あれって、求婚されたんですかね?
「私、ノアと結婚するのかもしれません」
その日の休憩時間、魔王様と花畑を見ながら、アリスンは言った。
「なんだ、その他人事みたいなの……」
と魔王様が言う。
いや~、とアリスンは腕組みし、小首を傾げて言った。
「私、知らなかったんですけど。
ノアはいざというときのための私の花婿候補だったみたいなんですよ。
昔から、お父様にそう言い含められてたみたいで。
それで、ノアは、その話を受けてもいいって言うんです」
アリスンにとっては衝撃的な出来事だったのだが、魔王様は、あっさり、
「それはそうであろうな」
と言ってきた。
「え?
そうであろろうなって?」
「ノアはお前が好きだから、こんな片田舎まで、ノコノコ付いてきたんだろ?
お前以外はみんな知ってたと思うぞ。
王子も」
ええっ?
そんな莫迦なっ、とアリスンは声を上げてしまう。
「ノアも王子と一緒で、私を罵ることしかしないような人ですよっ」
「そんなもんだ。
好きな女の前では素直になれないのだろう。
いや、昔、人間の本でそんな風なものだと読んだことがあるだけだから、よくは知らないのだが」
と自分と同じく、恋には疎いらしい魔王様は言う。
「だから、同じようにお前の側にずっといて。
同じようにお前を罵っていた王子もやはり、お前をずっと好きだったんだろう」
「いや、王子、私と婚約破棄しましたけど?」
「自分にまったく気がない様子のお前にイラッと来たからじゃないのか?」
「……確かに、王子のことをそういう意味では好きにはなれなかったです。
でも、小さな頃から、王子の花嫁となるようにと教育されてきたのです。
これもあの家に生まれた宿命。
王様や王妃様にも、息子を頼むと言われたことですし。
頑張って、王子妃に就職し、生涯勤め上げるつもりでしたのに」
「……なんだ、就職って」
アリスンと話しながら、魔王こそが今、イラッと来ていた。
なんだ、諦めて生涯勤め上げるつもりだったって。
あの王子を愛してもいないのに一生添い遂げるつもりだったのか?
阿呆なのか、お前は。
人間というのは、家とか、友情とか、絆とか、使命とか。
縛られるものが多すぎて、心のままには生きられぬものなのだな。
魔王でよかった。
そう魔王は思っていた。
アリスンを見ながら、
こいつも魔王として生まれていたら、もっと自由で楽な人生だったろうに、と思う。
……いや、言動だけは、自分より、この娘の方が遥かに魔王っぽいのだが、と思っていると、長く沈黙してしまった自分にアリスンが訊いてきた。
「どうかされましたか? 魔王様」
「いや、思い出していたのだ。
初めてここを訪ねてきたときのことを」
あら、とアリスンが少し懐かしそうな顔をする。
ほんのちょっと前のことなのに、確かにもう懐かしい感じがする。
そう思いながら、魔王は言った。
「そこで、お前が私を振り返り、言ったんだったな。
『魔王よ。
よくぞ、ここまでたどり着いた!』
と」
「いや……そんな言い方してませんよね……」
いや、ほぼ、そんな感じだったぞ、と思いながら、魔王は、この見た目に反して、誰よりもラスボス感ある令嬢を見る。




