わたしの前世を語りましょう
そのあと、魔王様たちに、いまいち理解が得られなかったアリスンは、結局、イカ焼き食べたさに、巫女だった前世の話までしてしまった。
「私は前世、イカ焼きの匂いを嗅ぎながら、いつかあれを食べたいと胸を騒がせていました」
「待て」
と魔王様が言う。
「お前、巫女だったときも、全然心静かじゃなかったじゃないか」
王子に婚約破棄されて。
前世、巫女だったときのように心静かになりたいと思い、神社を建てようとしたんじゃないのか、と言われてしまう。
そこでノアも言ってきた。
「全然心静かじゃないうえに。
その程度のことで、仕事を放り投げようとする人が、この世界に神社を作って巫女とやらになる必要はあるのですかね?」
だが、アリスンは思い詰めた顔で、みんなに言った。
「……すべてを投げ打っても、イカが食べたくなる、そんなときはありませんか?」
「ない」
と二人に声をそろえて言われてしまった。
「お前は王子妃になっていても、猛烈にイカ焼きが食べたくなったら、その座を投げ打って出て行ってしまいそうだな」
と魔王様が言い、ノアが、
「まあ、そういう人だから、なんだかんだで、王子妃候補の座を追われたわけですよね。
喉から手が出るほど、そういうものになりたい人や、娘をならせたい人はいるわけですから。
でも、お嬢は今の生活の方が向いてる気がしますねえ」
と言う。
「だがまあ、イカ焼きとやらが食べたいというより、単に強烈に、その前世の世界が懐かしくなったのやもしれんな」
と魔王様が多少の理解を示してくれたのだが、アリスンは言った。
「いえ、イカ焼きが食べたいだけです」
ただただ、イカ焼きが食べたいだけです、と鼻先にあの香りの記憶がまとわりついたまま、アリスンは繰り返す。
そもそも、前世の記憶があるとは言っても、思い出せるのは、社殿や境内。
鎮守の森を吹き渡る風。
そして、鮮やかな夜店とイカ焼きの匂いだけだ。
「今の私にとって最も大事な世界は、この世界ですよ。
だって、皆さんがいてくれるから」
そうアリスンはみなを見回し、微笑む。
従業員たちは感激し、口々に言った。
「おお、アリスン様が……」
「アリスン様がイカ焼きの世界より、我々を選ばれたっ」
ノアだけが、
「いや、選んで当然だと思いますね。
っていうか、イカ焼きの世界よりは、我々を選びましたけど。
イカ焼きよりは選んでないですよね……。
我々を置いて旅立とうとしてしましたし。
なんで、イカ焼き求めて旅立とうとした人の人気が上がってるんですかね?」
と不満げに言っていたが。
そんなノアの横から、可愛い子どもたちが、
「元気出して。
アリスン様」
と宿屋に飾るように摘んできてくれた花をアリスンに捧げてくる。
「あ、ありがとうっ」
とアリスンが、ちょっと申し訳なくなりながら、その花を受け取ろうとしたとき、
「ほうっ。
向日葵ではないかっ」
と声がした。
その花束の中の向日葵を抜いたのは、いつの間にやら現れた王子だった。
「あ、王子。
よかった、咲いてるうちに来られて。
王子の向日葵咲いたんですよ。
宿屋や厨房に飾ってもよいと言われていたので、飾っちゃってますよ」
ありがとうございます、とアリスンが言うと、なんとっ、と王子はその花を見て驚く。
「タネ蒔いたばかりだよな。
私は天才かっ?」
いやあの……耕して人様のくださった肥料を混ぜて、タネを埋めただけですよね、王子。
どの辺に天才性を見出せばいいのだろうか。
肥料の混ぜ方かな……?
と思いながら、アリスンは向日葵を手に嬉しそうな王子を見る。




