お前は私になにを捧げるのだ?
魔王様と二人、アリスンは両手いっぱいに花を抱いて食堂に戻っていた。
「すごいですね、魔王様。
お花も咲かせられるようになって。
あっという間に進化されてますね。
さすがは魔王様ですね」
アリスンはそう言ったが、魔王様は、
「いや、やっと花が咲かせられる、くらいなのは、魔王として問題なんじゃないか?
でも確かに不思議だな。
お前といるといろいろな能力が勝手に開花していく気がする」
と言ってきた。
「あ、じゃあ、やっぱり、魔王様が私のカミサマなのかもしれませんね」
とアリスンは笑う。
「それで、きっと私は魔王様と相性のいい巫女みたいなものなんですよ。
あ、巫女ってカミサマにお仕えするもののことです。
相性のいい巫女が魔王様の手足となり、働くことで、魔王様にもいろいろ相乗効果があって、進化されるとか」
「いや、今のところ、私がお前の手足となり、私が働いているのだが……」
その話で行けば、お前が神で、私が巫女ではないのかと言い出す。
「そういえば、魔王というのは、なにかを捧げられて願いを叶えるものではなかったか?
私はお前の願いを次々叶えているぞ。
お前は私になにを捧げるのだ」
そうですねーと言ったアリスンは魔王様を見上げ、
「魔王様、なにが欲しいですか?」
と訊いてみた。
だが、魔王様は、うーんと首をひねって言う。
「……そういえば、今、特に欲しいものはないな。
あのなにもない洞穴で満足しているから」
「じゃあ、なにか欲しいもの思いついたら言ってください」
とアリスンは笑った。
「ああそう。
たまに夜、寂しいときなど、お前が話し相手になりに来てくれると嬉しいかな」
「それはお安い御用ですけど。
そういえば、魔王様は、何故、あの洞穴にお住まいなのですか?
あそこにいると魔力が溜まるとか?」
と訊いてみたが、いや別に、と魔王は言う。
「じゃあ、魔王様、宿屋に住まわれてはいかがですか?
今、部屋の稼働率100%じゃありませんし。
空いてますから。
どうですか? この際、住み込みで」
とアリスンが笑って言ったとき、
「なに、魔王に住み込みで皿洗えとか言ってんだ、お前は」
と声がした。
また、王子だ。
「きょ、今日もたまたま用事があったのだ。
いや、ほんとうだ……」
と視線を合わせず言う王子に駆け寄り、アリスンはその手をとった。
「わかっておりますともっ。
王子はこう見えて仕事熱心な方ですからね。
お仕事のついでなのでしょうっ。
ありがとうございます、ありがとうございますっ」
思わぬ大歓迎に幼い頃からアリスンをよく知る王子は警戒する。
「……怪しいな。
なに企んでるんだ?」
「いえ、ちょっと調べて欲しいことが……」
とアリスンが苦笑いして白状すると、
「都合のいいときだけ頼るな。
我々は婚約破棄しているのだぞ」
と王子は言ってくる。
「いや~、その婚約破棄した令嬢のところに頻繁に顔出すのどうなんでしょうね」
と王子の更に後ろからノアが言ってきた。