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婚約破棄の真実

 

 サイバイン卿は事あるごとにクリストファー王子に囁いていた。


「あの娘は王子を愛してなどおりませぬ。

 これはヴィヤード家がいずれ王となられるクリストファー様を操るために仕組まれた縁談。


 騙されてはなりませんぞ」


 王子は思っていた。


 サイバイン卿はどうやら、アリスンを退(しりぞ)け、自分の娘を押し付けようとしているようだ、と。


 家の格としては同じくらいなのに。

 自分とアリスンが結婚することにより、ヴィヤード家に出し抜かれそうなことが怖いのだろう。


 だが、この婚約に不満を抱いているのは王子自身も同じだった。


 アリスンがいつも自分に気のない素振りを見せるからだ。


 幼なじみなので、仲はいい。


 だが、いつもなんとなく、ノアが間に挟まってるし。


 たまに二人きりになっても、甘い言葉を頑張って囁いてみても、アリスンは、

「ご冗談を」

と言って逃げてしまうのだ。


 ノアにそのことを打ち明けると、

「そんなの私なら、とっくの昔に婚約破棄してますよ~」

と言って笑っていた。


 まあ、ノアの話は話半分に聞くとしても。


 ……聞くとしてもだ。


 アリスンが自分に気がないことだけは確定のような気がする。


 それでも、このまま黙ってさえいれば、なんとなく――


 なんとなく、

「もうしょうがないですね~」

と言いながら、アリスンは特に問題なく結婚してくれるような気はする。


 だが、新婚初夜でさえ、


「ご冗談を」

と言ってそそくさと逃げてしまいそうな気がしているのだ。


 家のために結婚という形をとっておきさえすればよい、と思っている節があるからだ。


「このままでは王子はヴィヤード家の傀儡(くぐつ)

 奴らの野望にいいように利用されるだけですぞっ」


 内心不安に思っているところを日々、ざくざくとサイバイン卿に斬り込まれ、ある日、限界に来た王子は言ってしまったのだ。


「アリスン・ヴィヤード、お前との婚約を破棄する!」


 そう。

 あのときはもう限界だった。


「……破棄してくれ、頼む」


 これ以上、お前に振り回されるのはごめんだ。


 そう思っていた。


 こんな、私だけがお前を好き、みたいな状況、これ以上続けたくない。


 婚約破棄したら、きっと自分も落ち着くだろう。


 そう思っていたのに……。




 なんか余計に落ち着かなくなってしまったな……、

とまたあの厨房に来た王子は、隅の長椅子に腰掛け、半裸で肩や背中を焼かれながら思っていた。


 アリスンは時折、自分の焼け具合を見ながら、ノアや魔王様とモグサの商品化について話し合っている。


 ノアよ。

 私にはなんだかんだ言っておいて、なにお前はちゃっかりアリスンについてこんなところまで来てるんだ。


 そして、魔王よ。

 なんで、厨房を手伝ってんだ……。


 こんな片田舎の厨房に、何故か麗しく高貴な面立(おもだ)ちの三人が集まり、ああだこうだと言い合っているのを王子はお灸のせいで、前屈みに座ったまま眺めていた。


 いや、実際に発言しているのは、アリスンとノアで。


 魔王は、うむうむ、と無表情に頷いているだけなのだが。


 そのとき、とことことアリスンがこちらにやって来た。


「どうですか?

 熱くないですか?


 すごく熱かったら、たぶん、ツボから外れてるんじゃないかと思うんですよ」


 そう言いながら、燃え尽きたモグサを退けてくれる。


 半裸の自分の背中を身を乗り出して見、

「あー、ちょっと痕になっちゃいましたねー、すみません」

と言う。


 お灸の痕を見てくれているようだ。


 アリスンの白く長い指先が背中に触れた瞬間、つい、緊張して、ビクリと震えてしまう。


 だが、不思議なものだ、と思っていた。


 婚約破棄してからの方がこうして、アリスンが自分に触れてきてくれるとは……。


 婚約しているときは、自分がたまに迫ろうとするせいか、逃げ気味だったのに。


 今は、

「王子、熱かったら言ってくださいね~」

と間近に微笑みかけてくれる。


 なんかちょっと嬉しいな……。 


 結局王子は、サイバインの言う通り、アリスンの野望に振りまわれていた。


 神社を建てて、此処を宿場町にしたいという、思っていたのとは違う、野望にだが――。




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