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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第4章 アークル計画
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第75話 恐竜と戦車と土の象



 『戦車』と言えば、旧時代……すなわち、『災害世紀』に陥る前の世界で、陸戦における主力と言われていた戦闘用の車両である。


 大口径の砲塔を持つことによる攻撃力、キャタピラによる速度と悪路走破性の両立した機動性、重厚な装甲がもたらす防御力、搭載されている最新鋭のコンピューター等による情報処理・演算能力……かつての時代に、どれだけ人間の持つ技術が優れていたかを知らしめる兵器だった。


 しかもそれを、戦争ともなれば半ば消耗品のように扱い、数を投入して敵地を攻撃・制圧することも多かったというから、今の時代を生きる者達からすれば、様々な意味で理解するに苦しむものであることは間違いないだろう。


 そしてその戦車は……『災害世紀』に突入して間もなく、世界から姿を消した。


 当初こそ、増え続けるクリーチャーを相手に猛威を振るっていたのだが、当時すでに世界規模で広がっていた資源の枯渇により、作成するのに重金属やレアメタルを大量に必要とする戦車は、コストパフォーマンス的に運用に無理があったのだ。


 加えて、資源不足が原因で様々なものが作れなくなり、結果として失伝してしまった技術が数多くあったこともそれに拍車をかけた。

 戦場で猛威を振るうだけの性能を持たせるために必要な電子部品などを作るための、技術だけでなく資源も設備も失われ、本来の性能を保たせることができなくなった。なんとかデチューンを繰り返してやりくりしていたが、それもすぐに限界に来た。


 こうして戦車は、世界から姿を消した。


 その戦車が今、こうして、再び世界に姿を現した。

 ヴォーダトロンの工廠で作成された、第6世代AW『グランドガード』として。


 『サラセニア』からもたらされた技術供与は、実は航空戦力だけではない。すでに失伝してしまった、様々な軍事関連の技術のデータが、『ヴォーダトロン』の工廠に運び込まれていた。

 もともと『サラセニア』は、旧時代の中国軍が前線基地のつもりで整備していた場所。軍事関連の情報は、その設計図なども含めて数多く残っていたのだ。


 もっとも、当然『サラセニア』でもその全てを実用化していたわけではない。


 ごく一部、『航空戦力』をはじめとして、使いやすそうなものや、費用対効果が高いもの、今あるもので運用可能なものに絞って研究され、利用されていた。

 『サラセニア』は物資的な余裕があるフォートではなかったので、それに関しては仕方ない。

 

 だがそれが『ヴォーダトロン』にもたらされ、その潤沢な資金や資源をもって研究が進められた結果……当時使われていたいくつかの技術を再現することに成功した。


 もちろん、当時のものがそのまま出来上がったわけではない。高性能なOSを作る設備も、周辺の状況把握と通信のための軍事衛星もないのだから、それは流石に不可能だ。


 それでも、直接的な戦闘性能に限って言えば、『災害世紀』に入ってから蓄積されたノウハウも組み合わせて昇華させることで形になった。

 その1つの結実の形として出来上がったのが、『グランドガード』だ。


 通常のAWは、作業用車両としての形態を持ち、第4世代以降はそれに加えて、戦闘形態に変形できる機構を備えている。パーツの付け替えで、ショベルカーになったり、ブルドーザーになったり、その他色々な作業用車両の能力を組み合わせることすらできる。


 しかし、『グランドガード』の場合は……その両方が『戦闘形態』と呼ぶべき性能を持つように作られている。ある意味で、現在あるAWの概念を破壊する存在だった。

 『戦車形態』を戦闘以外に使えないこともないが、効率は決してよくはないだろう。


 単純な馬力や燃費の良さ、操作性などで言えば、『戦車形態』が、機動力や手数、扱える武器の種類の多さなど、総合的な戦闘能力では『人型形態』が、それぞれ勝っていると言える。


 しかし何よりも重要なのは……それだけの性能を持たせて作られた、『第6世代』などという、現時点に限って言えば、ワンオフそのものの逸品を、使いこなせるだけの技量が、パイロットにあるのかということだ。

 いかに兵器自体が高性能であれど、乗っている者が未熟であればその真価は到底発揮されない。拳銃を持った素人が、ナイフ1本や素手の達人に負けることなど、ままあることだ。


 しかし、今回に限って言えば……それは全く持って無用な心配だった。




 ―――ギャリリリリリリリリ!!


 ―――ドォン! ドォン! ドォン!


 小石や砂利を巻き上げて、猛スピードで走る巨躯。

 歩騒動を走るようなスピードが出ているわけではないが、人間には到底出せない速度には違いない。それだけの速度で、重装甲・超重量の巨大な物体が動くその姿は、見る者に圧倒的な威圧感をと迫力を叩きつけていた。


 そうして走りながら、戦車……AW『グランドガード』は、スピードを一切緩めずに砲塔を回転させ、狙いを定め……撃つ。

 放たれた砲弾は、寸分たがわず象のクリーチャーの体、あるいは足に命中し、その威力でたたらを踏ませる。


「ったく……実戦ではシミュレーター以上に癖が強いか。とんだじゃじゃ馬だな」


 そうブツブツと呟きながらも、高速での移動と照準合わせ、そして砲撃。これら全てをたった1人で淀みなくこなし、それでいて狙いを外すこともない。

 シドがこの『第6世代機』のパイロットとして選ばれたことは、紛れもなくその実力に釣り合う、ふさわしいという評価の元のものなのだとわかる光景である。『エースオブエース』の名は、伊達や酔狂で呼ばれているわけではないし、接近戦以外が不得手というわけでもない。


 先程まで浴びせられていた弾丸の雨のどれよりも強烈な攻撃に、クリーチャーの敵意はたちまちその、高速で動く鋼の塊に向かう。

 しかし、見た目以上に素早く、複雑な軌道で動くそれに追いつくことができない。


 全速力で走れたのならそれも違うのだろうが、浴びせられる、あまりにも正確に飛んでくる砲撃が邪魔で、こちらは素早さを出しきれないのだ。


 しかも、そちらだけに意識を向けているわけにもいかない。


 邪魔者1匹思うように排除できない苛立ちをそのまま乗せたような咆哮が響くが……それをかき消すかのような勢いの砲火が、『グランドガード』とは全くの別方向から放たれた。


 下手をすると『グランドガード』のそれを上回るその衝撃に、怒号と悲鳴が一緒くたになっているであろう声を響かせる象のクリーチャー。


 その雨あられの砲火を浴びせた張本人である『レックス』は、背中の武装ユニットから伸びる主砲の砲口から煙を吐き出し……しかし次の瞬間には、再びその砲口から、熱エネルギーの弾丸を吐き出してクリーチャーにぶつける。

 着弾個所から炎と黒煙が上がり、苦しむように身をよじるクリーチャー。


「っし、命中! 結構効いてるっぽいっすね」


「なんか……体の表面の色、ちょっと変わってねーか? しかも、気のせいか……ひび割れてるような……」


 コクピットの中でガッツポーズを決めつつ、思わずと言った様子で言ったアキラに続いて、ふと気づいたことを呟くハルキ。

 彼の言う通り、今まで暗い色だった象のクリーチャーの体表面が、どことなく、薄い感じの色に変わっていた。そしてこれも言葉通り、ひび割れたようになっている。


 2機が出て来たことで少し余裕が出て、遠目からその様子を見ていたロイド達は、機体の望遠カメラ機能でクリーチャーの姿を拡大し、確かに、と頷いた。

 ハルキの言う通り、色が薄くなってひび割れている……というより、これは……


「色が薄く、っていうか……これ、乾いてるんじゃねーの?」


「? どういうこと、ロイド?」


「いや、なんか見た目がそれっぽいなと思って。さっきまではあいつの体、こげ茶色とか黒っぽい灰色だったじゃん? でも今は明るい茶色とか黄土色、前代的に薄くて明るい色になってる。これってさ、なんか土に似てね? ほら、土って濡れたり湿ったりすると色濃くなって、乾くと薄くなるだろ?」


「あー、確かにそうかもね。それに、土って湿ってるとべちゃべちゃだけど、乾くとサラサラのパキパキだもんね。湿ってる時に固まってても乾くと割れやすいし……そういえばなんか、攻撃するたびに粉? 砂? みたいなのがそのへんに散ってない?」


「……ロイド、メリル、その見解……多分大当たりだ。あいつの皮膚……じゃないな、恐らく甲殻とでも言うべきものだろうが……土に性質が似てるんだ、きっと」


 クリスが言うのに続けて、観察を続けていたらしいセリアも同意する旨を語った。


「性質がそういったものであるのと同時に、あのクリーチャーの弱点であるともいえるかと。土は水を含んで泥であるうちは、防御壁としては厄介ですが、乾けば脆くなりますから」


「え、泥なんて全然硬くもないし、厄介でも何でもないんじゃないの?」


「いえ、そうでもありません。確かに少量なら、蹴飛ばして飛び散らせでもすればいいでしょうが……ある程度以上の厚みと密度を持たせれば、粘り気があり衝撃にも強いため、単純に固めただけの土などよりも防御力は高く、大昔には戦に使われていたこともあるそうです」


「硬度よりも弾性と靭性を持たせた装甲ってわけか……けど今、『レックス』の熱エネルギー弾でああなってるってことは……セリアの言う通り、熱が弱点なんだな」


「そういうことなら任せるっすよ!」


 一連のやり取りを聞いていたらしいアキラの、やる気満々といった調子の声が、通信の向こうから聞こえた。


 それと同時に……おあつらえ向きに、とでも言うべきか、標的を『レックス』に変更したらしい象のクリーチャーが、体の所々を変色させ、ひび割れさせた状態で突進してくる。


 しかし、『レックス』は当然1歩も引かず……真正面から巨体を迎え撃つ。


「衝撃でも貫通力でもなく、単純な『熱』が一番効果的なら……コレっすね」


 言いながら、思考操縦で『レックス』を動かす。その様子から、阿吽の呼吸で何をするか察したハルキも、体担当としてやりやすいように動かす。


 すると『レックス』は、両足を肩幅(と、言っていいのだろうか)より少し広めに開いて踏ん張りがきくような体制になり、少しだけ腰を落として構える。

 僅かに開いている口の奥、牙と牙の間から、燃えるような……いや、実際燃えていることによるのかもしれない、強烈で凶悪な赤い光が見え始めた。


 構わず突っ込んでいく象のクリーチャーは、これから自分の天敵とも呼ぶべき、強烈な『熱』による攻撃を浴びせられる未来を、予想することもできていないだろう。


 そして次の瞬間、鋼の龍はぐあっと口を大きく開いて……そこから怒涛のような勢いの火炎ブレスを吐き出した。


 放った瞬間に、周囲の空気を巻き込んで焼き尽くしながら急速に膨張したそれは、クリーチャーの巨体をも覆いつくし、飲み込まんばかりの勢いである。


 火炎放射器の吐き出す炎が可愛く見えるほどに凶悪な熱量が、一気にその表面を焼き、焙り、乾かしてひび割れさせていく。


「めっちゃ動きが悪くなったっすね! 体ももう、見た目的にもボロボロだし、セリアの言う通り、熱が弱点でよかったみたいっす!」


「……まあ、あんだけの熱量くらったら、特に弱点じゃなくても似たような状態になるというか、十分致命傷になる気はするが……まあいいか。効果的なのは確かなようだしな」


 炎が止んだ後、そこに残っていたクリーチャーには、まだ息があった。


 しかし、『息があった』という言い方ができるぐらいにはもうボロボロで、よりふさわしい言い方を探せば『虫の息』だ。


 体を覆っていた、土の装甲だったらしい表皮はほぼ全て剥がれ、一回り小さくなった気がする。

 むき出しになった本物の『体表』には、いくつかの傷があった。シドのそれはもちろん、それ以前に仲間達が撃ちこんでいた攻撃は、無駄というわけではなかったようだ。


 クリーチャーは勝ち目がないことを悟ったのか、『レックス』に背を向けて逃走を始める。


 しかし不運なことに、その行く先には、それを読んでいた『グランドガード』が、猛スピードで回り込んでいた。

 しかもその直後、変形を始める。


 それ以前の世代のAWと同様、立ち上がるような動きで上に伸び……後ろ側に回されていたらしい両腕が出てきて2本腕の2本足に。


 脚部には『車両形態』での機動力の要だったキャタピラが、両足に装着されており、『歩く』だけでなく、それを使って『走る』あるいは『滑る』ような動きが可能なのだろうとわかる。


 『戦車』としてのシンボルとでも言うべき砲身は、少しずらして右肩から伸びるような形になっている。照準を合わせれば、引き続き攻撃のために使えそうだ。


 そうして『人型』に姿を変えたグランドガードは、背部に格納していた武器……2丁のAW用大口径拳銃を両手に持ち、さらに両肩から迫撃砲のような砲身をのぞかせた。


 それら全てに一斉に火を噴かせる。


 連射そのものはサブマシンガンやガトリング砲と比べるような勢いではないが、1発1発が確実に命中して痛打になる威力。それが足に、胴体に、そして頭に撃ち込まれる。


 それに耐え、横をすり抜けるようにして走り去ろうとするクリーチャーを追いかけ、撃つ。

 いっそ排除しようと突進に切り替えてきたクリーチャーをかわし、前後左右に動いて振り回し、撃つ。


 動きながらも着実に痛打となる一撃を――土の鎧を剥ぎ取られているから余計に――積み重ねていくシド。


 そして、数十秒と経たないうちに、クリーチャーについに限界が来て、ふらりと体が傾き……その瞬間、シドは一気に前に出た。


 小石や砂利、それに乾いて剝がれた土の装甲を跳ね飛ばしながら突貫し、(AWの)手を伸ばせば届くところまで接近した瞬間、右肩に背負っていた戦車砲を動かし、ほぼゼロ距離で発砲。

 

 しかし、首根っこのあたりに打ち込まれたはずの砲弾は、すぐには爆発せず、クリーチャーの体にめり込んで、というより突き刺さって止まっていた。


 撃ってすぐにシドはその場を離れ、数秒経ってから、クリーチャーがどうにか立ち上がって逃げようとしたところで……あらかじめ設定されていたタイマーが0になる。


 最近開発された新兵器の一つである、『地殻貫通爆弾(バンカーバスター)』の爆発により、内部から吹き飛ばされる形となったクリーチャーは、首と胴体を泣き別れに……どころか、頭半分を吹き飛ばされるような形となって、完全に沈黙した。





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