意外と一番の大物なのだろうか
「甘くて、むっちりした歯応えで、塩もよくきいてて。
たまらないですね~、このイカってやつは」
ご機嫌にイカをむさぼり食っているノアを見ながら、魔王は思っていた。
こいつは焦らないのだろうかな、と。
王子がこれだけアリスンにいいところを見せているのに。
意外に大物なのか。
ノアはただただ、焼かれたイカを堪能していた。
しかも、王子に焼かせている。
いや、単に今は自分がアリスンの婚約者候補だという余裕のせいかもしれないが。
「魔王様、どうぞ」
と宿泊客にイカをふるまっていたアリスンが、魔王の許にも持ってきてくれる。
ああ、と受け取り、イカを口にした。
歯応えがよく、甘くてなんとも言えない後味だ。
これは癖になるな、と思いながら、
「これがお前の食べたかったイカ焼きか」
と魔王は言ったが、アリスンは、
「いえ……」
と言う。
「これはこれで充分美味しいんですけどね。
あの、焦げた醤油の匂いのするイカ焼きが食べたかったんですよ~。
でも、醤油を作るの、ハードル高すぎなんでっ」
とアリスンはのたうつ。
「一年はかかりますしね、できるまで。
第一、麹作るの大変だし。
東の方に向かっていったら、何処かに醤油っぽいものがあるかもしれませんが」
とアリスンがもらすと、すかさず、王子がやって来て、
「アリスン」
とアリスンの手を握り言っていた。
「お前のために、今から航海に出ようっ」
だが、アリスンはそこは冷静に、
「いや、そろそろ王宮に戻って仕事してください」
と王子に言う。
それはそうだ。
近場に新しい交易のルートを開くのなら、王子の手柄にもなろうが。
醤油などというよくわからない物を求めて、あてのない旅に出られては、国が混乱する。
アリスンはおのれの欲望を叶えつつ、上手い具合に王子の立場もよくしている。
「できた嫁かもしれんが、私は認めぬ」
同じことを考えていたらしいサイバイン卿は、低くそう呟きながら、チクチク刺繍をしていた。
「ところで、ずいぶん大量に作ったようだが」
と魔王はうず高く積み上げられたお守りを見る。
「はあ。
サイバイン様が張り切ってくださいまして」
「これにカミサマとやらの力を入れるのだろう?
……カミサマの力が分散して、力尽きてしまわないか?」
だが、アリスンは何故か、小さく分裂したたくさんのカミサマを想像したらしく、
「可愛いですね」
と呑気なことを言っていた。




