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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第4章 アークル計画
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第74話 未確認のクリーチャー



 『アークル』への道のりも半ばといったところ。

 この辺りまでくると、途中宿をとって休める同盟フォートもすでになく、一行はここ数日は、見張りを立てて野営する日々を送っていた。


 いずれはこうなるともともとわかっていたことではあるし、軍人にとって野営などというのは、遠征任務や中長期の訓練ではほぼ必ずと言っていいくらいについてくるもの。手馴れた様子で準備を進める者も多く、それ自体はさして苦ではなかった。


 しかし、進んでいるのが自分達のホームから遠く離れた、未知で未開の領域であり、クリーチャーの襲撃頻度もやや上がってきている現状が、心身の疲労を蓄積させる。


 まだ十分対応できる範囲内ではあるが、『ヴォーダトロン』周辺はおろか、普段の任務地ではまず出ないような種類のクリーチャーも確認されるようになってきている。

 事前の調査により、資料で読んで知識としてはその存在を知っていても、慣れない敵を相手取る際の心労というものはどうしてもバカにならないものだ。緊張感が空気を張り詰めさせ、必要以上に体が強張り、終わった後の疲労感に変わる。


 日に何度かは、討伐時の安全確保のために『第7』からも動員が出始めており、『アークル』への旅は佳境に差し掛かりつつあるのだと、誰もが実感していた。


 それでも、これまではまだ、事前に情報がある相手だけだった分、よかったと言えるのかもしれない。




「哨戒部隊より連絡入りました。前方にクリーチャーあり、数は1、しかし、事前の情報にないタイプだとのことで、他の部隊の知識やデータベースとも照合願いたいとのことです」


 哨戒部隊からの連絡を受け取ったセリアが、『第7』を含む護衛部隊全員に行き渡るように、通信に乗せて声を届ける。

 彼女は現在、マリカと共に、AWではなく輸送用の車両に乗って通信設備の管制を行っている。そこに、哨戒部隊から届いた連絡の内容がそれだったのだ。

 セリアのその言葉に、それを聞いていたマリカの眉間にしわが寄った。


 彼女にとって、『未確認のクリーチャー』というのは、あまり耳聞こえのよくない、苦い過去を連想させるキーワードである。

 それは、『サラセニア』への遠征中に、思いがけず『ドラゴン』の襲撃を受け、勇敢に戦った航空隊員達の『隊葬』に立ち会った『第7』の面々にも共通して言えることだった。


 もちろん、単純に戦術上の


「情報にない……か。未確認のクリーチャーってこと?」


「不明です。特徴としては象のような外見をしていたと」


「ゾウ?」


「えっと、あの……四本足で鼻が長くて耳がでっかい、っていうか体全体でかい生き物? 前に本で見たことあるよ」


 と、メリル。


 『災害世紀』が始まり、環境の荒廃が進んだこの地球においては、本物の象を見る機会など既に無い。

 動物園も、サーカスの巡業も、インドやタイでは観光資源としてあった象に乗る体験アトラクションも姿を消し、映像記録や本に姿が残るのみだ。


 どこかに野生で暮らしているものもいるかもしれないが、少なくとも『第7』には、直接象を見たことがある者は皆無。

 『災害世紀』が始まる以前に生まれた者であれば、もしかしたら動物園か何かで見たことがある者もいるかもしれないが、半世紀近くになるこの荒廃した時代の前から生きている者となれば、相応の年齢になる。幹部や議員などならともかく、現役の軍人にはそうそういないと言っていい。


 そもそも、一般市民の中には、そういった映像記録や本などを見る機会がある者すらそう多くはないのだ。世代がもう1つか2つ違えば、象という動物を知らない子供が出てきても不思議ではないかもしれない。


 ともあれ、ここにいる面々はひとまず『象』自体は知っていたし、映像や写真でなら姿を見たこともあったので、報告を受けておおよその想像はできた。その点は幸いだっただろう。


「情報、もうちょい詳しく。象みたいな外見なのはわかったけど、具体的な大きさや特徴は? 外見から判別できる攻撃方法なんかは?」


「少々お待ちを……大きさは目算で、体長8~10m、体高は6~7m程度だそうです。普通の像と同様に長い牙と鼻があるので、恐らくはそれらが武器になるものと目されるそうですが……」


「でけえなそりゃ……『オーガングリズリー』や『ドラゴン』より上か。それだけのサイズなら、ただの体当たりとか踏みつけだけでも十分脅威だぞ」


「見てくれだけで中身はスッカスカ、とかだったら別だろうが……そんな都合のいい相手じゃないだろうしな」


「はい。まだ遠目に観察しているだけですが、周辺の様子から、足踏みに際して地響きが起こっているようですので……相応の重量はあると見ていいと思われます」


「この周辺特有の種族、か……恐らくは、この辺りはそいつの縄張りと見ていいだろうな。さっきから妙に他のクリーチャーに出くわさなくなったのはそのせいだろうぜ」


 報告通りの大きさだとすれば、体高だけでも普通のAWの1.5倍以上あり、『レックス』ですらわずかに見上げるであろうサイズだ。本物の象を見たことがある者であっても驚かずにはいられないだろう。

 それに見合った重量があるのだとすれば、確かにクリスの言う通り、単純な体当たりなどの原始的な攻撃が、頑丈なAWにとっても必殺の一撃となって襲い掛かるかもしれない。


 まして、『ドラゴン』同様、データベース上にない、全くの新種と言う扱いになるであろうクリーチャーだ。


「生態等気にはなりますが、現状では戦闘は避けるべきかもしれません。セリア、迂回して進むことは可能かどうか、哨戒部隊に確認の要請を……」


「すいません隊長、たった今、それは不可能であると連絡が届きました……件の象のようなクリーチャーに、こちらの存在を気取られたようです。一直線にこちらに向かってくると」


「「「っ!?」」」


 セリアの報告に、聞いていた全員が息をのむ。


 いきなり事態が動いたのもそうだが、より近くで見ている哨戒部隊ではなく、自分達『使節団』本隊を見つけて突っ込んでくるとはどういうことなのかと、少なからず驚きがあった。


「あくまで予想ですが、匂いを嗅ぎつけられてしまったのではないかと。件のクリーチャーが発見された地点から見て、こちらは風上ですし……象は猪や熊などと同じく、鼻が効く動物です。その特徴を受け継いでいるとすれば……」


「なるほどな……熊と猪っていやあ、あの時もそんな状況だっけな」


 ハルキのそんな言葉を聞いて、ほとんどの面々が『あー確かに』と納得したような、過去の記憶を思い出すような仕草をする者がほとんどである中……2人ほど、違った者がいた。

 その一件の『裏』を――もしかしたらそうだった可能性がある、というレベルではあるが――知っていた2人……ファウーラとシドは、身をわずかに強張らせる。


(まさか……また……?)


 ファウーラのそんな心中も知らず、ロイド達は続ける。


「こっちに来るんなら、未確認のクリーチャーだし、万全を期して挑む戦うべきだろ。今出てる『第7』のメンバーも皆で協力して挑むべきだと思う」


「まあ、たしかに……」


 クリスの言葉は、最後までは続かなかった。


 言っている途中で、徐々にではあるが、地面が大きく、長く揺れているのに気づいた。

 足音のような比較的規則的なリズムで、少しずつ、しかし確実に……こちらに近づいてきている。


 しかし、揺れの大きさがかなり大きくなってきたところで……その大きさ月にだろう、『第7』の全員は、こちらの向かってくる1体の『象』を既にその目にとらえていた。


 それが余裕で可能であるくらいには、そいつは大きかった。

 恐らくは、過去最大レベルの大きさの1つであろうことは間違いない。木立の向こう側にいながらも、ここでその存在を確認できてしまう。

 

 なるほど確かに『調査団』の車列目掛けて一直線で迫ってきている。興奮しているのか、鼻を持ちあげて振り回している。

 鼻の動きは……こちらに対する威嚇も兼ねているのだろうか。などと誰かが思った直後、最前面の木立を盛大に踏み倒して潰して、象型のクリーチャーがついにその全容を見せた。


 ―――バオオォォオオォオッ!!

 

 映像で聞いたことがあるような、しかしどこか濁っていて低音な咆哮を響かせながら、巨体を前後に揺らしながら、そのクリーチャーは走ってくる。


 先程セリアも言っていたことではあるが、その巨体が見掛け倒しではないことは今からでもよく分かった。

 この距離でもハルキ達の元に地響きが届いているし、進行方向上にあった、そこそこのサイズであろう岩が、その突進に巻き込まれただけで粉砕された。


 今の光景だけで、並のAWでは移動に巻き込まれるだけで、文字通り潰されてしまうことは明らかだった。これまでで最大級の驚異度の敵を前に、ファウーラは頭を回転させ、素早く指示を出していく。


「長距離攻撃系の兵装を持っている機体は前へ! 扇状に展開、攻撃を象型クリーチャーに集中させてください! アレを相手に接近戦は不可能です、近づかれる前に仕留めます!」


 いつでも出撃できる状態で待機していた者達が素早く展開する。手にはロングレンジライフルやグレネードランチャーなど、遠距離でかつ火力のある武器を選んで持っていた。

 あの巨体では、並大抵の攻撃をぶつけたところで焼け石に水だろう。それなりの火力が要る。


 展開を待つ間、ファウーラは続けて指示を出した。


「出し惜しみはしない方がいいでしょうね……ハルキ、アキラ、『レックス』で出撃を。他の人達と同様、接近戦は避けて遠距離から火力をぶつけてください。それから……シド、休憩中に申し訳ないですが、あなたも機体の準備を」


「了解」


「了解っす!」


「了解。準備できたら知らせる」


 その間に、3人に先駆けて他のAWの準備が整い、ファウーラの合図で攻撃を始める。


 バズーカが、ライフルが、グレネードが吐き出す砲火が、象のクリーチャーに殺到する。

 身を包む爆炎にクリーチャーは少し怯むが、それでかえって怒りに火がついたのか、咆哮を上げてさらに加速する。


 効いていないわけではないし、無傷でもないようだ。しかし、相当に頑強な肉体をしているのか、有効打と呼べるようなダメージになってはいないようだった。

 銃火器が直撃してもものともしない頑丈さは、『サラセニア』で遭遇した『ドラゴン』を彷彿させる。機銃以上に火力のある兵器を食らって無事ということは、この象の防御力はあれと同等かそれ以上なのだろう。


 多少なり勢いを弱めてはいるが、このままでは突破され、接近しての戦闘になってしまう。


 しかも、近づくにつれて地響きが酷くなり、銃火器の狙いがつけづらくなってくるという悪影響も出ていた。


 また、近くに来たことで、よりはっきりとその姿が見えるようになっていた。


「あの象……何か、土とか岩の集合体みたい?」


「ホントだ。コケとか生えてるっぽいし……でも、頑丈さは絶対土や岩じゃないよね」


「超圧縮されてるとしたらありえなくもないかもな。しかし、アレがあのクリーチャーの特性なら……この巨体も納得いくかもしれん」


 クリスのそんな言葉に、メリルやロイドが『どういうこと?』と返す。


「多くのクリーチャーはその身の内に『資源』になる物質を宿している場合が多いわけだが……そいつらの食事も、個々の『資源』に応じたものになってるだろ? 『ガラスクイムシ』ならガラスや地中のケイ素、『黒炭猪』なら有機物全般、って感じで、それぞれ性質に合ったものを餌として摂取してるわけだ。まあ、人間だけは例外でどんなクリーチャーにもほぼ狙われるが……まあそれは今はいいだろ。で、だ。その理屈で行くとあいつの食料は……」


「土とか岩、ってことか? そりゃ……この辺山岳地帯だし、岩とかあちこちに転がってるよな……それ以前に、土なんてマジでどこにでもあるし……」


「どこにいても食料に困ることがなくて、お腹いっぱい食べられる……そりゃ大きくもなるか」


 納得した様子の3人――もちろん、話ながらも彼らも撃っていた――の視線の先で、もう間もなく象型クリーチャーとの距離は、迎撃開始時の半分以下にまでなろうとしていた。


 しかしそれよりも先に、


「隊長! 『レックス』準備完了! すぐ出る!」


「こっちもだ、隊長。『グランドガード』準備完了、これより戦場に出る」


 大型トレーラーのような輸送車の荷台が開き、機械仕掛けの恐竜が下りてくる。


 また別な輸送車の荷台から、旧時代に猛威を振るっていた『戦車』が下りてくる。


 この調査団における3つの最大戦力。そのうちの2つが、動きだそうとしていた。





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