カミサマとやらは見つかったのか?
「でも、モグサ、ちゃんとツボに置けば、効き目はあると思いますよ。
そうだ。
ツボを書いた紙といっしょに宿屋や食堂で売ったらいいんじゃないですかねっ」
「お前は、ぼうっとしているわりに、商魂逞しいな……」
そう言ったあとで、魔王様は訊いてきた。
「ところで、カミサマとやらは見つかったのか?」
「カミサマはまだ見つかってないですけど」
アリスンは此処で働く人々やお客さんや、そして、魔王様を思い、笑って言った。
「でも、なんだか仲間がたくさん見つかって嬉しいです」
「……そうか」
と相変わらず、無表情に魔王様は言ったあとで、
「もう戻れ。
暗くて危ないから。
お前が中に入るまでここから見ていてやるから」
と言ってくる。
「え、あ、ありがとうございますっ」
と頭を下げたアリスンが行こうとすると、
「待て」
と魔王様は腕をつかんできた。
思ったより顔が近く、ちょっとどきりとしたアリスンに、
「手を広げてみよ」
と魔王様は言う。
アリスンが利き手を差し出し、広げると、魔王様は少し考えながら、アリスンの手の上におのれの手を重ねた。
魔王様がそっと手を持ち上げると、アリスンの手のひらの上に熱くない青白い炎が宿っていた。
狐火のようにゆらゆら揺れている。
「家に着くくらいまでは持つだろう。
ランプの代わりに持っていけ」
「あ、ありがとうございますっ。
LEDくらい明るいですねっ」
とうっかり言ってしまい、
「……エルイーディ?」
と魔王様が眉をひそめる。
あー、いえいえ、ありがとうございます、ともう一度言い、アリスンは日本風にぺこりと頭を下げた。
魔王様のくれた青白い炎が手の上で揺れるのを眺めながら、厨房に戻る。
魔王様はほんとうに立ち止まり、見てくれていたようで、アリスンは中に入る前、もう一度、深く頭を下げた。
ぺこりと頭を下げるが、あの娘は私に服従の意思を示しているのだろうか。
そう思いながら、魔王はアリスンが建物の中に入るのを見ていた。
日本人は気軽に頭を下げるが、この国での頭を下げるという行為は、目下の者から目上の者への服従の証に他ならなかった。
アリスンも知っていたのだが、つい、癖でやってしまったのだ。
服従。
あるいは、忠誠の気持ち。
だが、魔王はそれを鼻で笑う。
皿を洗わせておいて服従とか片腹痛いわ。
おのれ、人間の小娘め。
なんとなく勢いにのせられて皿など洗ってしまったが。
……まあ、明日も来るかもしれないが。
それはなんとなく暇だからで、別に他の理由はないからな、と心の中で言い訳しながら、魔王は歩いて帰っていった。