その男、サイバイン
誰なのだろうな、この男は、とサイバイン卿を知らない魔王は、いきなり入ってきたマントの男を眺めていた。
貫禄ある貴族といった出で立ちで、渋い容姿も悪くないが。
話を聞いているうちに、どうやら、アリスンと王子を婚約破棄させた張本人だということがわかってきた。
「そこの御仁」
と魔王が話しかけると、サイバインはビクリとする。
なんかわかんないのが話しかけてきた……という表情を隠しもしない。
「突っ立っていないで、椅子にでも座られたらどうか」
と魔王は椅子を勧めてみた。
「なに歓待してるんですか、魔王様」
とノアが言ってくる。
いや、アリスンと王子を婚約破棄に導いてくれた男だからというわけでは決してない……。
サイバインは、
「ま、魔王……?」
と口の中で呟きながら、チラチラとこちらを見てくる。
そういえば、魔王っぽい、とその顔に書いてあった。
しかし、全員が立っているのに、ひとり座るのも間抜けだから、サイバインは立ったまま、アリスンに訊いていた。
「ア、アリスン様。
何故、此処に魔王などいるのですかな?」
答えたのはアリスンではなく、王子だった。
「アリスンが拾ってきたのだ」
と溜息をつきながら、王子は人を犬かなにかのように言ってくる。
「魔王をですか」
とサイバインがこちらを見ると、
「い、いや、なかなか役に立ってくれる、よい魔王なのだが」
と王子は慌てて付け足していた。
よい魔王って、なんだ……と魔王は思ったが。
きっと、サイバインが、魔王なら退治せよ、と言い出してはいけないからだろう。
なんだかんだで、人がいいな、王子、と魔王は思う。
だが、そんな王子とアリスンでは、ぼんやりが二人になって、夫婦の組み合わせとしてはどうだろうな、と思ってしまう。
いや、アリスンはあれでなかなか、自分より魔王っぽいところもあったりするのだが。
人がいいことには違いないからな、と思っている間、サイバインは、アリスンから、此処に神社を建てて、カミサマを祀り、街にする計画を聞いていた。
ほう、と言ったサイバインは、
「なかなか悪くないですな。
我が国の新しい観光産業となるでしょう。
ですが、肝心のカミサマは何処にいるのです」
と言う。
アリスンたちは、うーん、という顔をしたあと、全員、こちらを手で示してきた。
「……いや、魔王ですよね、この人」
と実は誰より理性がありそうなサイバインが言う。
「でも、力があるという意味では、同じですよ。
心の綺麗な魔王様なら、カミサマと変わらないんじゃないですかね?
逆に、荒ぶるカミサマだって、いらっしゃるわけですし」
と言うアリスンの言葉を聞いたサイバインは顎に手をやり、頷いたあとで言ってきた。
「その発想の切り替え。
悪くはないですね。
アリスン様。
あなたは行動力もあり、人をまとめる力もあるようだ。
男なら、うちの婿に欲しいくらいですよ」
今、私、切り捨てられましたか……? という顔を王子がしていた。
「しかし、アリスン様。
お若いのに、よくカミサマをご存知でしたね」
その言葉に、アリスンは、ん? という顔をする。
「サイバイン卿はカミサマ、ご存知なのですか?」
「昔語りとしては存じてますよ。
私の産まれた頃には、もういらっしゃいませんでしたけどね。
そもそも、そんな都合のいい存在、この世界にいるのでしょうかね?
……いや、都合のいい魔王様ならいるみたいですけどね」
とヨモギがいっぱい入ったカゴを手に入って来た村人に言われ、乾かしてやっているところを見ながら、サイバインは言う。
そこで、サイバインは王子を振り向き言った。
「王子、まだいらしたのですか。
なにかを捕らえに行くのではなかったのですか」
いや、なんで、あんたが急かす……という顔を王子はしていたが。
サイバインは物事がきちんと進まないのが嫌いな人種のようだった。
「ほら、お早く。
なんだか知りませんが、人手がいりようなら、うちの兵も貸しますから。
急いでっ」
と喝を入れるように言われ、はいっ、と王子は支度をはじめた。




