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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第4章 アークル計画
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第79話 温故知新



 暫定名『グランドマンモス』。

 『調査団』の会議でそのように呼び名がつけられたその巨獣は、縄張りの中心にある、自身が横になれるほどに開けた場所にいた。


 その周囲には、取り巻きである何匹もの『ランドエレファント』がおり、周囲を警戒し、群れのボスを守っている。


 もっとも、『守る』などと言っても、周囲にいる『ランドエレファント』達が束になったところで『グランドマンモス』1体より強いわけもない。身じろぎ一つで吹き飛ばされ、轢き潰されてしまうほどの力の差がある。

 周囲の警戒という面で考えれば意味のあることなのかもしれないが、いなくとも特に困らない。群れと言っても、『グランドマンモス』にとっては、その程度の認識だった。


 そもそも、この山岳地帯で『グランドマンモス』どころか、『ランドエレファント』にすら挑もうとするような存在は滅多にいないのだ。


 しかし、この日は少し違っていた。


 ガァン! という、金属音のような破裂音のような音によって、静寂は破られた。


 それと同時に、周囲を警戒していた『ランドエレファント』のうちの1匹が、横腹に鈍い痛みを感じた。

 撃たれた者はその痛みに、他の者達は音に反応してそちらに視線を向けると、見慣れない何かがそこにいた。


 肉と皮ではなく、金属で体を覆った、2本足で歩くサルのような何か。

 武器と思しき、長い筒のようなものを手に持っている。おそらくはアレで、何を投げるかとバス化してこちらを攻撃してきたのだろうとあたりをつけた。


 『グランドマンモス』を含む、群れに住む何匹かは、その謎の鋼のサルに見覚えが合った。時折縄張りの中に現れることがある『何か』だと。

 時にはこそこそと隠れてこちらの様子をうかがい、時には尻尾を巻いて逃げ出し、時には無謀にも自分達に戦いを挑んで散っていく。しかし総じて、脅威に感じるほどの存在でもない。

 『AW』も、それらが持っている武器も、彼らにとってはその程度の認識だった。


 しかし、脅威足りえないとはいえ、いやだからこそ、敵意・害意を向けられて苛立たないはずもなかった。


 愚かにも自分達に刃を向けた、その名も知らぬ襲撃者に身の程をわからせるため、突進していく何匹かの『ランドエレファント』。


 『グランドマンモス』は動かない。群れに危害を加えられたと言っても、そこまで仲間意識が強いわけでもない。自分が直接攻撃されたならまた別かもしれないが、その程度のことでいちいち動いたりはしない。

 煩わしそうに視線だけを向けて、身の程知らずの愚か者が粉々に粉砕されるのを、高みの見物とばかりに待っていた。


 これまでにも何度か、群れにちょっかいをかけてくる愚か者はいた。

 その末路は決まって同じ。ろくに攻撃など通じないままに、手下の『ランドエレファント』達に踏み潰されて無残に果てていくのみ。

 相手がAWでも、他種族のクリーチャーでも、そこに変わりはない。


 今日もそうなるのだろう、と思っていた、『グランドマンモス』達の予想は……目の前で覆された。


 突撃していった『ランドエレファント』達が、あちこちから飛んで来た筒のようなものが激突した瞬間……炎に包まれる。

 しかもその炎は、ちょっと動いたりしたくらいでは消えず、まるでべったりとへばりつくように『ランドエレファント』達の体をあぶり続けた。しかもそこから逃がさないようにか、隠れていたらしい仲間が飛び出てきて、やや小さめの金属の筒で鉄の塊を浴びせている。


 怒りが困惑で薄れ、そこから立ち直るのを待たずして……単なる炎よりもかなり早く、土の鎧が乾き切って剝がれてしまった。そこに攻撃が集中し……ついには、『ランドエレファント』達は、群れの仲間達が見ている前でまさかの敗北を喫し、討ち取られてしまった。


 その光景を見て、次々に怒りをこめた咆哮が上がる。


 仲間を殺されたことによるものか、はたまた群れを虚仮にされたとでも思っているのかはわからないが、今度は先程までに倍する数の『ランドエレファント』が突撃してくる。


 しかしそれを迎え撃つのは、4体に増えた鋼のサル……ではなく、


 その影からさらに現れた……それよりも大きな、鋼の龍だった。


 口から炎を吐き、背中から砲火と閃光を噴き出し……たった1機で何匹もの『ランドエレファント』を、正面から力ずくで圧殺していく。

 衝撃と同時に熱を叩き込まれるその弾幕に、怒りで勢いを増している彼らであっても、ろくに前に進むこともできないまま、1体、また1体と撃ち滅ぼされていく。


 まれにその間を縫って、あるいは横をすり抜けて肉迫せんとする者もあらわれたが、それらは他のAW達によって、先程と同じ炎と砲撃によって討ち取られた。


 時間にしてわずかに数分の間に、群れの半分を超える数の『ランドエレファント』達が討ち取られた。先程までの静寂は見る影もなく、群れの仲間の咆哮、あるいは悲鳴と、銃声や砲音、爆発音や燃焼音が響き渡って騒がしいことこの上ない。


 一向にそれが鳴りやむこともなく、群れに喧嘩を売った愚か者が断罪されることもない。

 そんな状況が続くことを煩わしく思ったのだろうか……ついに、その時が来た。



 ―――ヴオオォォォオォオオォオオッ!!!



 余りの爆音に、びりびりと空気が震える。

 風が、いや衝撃が来たような気配すら感じ取れる。ガラス窓が近くにあったなら、割れていたかもしれない。 


 地響きと共に、横たわっていた巨像が立ち上がる。

 その足で大地を踏みしめ、僅かに陥没すらさせながら、とうとう『グランドマンモス』は……山岳地帯の王は動き出した。


 その巨体ゆえに、龍の背中から噴き出した閃光や火炎弾が何発も命中するが、気にも留めずに猛進する。『ランドエレファント』を完封して爆殺する威力の弾幕も、『グランドマンモス』のバカげたタフネスの前には意味をなさなかった。


 それを悟ってか、龍も含めた全員が逃げていく。


 今更逃げても遅い。愚かな行いをした報いを受けさせる。


 そう言わんばかりに、『グランドマンモス』は怒りのままに歩みを進める。取り巻きの『ランドエレファント』達も一緒になって、群れが丸ごとの大移動になっていた。

 行く手にある木も、岩も、全て叩き壊しながら進んでいく。




 ……それが、襲撃者達の望んだとおりの動きだとも知らず。




 ☆☆☆



 場面は変わって、襲撃者達……『第7特務部隊』を筆頭とする、調査団の戦闘部隊の面々。

 彼ら、彼女らは今、必死の撤退戦を行っている最中だった。


「急げ急げ急げ! あんなんマジで移動に巻き込まれただけで死ぬぞ間違いなく!」


「『レックス』の熱砲撃も全然効いてないみたいだし……あーもう大きいってそれだけでホント凶悪っすよね!」


「隊長ォ!? これホントに上手く行くんすよね!? 俺らこれ助かるんすよね!?」


「ブレイン曹長、喋っている暇があったら走ることに集中すべきだと思いますが」


「セリアちゃんがいつになく辛辣ッ!? いやまあわかるけどね、今は余計なこと考えてたら逆に危ないってのはね」


「そういうこった……目的地までもう少しだ、遅れんなよお前ら……シド、そっちの準備は?」


『とっくにできてる……お前達全員、ちゃんと巻き込まれない位置から逃げろよ』


「了解、ありがとうシド! ポイントに到着次第、作戦をフェーズ3へ移行します! ここが正念場です……全員、覚悟を決めなさい!」


「「「了解!」」」


 ファウーラの言葉に揃って返事を返し、山間の悪路でAWの駆動輪を酷使する一行。

 後ろから迫りくる死と絶望を、希望に塗り替えるべく……彼らは、ここまでは一応予定通りに進んでいる『作戦』を続行する。




 ファウーラが大筋を考え、その後『会議』の場で細かな調整を行って完成させた作戦は、全部で4つのフェーズに分かれている。

 

 まず、フェーズ1。

 可能な限り、取り巻きの『ランドエレファント』を減らす。


 煩わしく思えるくらいのレベルの攻撃によって、『ランドエレファント』をおびき出す。

 恐らく、多少ちょっかいを出された程度では、『グランドマンモス』は動かない。それこそ、自分に直接やられでもすればわからないが。


 ゆえに、ダメージにもろくにならないような攻撃をあえて外周の『ランドエレファント』にヒットさせ、おびき出した。


 そしてそれを、あらかじめ用意しておいたコンビネーションを使って速やかに討伐。


 それに苛立って次々に襲ってくるのもまた、想定内。

 AWで対応できる範囲なら、それでよし。それを超えたら……出し惜しみせず『レックス』を出す。


 その圧倒的な火力によって大半を封殺し、残りものをAWが、さっきまでと同じように狩る。


 続いて、フェーズ2。

 業を煮やして『グランドマンモス』が動き出したところから。


 けん制射撃にもならなかったが、何発か攻撃を打ち込んでみつつ……しかしやはり、生半可な火力では痛くも痒くもないようだ。

 そのまま無視して突っ込んでくる『グランドマンモス』を、怖気づいて逃げたように見せかけ……ある所定の場所までおびき出すのが『フェーズ2』。


 事前に何度も逃走ルートを確認し、群れに気づかれない限度を見極めつつ、可能な限り障害物を排除して整地したルートを進む。


 体の大きさ的に、AWには楽に通れて『ランドエレファント』には通りづらい程度に障害物を残していたのだが、それに関してはあまり効果がなかったようだ。力ずくで跳ね飛ばしてくるし、『グランドマンモス』は間にあるもの全て踏み潰し、叩き壊して進んでいる。


 それでも、追いつかれることなくハルキ達は撤退を成功させ……シドら別動隊が待ち受ける、『所定の位置』に群れをおびき出すことに成功した。


 ここからが、『フェーズ3』だ。


 『グランドマンモス』を中心とし、その群れがそこに差し掛かったことを……高台から戦場を観察していたシド達が確認する。

 その瞬間、シドは合図を出し、一時的に部下として率いていた別動隊メンバー全員に……仕掛けを作動させた。


 直後、山の……誘い込んだ窪地のあちこちで爆発音が響き……数秒遅れて、大量の水が流れてきた。


 この近くを通っている川や地下水脈の一部を爆破して崩壊させ、この窪地に流れ込んでくるようにあらかじめ細工しておいたのだ。

 それにより、『グランドマンモス』達の周囲に……彼らからすれば水たまり程度ではあるだろうが、相応の量の水が流れ込み、足跡の池を作った。いや、足場がいいとは言えないので、どちらかと言えば沼か泥濘だろうか。


 しかし、それがただの水ではないことに、すぐに獣達は気づいた。

 足元がやたらと滑る上に、妙な匂いもする。

 『ランドエレファント』の中には、足をとられて上手く歩けない者もいるようだ。


 そんな様子を見ながら……既に安全な位置に避難したハルキ達。

 その指揮官であるファウーラは、呟くように言う。


「『アークル』到着後に資源を確保する目的で、『油翡翠』を持ってきていたのが幸いしました……水ならそこら中にいくらでもありましたし、逃走経路の整備と合わせて、それなりに時間をかけて準備しましたから……たっぷりと作れました。浄化給水車数台分に加え、そこらに貯水池ならぬ貯油池を用意するくらいに。加えて、十分に純度が高い『油翡翠』は、作る油の種類や性質をある程度調整することができることも、研究でわかっていた。これも、好都合でした」


 言いながら、通信回線を開く。

 繋ぐ先は……ハルキとアキラの乗る、『レックス』への回線だ。


「条件はすべてクリアされました。ハルキ、アキラ、お願いします!」


「了解! そんじゃま、いっちょ景気よく……」


「団体さん、火の海へご招待っす! ファイヤー!!」


 レックスが、威力としては控えめな火炎弾を砲塔から発射し、群れの中心部付近に着弾した瞬間……シュバッ! という、空気を切り裂くような音と共に、炎が一気に燃え広がる。


 『グランドマンモス』達の足元に、沼の広がっていたのは……水と油の混合物だった。


 2つが混ざった液体が一気に殺到して沼を作り……しかし、水より軽い油はすぐに上に浮いてしまった。逆に水は下に沈み……そのまま地面に染み込んで泥濘を作った。


 地表に残った油に、今投げ込まれた火種が接触した瞬間……一気に燃え広がり、アキラが言った通りの『火の海』に変貌。


 かつて、旧石器時代に人類たちは、マンモスを狩る際に沼地に追い込んで体温を奪って弱らせ、足を取って転ばせた。

 そうして弱って転んだマンモスに、総出でかかってとどめを刺したという。


 先人たちの知恵をリスペクトし、沼地を自作し、低温で弱らせるのではなく高温で焼き滅ぼす、という形に転換したのがこの作戦であり、この『フェーズ4』だ。


 突如として出現した、自分達が苦手とする高熱の罠。しかも足元は泥でぬかるんで上手く動けない。パニックになっているらしく、慌てて逃げようとして味方同時衝突したり、それが原因で転倒したりすらしている。


 そして、そんな火の海を囲むように、別動隊も合流したAW達は、既に展開を終えていた。

 その手に手に、飛び道具を主とする武器を持って。

 

 その全員の命を預かる指揮官の立場にいる、ファウーラの口から……決戦の火ぶたを切って落とす一言が、鋭く発せられた。


「総員……攻撃、開始!」





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