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第五話。払わされる代償と、今更増える仲間。

「地上に降ります。手、放してくれますか?」

「ああ。わかった」

 答えて、シーオンの両方の横っ腹から手を離す。

 

 空中で制止してる俺達。たまにちょっと力が入っちまったりしつつ、

 それでもバランスを崩すことなく、無事に

 広い毒の沼地前の橋まで辿り着けた。

 渡るな危険、のあの橋だ。

 

 

「なんか、浮遊感が、うおっ?」

 急におっこちる俺の体。驚いたおかげで体がピンと伸びて、

 おかしな落ち方せずに済んだ。着地直後に、

 じわっとびっくり汗かいたけど。

 

 一方シーオンは、慣れてますとばかりに余裕の着地だ。

 殆ど杖飛行状態しか見てないから、ほんとに慣れてるんだろうけどな。

 

 

「空が青いな。けっこう飛んでたのか」

 杖飛行の緊張から解放されて、背伸びしたことで空をきっちりみた。

 改めて思う。メガハヤの加速、ものすごいんだなって。

「そうですね。さて、いきましょうか」

「そうだな」

 

正直に言うと、町 村巡り、したくはない。

 勇者行為した俺は、毎度滞在場所を出ると必ず、

 誰かしらにおっかけられていた。

 

 俺はそれからいつも逃げた。

 自分は魔王を倒す使命を王から受けてるんだから、

 捕まってる場合じゃないんだ、

 と自分に言い訳しながら。

 

 人から物を無許可でとったら怒られる。当然の話だ。

 いくらハジマリーダ王からの許可があるとはいえ、

 取られた人からすれば、俺は勇者の名を語る泥棒でしかないからな。

 そりゃ偽勇者とも言われる。彼等の怒りが、一日二日でおさまる気がしない。

 

 シーオンが怒りを鎮めてくれたのは、

 魔王って言う圧倒的な存在と対峙したからだろう。

 現に今横にいる少女が俺の名前を呼んだのは、たったの一度だ。

 おそらく、いや確実に怒りは燻ってるだろう。

 

 

「戻ってきたぞ!」

 毒沼地帯に入る時、俺をおっかけてた男が、

 俺をみつけてだろう声を張り上げた。

「な……なんか。ザワザワガサガサ、聞こえるな」

 突然、シーオンが俺の左手首を思いっきり掴んだ。

 

「な? なにすんだよ急に?」

「逃げないように、ですよ」

 横目で見たら、表情はかわっていない。

 わたしが泥棒を捕まえました。それを示すだけの行動だろう、たぶん。

 俺が報告行脚するのはわかってるようだからな。

 

 これまでの態度の軟化、変化を見る限り、怒りはあるけど憎悪とまでは行かない、

 それぐらいには、俺が下着を勇者行為したことに対しての怒りは

 緩和されてるはずだ。俺の呼び方、下着泥棒だけど……。

 

 

「俺の壺の金返せこのこそ泥! 200オーロだ!」

「薬草一束、返してちょうだい!」

「俺のタンスの羽帽子、どこやった!」

「クローゼットの革の鎧、苦労して買ったんだぞ!」

 

「あたしの鉄の盾、盗んだでしょ!返してよ! 簡単には買えないんだからっ!

それと毒消しと150オーロも!」

 

 俺にモエロをぶっぱなって来た村の男、主婦、

 用心棒でもやってそうな屈強な男、細身の戦士、

 女戦士、他にもけっこうな数。

 

「ちょ、ちょっとまてっ! 勇者行為してないもん混ざってんぞっ!?

それからそこの女戦士、どさくさに紛れていろいろ要求してくんなっ!

お前のところで毒消しも150オーロも見てねえっ!」

 

「バレちゃった?」

「バレるわ!」

「ごめんねっ」

「謝る気のねえ笑顔で言うなっ。なんて奴だよ」

 

「メシアンドゥーさん」

 突然、横のシーオンが俺を名前で呼んだ。

 ……いやな、予感が。

「な……なにかな?」

「マガデナイ」

 

「な? くっ。体が、重い。たしか、その魔法は」

「ええ。魔力の流れを抑制する魔法です。一日経てば自然に解けます」

「な、なんで、こんなことをした?」

 

「この方々の欲してる物を、今日一日かけて返してください。

癒しの鎧の力で楽をさせないために、

マガデナイをかけさせてもらいました」

「そういう、ことか」

 

「長の皆さんへは、わたしが伝えておきますから、

安心してお仕事してください」

「な……なる、ほど。俺が勇者行為してない物についてもか?」

「そうですね。そうしたらどうですか?」

「マジかよ。こら女戦士、なに力強く頷いてんだおい!」

 

「それじゃ、わたしは長の皆さんに伝えてきますので。

がんばってくださいね、勇者様」

「こ、この。ここまで一度も見せたことない笑顔しやがって」

 くっ、体が重いし硬い。

 

 魔力の流れを阻害され、実質的に魔法を封じられてる状態って、

 こんな感覚なんだな。初めて味わった。

 野郎。これが勇者行為の代償とでも言いたげだな。

 

 

「勇者行為の代償、払ってもいいんじゃないですか?

あなた自身、後ろめたかったんですから」

 ほんとに勇者行為の代償って言いやがった。

「こいつ……!」

 

 歩き出して、すぐこっちを向いたシーオンは、

 申し訳なさそうな顔をして、人込みをさけるように

 いつもの飛行に移行して、俺の前から去って行った。

 ……まさか。演技……なの、か?

 

 くそ、どれが本音なのかわかんねえから、

 この顔を信じていいのかわからねえっ。

 そんなわけで。俺は、勇者行為した物品を、

 それぞれの人に返すことになってしまった。

 

「魔王無力化報告って、勇者のやる仕事の一つじゃねえのか?

勢いで共闘しただけのあいつがやって、いいもんなのか?

納得されるのか?」

 不安を抱えながら、俺は最後の戦いを始めるのだった。

 

 

*****

 

 

「お……おわった……」

 全身の力が抜けて、俺は地面にズルリと座り込んだ。

 始まったのは朝だった。今空の色はオレンジ色、今回こそは夕方だ。

 

「お疲れ、勇者くん」

 ピンクの髪の図々しい女戦士が、そう言って肩をポンポン叩いて来た。

 こいつは今朝、俺が勇者行為した鉄の盾を返せのついでに

 金と毒消しを要求したあいつだ。名前はソルディアナだって教えられた。

 

 もう一人、革の鎧を要求してた細身の戦士もいる。

 こっちの名前はソルージャだそうだ。

 

 この二人、俺のことを

 『人の物を盗まないと、やっていけないほどの貧乏人』

 だと思ったらしく、更に魔王戦から帰ったついでで、

 一日作業してる状況を不憫に思ったようで、

 物の運搬を手伝ってくれていたのだ。

 

「助かった。シーオンの奴が、勇者行為してないもんまで恵んでやれ

なんて言ったもんだから、次から次へと要求が増えていきやがったからな」

「きっかけ、あたしかも」

「今更まじめに、すまなそうな顔されても困るぞ。

後、お前だけじゃないと思うけどな」

 

 

「終わったみたいですね」

 シーオンが、呑気な調子で言いながら飛んで来た。

「お前の慈悲深い提案のおかげで、今の今までかかったよ」

 皮肉を返したけど、「お疲れ様でした」と

 まるで効力がなかった。

 

「わたしの下着の勇者行為への制裁が済んでなかったので、

そのつもりで提案させてもらいました。

どうやら充分だったみたいですね」

「ああ。グッタリだぜ。癒しの鎧の効果がいかにすごかったのか、

改めて実感することになった」

 

「そうですか」

 一つ頷きながら、それだけ言うと

「とはいえ、わたしも大変だったので、どっちもどっちの状況ですけど」

 と苦笑いした。

「どういうことだ?」

 

 

「ほら、わたし、魔王討伐に行ったわけじゃなかったですから。

わたしの言葉、おばあさまが来てくれなければ

信じてはもらえなかったと思います」

「むしろ、ハーラストリアが来ただけで信じられたのか?」

 

 ハーラストリアの名前が出たら、戦士二人がびっくりした顔をした。

 流石前勇者一行だな。

 

「そうじゃなかったです。おばあさまが、魔王さん本人に

瞬間移動魔法で会いに行って、状況を聞いて確認しつつ、

その経緯いきさつを魔王さんにしたためてもらったんです。

だから、時間がかかってました」

 

「魔王の筆跡って、誰がわかるんだよ?」

「彼の魔力を、台紙に注いでもらったんです」

「ああ、なるほど。ちょう達、魔力探知に優れてるからか」

「はい」

 

「ねえ。瞬間移動魔法って、そんな魔法、あるの?」

 ソルディアナが、驚いた調子で尋ねると、はいと一つ頷くシーオン。

「瞬時に仕えるのはおばあさまだけだそうです。他の方でも使うことはできるみたいですよ。

わたし、まだ教わってませんけどね」

「そうなんだ」

 

 

「で、その魔王の報告書みたいなのどうしたんだ?」

「持ってきました。王様にも見せた方がいいと思いましたので。

明日、いきましょう」

「そうだな。もう、今日は長距離動けねえ」

「わたしもです」

 

「あの。ぼくも、ついてっていいかな?」

 ソルージャが、控えめに聞いて来た。

 今朝の怒りの様子からは想像できない態度だけど、

 どうやらこっちが普段のソルージャらしい。

「あたしもいきたいなー」

 

「どうする?」

「いいと思いますよ。増えて困る物でもないですし」

「まあな。既にお前の時点で想定外の同行者なわけだし、

今更一人二人増えたところでかわりないか」

 

 

「じゃあ、あたしたちで勇者パーティってことだよね?」

「魔王戦、既に終わってるけどな」

 俺の言葉にもめげることなく、

「硬いこと言わない。激戦だったぜ、みたいな顔していっしょにいけばいいんだから」

 ソルディアナは一切引かなかった。

 

「なんだかなー」

 そりゃ、ソルージャも苦笑いするわな。

 

 

 こうして、一人で始まった魔王討伐の旅は、

 道すがら一人増え、戦いが終わった後に、

 パーティメンバーが更に二人増えると言う、

 おかしな経過を辿り四人になってから、

 ハジマリーダ城へ凱旋することになった。

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