そうだ、私は魔王だった!
王子め、自ら婚約破棄したというのに、いつまでもアリスンの周りをチョロチョロと。
話しているふたりを眺めながら、魔王はちょっぴりイラついていた。
だが、いやいや、こんなことを考えてはいけない、と自制する。
何故なら、私は魔王だからだ。
魔王が特定の人物だけを憎むというのはどうなんだ。
魔王としては、人類を全般的に憎むべきではないのか。
魔王は、魔王とはどんなものなのか、そして、どうあるべきなのか。
アリスンが宿屋に作った図書室の本で学んでいた。
根が真面目だからだ。
どうやら、魔王とは人類を憎み、彼らに災厄をもたらすイキモノらしい……。
そんなことを考えている魔王のところに、とことこ歩いてきた幼い少女がフリージアの花を差し出してきた。
「はい、魔王様にもお花」
「す、すまない。
ありがとう……」
と言うと、少女は、まっすぐ目を見て、にこっと微笑む。
今すぐ連れて帰って、自分の玉座を捧げて座らせたいくらいの可愛らしさだった。
……無理だ。
人類全般を憎むのは。
憎めそうなのは、かろうじて王子くらい、と思いながら、魔王はふたたび、アリスンと話す王子を見た。
また、アリスンがなにかしょうもないことを言ったらしく、王子は驚愕の表情を浮かべていた。
幼なじみでアリスンの言動には慣れているはずなのに、まだ驚愕することがあるのだな。
人間とは奥深いものだ……。
まあ、アリスンだからな、と魔王が思ったとき、アリスンが糸くずでも見つけたのか、王子の腕に触れようとした。
王子がビクリと後ずさる。
赤くなって、なにかわめきながら、ノアの方に向かい、後退していった。
……幼なじみなのに、アリスンに触れられそうになっただけで、あんなに動揺するとは。
まずいな。
やはり、王子もなんだか憎めない……。
魔王として、人類を憎むべきかと思っていたが、何処も憎むべきところが見つからない。
魔王の人類憎もう計画は人知れず頓挫していた。
魔王は考える。
人類を憎めないのは、まあいいとして。
ヨモギを乾燥させたり、皿を洗ったり。
人類にとって役立つことしかできないのは魔王として問題があるのではないだろうか。
……というか、そもそも私は今また、人類のお役に立とうとしているではないか。
そう思いながら、魔王はアリスンを見た。
さっきから、どうやったら、アリスンのためにイカ焼きが作れるかな、と考えていたのだ。
困ったことがあると、すぐにお役に立とうとする魔王。
魔王として問題があるな。
便利屋か、と自分で思う。
だが、アリスンのためになにかしようとするとき、もっともおのれの力が開花するような気がしていた。
アリスンのためか、と思った魔王はアリスンに言う。
「そうだ、お前が悪ならよいのだ」
「は?」
「さすれば、魔王である私が、悪なお前の手助けをすることに、なんの問題もない」
横で、それを聞いていた王子が眉をひそめ、呟いた。
「結構、こいつ悪だと思うが……。
そんなつもりはないのだろうが、神社を作りたいというおのれの欲望にみんなを巻き込んだり。
俺とノアを弄んだりしている」
「いや、弄ぶってっ。
……だから、あなたが私を捨てたんですってば~っ」
と花を持った子どもたちによじ登られながら、アリスンは叫んでいた。




