厄災
防衛団の弓矢とパテラの号雷の波状攻撃により、500の騎兵はほぼ壊滅したかに見えた。
佃煮海苔の沼の中、動いている者の姿が見当たらないのだ。可哀想だが馬すらも動いていない。辛子の刺激に暴れて騎乗している人間を振り落とし逃げた馬も多数いたからよしとしよう。しょうがない、そんなことまで考えていたらこの村は守れない。これは戦争だ。
俺の魔力枯渇も回復した。
「よーし、皆、攻撃をやめるんだ。様子を見ようじゃないか。この圧倒的勝利の」
辺りは静寂に包まれた。動く者はいない。その気配すら感じられない。
どうやら、この戦い、勝ち鬨をあげても良さそうだ。
「やったね、皆。皆の活躍で敵を殲滅…」
続きの言葉が出ない。
頭の中が突然、恐怖と不安に塗りたくられたのだ。
身体も動かない。ただ、冷や汗が大量に出るのみ。
一体、何が起こった?
突如として、佃煮海苔の大津波により発生した佃煮海苔の沼の中央あたりに真っ黒い巨人が現れた。背中からは翼も生えている。
それを見た瞬間、恐怖と不安が俺の心に溢れ出た。
恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
この恐怖と不安は確実にあいつが元凶だ。見れば分かる。
殺される。人間の勝てる相手じゃない。見れば分かる。
あれが魔王だ。殺される。見れば分かる。
「レンさんレンさん、しっかりして下さい。あれが魔王ですね。なんと禍々しい存在だ。あれのせいで皆もレンさんも動けないのか? 僕は一体どうしたら…」
どうやらマシュー君は動けるようだ。
すまん、マシュー君。俺は返答することすらできない。
「マシュー、私は動けるぞ。多分、イプーとヤプーの加護のお陰だ。皆が動けないのは闇に精神が汚染されたんじゃないか。万能薬だ万能薬を手分けして皆に飲ませるんだ」
カマラが必死に叫んだ。
真っ黒い巨人は沼に倒れている人間を手当たり次第掴み、それをバリバリと貪り始めた。




