ところで、魔王様はなにができるんですか?
「ところで、そのモブな魔王様はなにができるんですか?」
この人(?)、カミサマの代わりに神社に祀れないだろうかと思いながら、アリスンは訊いてみた。
魔王様は沈黙されている。
まさか。
……できないのか、なんにも。
どの辺が魔王なんだ……とアリスンは思う。
その玉座のような椅子とか、立派なマントとか。
王冠とか、手入れの行き届いた長い黒髪とか、美しい顔くらいしか魔王っぽいものがないのなら――。
「それじゃ、魔王の仮装してる人と変わらないではないですか」
と言って、
「待て」
と魔王様に言われる。
「私はまだ魔王となって日が浅いのだ。
これからどのような属性の魔力を得ようかな、と日々考えているところなのだ」
「日が浅いって、どのくらいなんですか?」
「……数百年かな。
お前、やっぱり、こいつモブかなと思っただろう、今」
「魔王様、すごいですねっ。
人の心が読めるではないですかっ」
魔王をモブだと思ってしまったことをうっかり認め、アリスンは魔王を褒めたたえた。
そんなアリスンを怒るでもなく、魔王は溜息をつき、言ってくる。
「お前の心なら、誰にでも読めるさ。
顔に全部書いてあるからな」
アリスンは、そんな魔王の美しい憂い顔を眺めながら、
まあ、数百年もこれといった魔力も得ないまま過ごしているのなら、やはりモブかな、と思っていた。
っていうか、モブな魔王ってなんなんだ……。
いやまあ、この世界には、魔王ってたくさんいるのかもしれないから。
大魔王様とか、その他大勢の魔王様とか。
ま、モブな人もいるだろうな、などと考えていた。
「で、そのモブな魔王はどうなったんだ?
っていうか、魔王でモブってどうなんだ?」
アリスンの話を聞いた王子は、アリスンと同じような感想を述べてくる。
「魔王様なら、今、そこでお皿を洗ってらっしゃいます」
は? と王子は訊き返してきた。
アリスンは後ろを振り返りながら、
「台所でお皿を洗っていらっしゃいますよ。
いや~、大きな神社を作ったら、城下町みたいに周りに街がいるかなって思って。
とりあえず、宿屋と食堂を作ってみたんですよね。
そしたら、意外に繁盛してしまって、人手が足らなくなって。
困っていたところに、ちょうど魔王様が。
それで、そのまま手伝ってくださってるんですよ」
ほら、あっちです、とアリスンは屋敷の後ろの方を指差した。
「いずれ、お土産物屋とかも作って、おかげ横丁みたいにしたいんですよね~」
「なんだ、おかげ横丁って……」
いや、伊勢神宮の側にあるあれだが、王子に言ってもわかるまい、と思いながら、アリスンは言った。
「お食事処やお土産物屋がある。
楽しいところですよ、王子」
と。
「……いや、私が訊きたいのはそこのところではないのだが」
訊きたいのは、何故、魔王がお前の手伝いをしているのか、というところだ、と王子は言う。