第76話 ランドエレファント
「しかしでっけえなあ……ホントに。体重何トンだって話だよ」
「土が鎧になってた部分を除いても、AWより全然大きいもんね……」
「そういやコイツ、何か資源取れるっすかね?」
「今一応調べてくれてるらしいぜ? でもどっちかっていうと、外側の甲殻になってた土の方に何か期待できそうじゃないか?」
仕留めて死体に変わった象のクリーチャー……仮に『ランドエレファント』と呼ぶこととなったそれの死体は、クリーチャーの解析のためについてきていた専門の職員達が検分している。
その間、戦闘及び哨戒を担う部隊は周辺に展開し、護衛・警戒を担っていた。
『第7』もそれに従事しているが、見分されている『ランドエレファント』の死体を横目に見ながら、通信機越しに雑談を交わしていた。
現地で行えるような範囲では、あくまでその一部しかわからないだろう。持ってきている検査用のキットも、あくまで簡易的なものだ。
しかし、この大きさのクリーチャーを持ち帰るのも難しい。
しかも、今は遠征中。平時であれば、大きさや重量に対応した運搬用の車両を用意することもできるだろうが、そもそもホームや同盟フォートに協力を要請して来てもらうのも難しい。
結果、回収するのは難しいため、それならばいっそ『捕食変換』で資源に戻してしまうのも手だというのは、当然出てくる発想だった。
「落ち着いたころに、他の『ランドエレファント』を狩ってサンプル回収できればいいけど……」
「それはそれで、ちょっと怖いっすね……あのクラスのクリーチャーがまだいるってのも……」
「『レックス』と『グランドガード』が来てからは、割と余裕があった気もするが……まあ、進んで相手したいもんじゃねーわな」
「先程の戦闘で、熱が弱点だという事実も判明しましたので、仮に別個体が出てきても、もう少し対処は楽になるかと思います。弾数や燃料の量に限りはありますが、ナパーム弾や火炎放射器も持ってきていますので、別部隊が役割分担して対処することも可能でしょう」
「それもそうだが、基本は『レックス』が対応してもいいと思うぞ。『レックス』なら、エネルギーさえ十分あれば、実質無補給に近い形でそういうのを使えるわけだしな」
「そりゃ確かにな。最後の方の火炎放射でようやく装甲剥ぎ取れたっぽい部分もあるし……いくら熱が弱点でも、生半可な火力じゃ焼け石に水になっちまうだろ、あれ」
「確かにそうですね。その場合は……ハルキ、アキラ、お願いします。もちろん、他の部隊で対処できそうならしますが、セリアが言っていたように、特殊な兵器は持ち込んでいる弾数も少ないですから……『ランドエレファント』の他の個体が出てきた場合は、それも視野に……」
『哨戒部隊より報告! 調査団停止位置より北方約1.9km、『ランドエレファント』の別個体を発見! 数2! ただし、先程交戦した個体よりサイズは小さい! こちらが風下のため見つかる危険は少ないと思われるが、警戒を!』
そんな通信が割り込んできて響いた。
必然、『第7』の面々の間に『やっぱりか』とでも言うような空気が漂い始める。
「……ありそうっすね、出番」
「だな」
☆☆☆
調査団一行が最初に『ランドエレファント』と交戦した、その翌日。
既に一行は、あの後さらに2回、計3回『ランドエレファント』と遭遇し、交戦していた。
恐らくはこの周辺は、『ランドエレファント』が縄張りにしている区域であり、彼らの同種が多数生息しているエリアなのだろう。この遭遇頻度の高さが、それを物語っていた。
しかし幸いなことに、それ以降に遭遇した『ランドエレファント』は、最初に遭遇した個体よりもサイズ的にかなり小さく、戦闘能力も大幅に劣っていた。
それでも大きさは4~5mはあり、体高が通常のAWに匹敵するかそれ以上である。馬力もバカにできるものではなく、衝突すれば負けるのはAWの方だっただろう。
加えて、規模は違うが、体表面を覆う土の装甲は健在。生半可な攻撃は通らない。
だからこそハルキ達は、『ランドエレファント』と遭遇し交戦する場合、徹底してその弱点を突いて対応した。
接近戦を挑むことは絶対にせず、高機動の機体が前後左右に激しく動き、適宜けん制射撃などを行ってかく乱する。
同時に、ナパーム弾や焼夷弾、火炎放射器などを使うことで、体表の土の装甲を乾かせて剥ぎ取り、防御が脆弱になったところに大口径の弾頭を打ち込んで仕留める。
このコンボで臨むことで、『レックス』の熱エネルギー兵装を用いなくとも対応することが可能だった。現に、3度目に訪れた襲撃では、『レックス』どころか『第7』の手を借りることもなく、巡回と警備の担当だった一般兵のみで討伐することに成功している。
熱攻撃を急所の周辺に集中させ、そこの装甲が剥がれた段階で火力を集中させるのが、上手く仕留めるためのコツであるようだ。
これにより、出現した規模や『ランドエレファント』そのものの大きさなどにもよるが、使節団一行は早くも、余裕を持って新種のクリーチャーを討伐することができるようになったのだった。
ただし、『これから先出番がありそうだ』というアキラの予想。これについては……残念ながら、外れてくれたわけではなかった。
何度も遭遇していることからもわかるように、『ランドエレファント』も所詮は野良のクリーチャー。この周辺では最も強力な力を持っており、一帯の覇者とでも言うべき存在だと言えるのかもしれないが……それ単体でしか出現しないなどということが、残念ながらあるわけでもなく。
具体的に言ってしまえば、他のクリーチャーと同時に出現し、襲撃してきたのだ。
その際は流石に一般兵だけでは対応できず、『第7』も協力して迎撃することとなった。
そしてその際は、一般兵が相手をするのは、その他の比較的弱く小さいクリーチャー達。
『第7』が相手取るのは、それらに紛れてやってきた大物……『ランドエレファント』だった。
人によっては耳障りに思えるかもしれないキャタピラ音を響かせて、シドの乗る『グランドガード』は走る。
その姿は人型に、すなわち『戦闘モード』に変形しており、脚部についたキャタピラを高速で動かし、重装甲ながら、まるでローラースケートで滑るように動いていた。
その速さは『ランドエレファント』が全力で走っても追いつけないほどには早い。その速さで動き回り、絶対に追いつかせず、かといって逃げることも許さない。
突進してきた『ランドエレファント』をひらりとかわし、両手で構えた銃の引き金を引く。
持っているのはAW用の大型ショットガンだ。
しかも、装填されているのはただの散弾ではなく、固形燃料が同時にばら撒かれる特殊弾。発砲と同時に飛び散った燃料が燃えながら殺到し、敵の体に付着あるいは食い込む。
燃料であるのでついた炎は中々消えず、しばらく相手の体を焼き続ける。
一定の距離を常に保ち、2手3手先を読んで立ち回り、立て続けに砲火を浴びせる。
幾度も炎の散弾を食らった『ランドエレファント』は、火だるまになって苦しんでいる。滅茶苦茶に突進を繰り返し、どうにかシドの『グランドガード』を倒そうとしているが、精彩を欠いた動きでは余計に当たるはずもない。
ろくに近づくことも許されず、シドの火炎散弾銃、あるいはその合間を縫って放たれるグレネードランチャーの餌食になっていた。
やがて目一杯焙られたその体から、乾いた土がボロボロと零れ落ち、自分を守っていた土の鎧も失ってしまった。
体がむき出しになったのを確認すると、シドは手にしていた火炎散弾銃を下ろし、肩に装着している戦車砲の照準を合わせ……そして、放つ。
放たれた弾丸は、今度は『地殻貫通爆弾』ではなく……通常の大口径弾。
しかし、防御力を失った部分に直撃し、炸裂したその威力により、急所をその周辺の肉ごと吹き飛ばされた『ランドエレファント』は、その場に力なく倒れ込んだ。
息の根を止めたことを確認し、ふぅ、とコクピットで息をつくシド。
そこに、周辺の警戒――その他の魔物の排除や、戦闘中のシドに邪魔が入らないための露払い――を担っていたロイド達が到着した。どうやら、彼らの担当していた方も問題なく終わったようだ。
「お疲れさん、シド。首尾はどうよ?」
「問題ない。被弾ゼロ、弾薬の消費のみだ。念のために次の休憩時に簡易的なチェックはするがな」
淡々とそう報告し、武器を収納。『グランドガード』を車両形態に戻す。
目の前で作業車ではなく戦車に姿を変えた『グランドガード』と、それを操って今しがたシドが仕留めた『ランドエレファント』を交互に見て、ロイドははぁ、と感心するようなため息をついた。
「にしても……やっぱすげえな、『第6世代機』。いや、操縦してるシドもすごいんだろうし、それはむしろよく知ってるけどさ……『ランドエレファント』を単騎で、しかも数分かよ」
「他の部隊の人達の話だと、攻撃パターンや弱点を知ってても、馬力や迫力が段違いだから滅茶苦茶緊張するって言ってたけど……結構余裕そうだったね、シド」
「ですが、誰にでもできることではありません。単に『グランドガード』の性能などではなく、敵の動きを先読みし、常に最適解である動きを導き出せる、副隊長の力量あってこその完封勝利だと言っていいでしょう。というより、そもそも並大抵のパイロットでは『グランドガード』を扱うこと自体出来ませんから」
「? どういうこと、セリアちゃん?」
「『グランドガード』は、重装甲でありながら機動性は従来のAWにほとんど劣らず、また加速と減速の切り替えが非常にスムーズに行うことができるため、単純な最高速度以外を見れば、むしろ『ブラムスター』の上を行きます。その分パイロットにかかる負担も大きいため、相応の身体能力や精神力が必要なのです」
「あーそれわかるわかる。単純に速く動くときもそうだけど、急にスピード上がる時とかも、Gがかかって結構きついもんね」
と、マリカ。戦闘機のパイロットである彼女も、高速機動時に体にかかる負担が決してバカにしていいものではないことを知っている。
むしろ、AWと比較してなおけた違いの速度で飛ぶ分、体験したことがあるGの最大値で言えば、シドすら抜いて彼女がダントツで部隊No.1だろう。
ただしシドの場合は、速さに加えて急加速や急減速、そして方向転換によって前後左右に目まぐるしくGがかかっており、その状態で、先程セリアが言ったような緻密かつ大胆な戦闘を行っている。彼女の言う通り、これだけの見事な勝利は彼の総合的な力量あってのものだと言っていい。
「加えて、副隊長の使っていたAW用大型ショットガンも、それ専用の火炎散弾型の特殊弾も、通常のAWでは馬力不足で扱うことができないものです。『ブラムスター』でやっと、反動に振り回されずに扱えるといったところで、技術部が改良のために研究を続けていたそうですが……」
「『グランドガード』の馬力なら、今の状態でも無理やりそれを無視して、しかもあんだけスムーズに動けるってわけか」
「だが全く影響がなかったわけじゃない。今回は使いながらそれに慣れて、上手いこと反動を散らしたり逃がしながら戦えたからいいが……可能ならもう少し反動を制御できればいいな」
と、『火炎散弾銃』を使った感想を述べるシド。彼から見ても、この武器は今後要改良らしい。
「それができるシドもすごいけどね……ひとまずお疲れ様」
「だな。後は残るは……あっちか」
「……まあ、心配はなさそうだな」
そう言いながら、クリス達が視線を向ける先では……
―――バオオォォオオォオッ!!
―――ガォォオオォォオォッ!!
咆哮と共に激突し……しかし、押し負けたのは『ランドエレファント』の方。
押し込んで体勢を崩させた『レックス』は、そのまま『ランドエレファント』の首もとに食らいつく。そして、足を踏ん張って思い切りその巨体を引っ張った。
やっていることは野性味あふれる『噛みつき』という方法でありながら、体勢が崩れたところを捕らえて崩し、倒すというその動きは、柔道か何かを思わせた。
こんなところで、ハルキがシドに習っていた各種格闘術の動きは生かされていた。
自分と同等かそれ以上のパワーに抗えず、地面に巨体を叩きつけられる『ランドエレファント』。
それを上から踏みつける形で抑え、レックスは口から灼熱の炎を吐き出す。
それに加えて背部の武装ユニットから、熱エネルギー兵装の機雷をいくつも落とす。自分を巻き込んで炸裂するそれはしかし、レックスには全く効かず、ランドエレファントのみを焼いた。
さらに、押さえつけている足の爪も高熱を帯びており、そこからも熱が伝わって表面の水分が奪われ、ひび割れていく。
『火炎散弾銃』とは比べるべくもないレベルの火力の前に、あっという間に土の装甲が乾き切り、剥がれ落ち、無防備に肉体をむき出しにする。
そこを逃さず、レックスは前足の爪を一閃させ、喉を引き裂いた。
ぴくぴくと痙攣して動かなくなる土の巨象を踏みつけながら、機械の龍は勝利の咆哮を上げた。
「いやあ、うん……すごいな、あっちも」
「すごいというか、無茶苦茶というか……つか、接近戦は避けろって言われてただろうに」
「大丈夫っすよ。こいつらのパワー、あの時のアンモナイトよりは断然ないっすし」
聞こえていたのか、通信の向こうからそう返すアキラ。次いでハルキも、
「アレでようやくきしむ音がする程度には、『レックス』は防御力デタラメに高いからな……確認もかねて一回近接でやってみることにしたんだよ。ちなみに隊長の許可も取ってんぞ?」
「その隊長だって、こんだけ野性味あふれるバトルになるとは思ってなかったと思うがな……つか最後の雄叫びとか、アレハルキがやってんのか? もうなんかまんま怪物じゃん、動きが」
「いや、まあ、うん……せっかく勝ったってことで、なんとなく」




