ここは魔力のある土地なのかもしれません
「え?
植え替えてないよ? 裏の花」
ノアに王子が植えた向日葵が咲いたことを聞いたアリスンは夕食の席で、そう言った。
「魔王様、咲かせてくださいました?」
ともう客のいない食堂でアリスンは隣に座る魔王様を振り向く。
「いや、私は手出しはしておらん。
自分で育ててこそ、王子も喜ぶであろうからな」
いや、どのみち、普段のお世話は私がする予定だったんですけどね……と苦笑いしながら、食事の終わったアリスンは立ち上がり、宿屋の裏に行ってみた。
なるほど。
鮮やかな向日葵が見事に咲いている。
「ほう。
これはどうしたことだろうな」
と魔王様が言う。
アリスンはちょっと考え、王子の花畑の横を少し耕し、タネをちょっとだけ撒いてみた。
近くにいた従業員の子どもの手をつかみ、
「お花、咲かせてみようか」
と微笑みかける。
その女の子の手首をつかみ、一緒に花の上に手をかざしてみた。
可愛らしいフリージアが一気に芽が出て、花開く。
「わかりましたっ。
ここは魔力のある土地なんですよっ」
そうアリスンは叫んだ。
「あの怪しい森も近いですし。
ここは願ったことが叶う土地なのかもしれません。
実は私、さっき、魔王様みたいに、ここに手をかざしてみたんです」
「それでなにを願ったのだ?」
と魔王様が訊いてきた。
そりゃ、花が早く綺麗に咲くようにですよ、とアリスンは思っていたが。
魔王様が、
「あれか。
さっさと花が咲いて、満足した王子がもう来なくなるといいなとか?」
と言い、ノアが、
「自分が婚約破棄したくせに、毎度、ノコノコ現れやがって。
とっとと花咲かせて、とっとと帰りやがれっ!
……と願ったってことですかね?」
と言ってくる。
「……いやそれ、誰の願いなんですか?」
私じゃないですよね、とアリスンは言った。
「それにしても、願っただけで、猛スピードで花が成長して咲くとか。
ここはやっぱり、神聖な土地なのかもしれませんね。
神社を建てるのに相応しいですねっ」
とアリスンは言ったが、みんなの顔には、
いや、あなた、さっき怪しい森の魔力って言いましたよ……と書いてあり、魔王様の顔には、
花咲いたの、土地の魔力なら、私はなにも関係ないじゃないか……、
と書いてあった。
ノアはアリスンたちが食堂に戻って行ってしまったあと、ひとり夜風に揺れる花々の前に立っていた。
残っていたフリージアの花のタネをすぐ側に植えてみる。
しゃがんだまま、土に手をかざしてみたが、なにも起こらない。
やはり、と思いながら、ノアは立ち上がった。
「……何者なんでしょうねえ、あの人」
振り返り見た食堂からは温かい光がもれ、みんなの笑い声が聞こえてきていた。




