしれないし」
豪快に笑うその様子が、ますますイタリアンのコックの絵に似て見えた。
ノアも横から、その板を見て、うーんと首を捻り言ってくる。
「魔王様が起きると不都合がある人間が居るってことなんですかね?」
「いや、そもそも私は寝ていなかったぞ。
まあ、最初は寝ていたのかもしれないが。
なんだかわからないが、ずっとぼうっとしてたんだ」
禁断の森の奥で、ずっと、ぼうっとしているような魔王様を起こしたからと言って、なにも起きそうにはないんだが……とアリスンがちょっぴり失礼なことを思ったとき、オースが言ってきた。
「そもそも、我々はあの森が禁断の森と呼ばれていたことすら知りませんでしたよ。
でもまあ、あまり奥には入ることのできない森なんですけどね」
「え? そうなんですか?」
やはり、禁足地かなにかなのだろうか、と思いながら、アリスンは訊いたが。
オースたちは、
「そもそも、魔王様のおうちって、何処にあるんですか?
そんなの見たことないんですけど」
と言い出した。
「何処って……、
森の奥だな」
と魔王様は曖昧に答える。
誤魔化しているわけではなく、ふわっとしか知らないではなかろうかとアリスンは思っていた。
ふたたび、失礼なんだが。
この魔王様、ちょっぴり方向音痴そうというか。
そう思いながら、アリスンは、
「そうですね。
すごく奥の方でしたよ」
と言ったが、
「すごく奥って……」
と近くにいたトリスが首を傾げる。
木こりをしている男だ。
「あの森の奥には入れませんよ。
結界みたいなものがあって、途中まで進むと、入り口に戻されるんで」
なにそのスゴロクみたいなの……と思いながら、アリスンは問うてみた。
「いきなり、ぽーんと飛ぶんですか? 最初の場所まで」
「いいえ。
前に進んでるはずなのに、いつの間にか、最初の場所に戻ってるんです」
樹海か……とアリスンは思う。




