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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第4章 アークル計画
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第72話 『アークル開拓調査団』、出動



 それからさらに時は過ぎ、様々な準備が整った。

 そして、ついに『アークル計画』実行の時は訪れた。


「大きなプロジェクトの割に、特にセレモニーとかあったりするわけじゃないのね」


 と、マリカ。自身の着任当時、両フォートの友好関係をアピールする目的もかねて、略式ではあるが盛大な式典のような形で実行されたことを思い出しているのかもしれない。


「まあ、確かにデカい仕事ではあるが……言ってみればあくまでまだ準備段階だからな。これが、開拓が順調に進んで、移民を募って出発するとかいう段階になればまた別だろ」


「その際は、民間に移民希望者の公募を行うのはもちろん、移民自体を半ば公共事業のように扱って、開拓のために人員や業者を送り込む計画だとのことです」


 通信越しにそんな会話を交わしながら、『第7特務部隊』の面々は、一路『アークル』への道を歩み始めていた。


 数か月前、『サラセニア』を目指して遠征した時と同様に、同行するいくつもの部隊を守りながら進むために、広く展開して進んでいく。

 AW以外にも、様々な役割を持った車両が同行して、大規模な車列を形作っている。


 その規模は『サラセニア』への遠征の時の比ではない。

 『第7』以外にも複数の部隊が動員されている上に、開拓前の前準備とはいえ、『アークル』を調査するため、戦闘部隊以外にも、様々な部署から選抜された者達が同行している。


 道中起こったこと、出くわしたものなどを記録し、今後使える資料とするための執務部隊。


 『アークル』周辺の地理的状況などを計測・分析する測量部隊。


 『アークル』にある施設などを分解し解析、可能ならば修繕して再利用できるようにするための技術工作部隊。また彼らは、道中の車両等機体の整備など、技術班としての仕事も担っている。


 遠征中――『アークル』到着後を含む――における食料や物資などの管理・補充を担う兵站部隊など、他にも多くの部隊が同行していた。


 フォート間の大規模な交易などの物資輸送をも上回る規模で編成されたこの一団は、『アークル開拓調査団』と名付けられ、総司令・アルフレッドをはじめとする要人達の見送りを受け、今朝『ヴォーダトロン』を出発した。


 そして走ること数時間。今はこうして、ヴォーダトロンからすっかり離れた荒野を走っている。


「隊長、そろそろ3時間ですので、休憩をとる場所の選定に移った方がよろしいかと」


「そうですね。哨戒部隊に連絡、休憩に適した、障害物がなく見通しがよい場所の探索をお願いします」


『了解。各員、周辺の哨戒と並行して探索を行います』


 通信の向こうから聞こえて来たのは、『第7』ではない別な部隊の指揮官の声だった。


 先に述べた通り、今回の遠征では、『第7』以外にも部隊が選抜された上で、役割を分担して『調査団』の護衛を担っていた。


 『第7』は防衛の主力として、『調査団』の車列を近い位置で護衛しつつ、クリーチャーが出た際などには臨機応変に動いて速やかにその障害を排除する。


 しかし、ある程度他の部隊に任せられることに関しては、『役割分担』の一環として任せてしまっている。周辺の広い範囲の哨戒や、驚異度が低いクリーチャー等に対する応戦などだ。

 少数精鋭で『アークル』を目指すために選抜された部隊だけあり、実力は並み以上の者達がそろっている。連携も取れており、そこらのクリーチャーに後れを取るようなことはまずない。


 結果として、現状において『第7』の担う仕事はほとんどなかった。


 進みながら『レックス』に搭載されている高性能レーダーで周辺の警戒を行ってはいるものの、それと同等かそれ以上の範囲を、別部隊が見回って警戒している。

 肉眼では発見できないものに対する警戒という面では意味はあるだろうが。


 戦闘に関してはそれ以上で、全くと言っていいほどにない。


 既に何度か戦闘は起こっているが、ハルキ達を動員するまでもなく、別な部隊が動員されてクリーチャーを素早く討伐し、回収班が資源として回収できる部分を剝ぎ取って回収する。安全が確保出来たら、また進み始める……ということを繰り返している。

 その際に回収した部位は、保管しておいて後から『レックス』が『捕食変換』によってインゴットに変え、よりコンパクトにすることで有用な資源として使う。


 調査団のこなす仕事の中には、道中出て来たクリーチャーをこうして資源として回収し、現地調達した資源として『アークル』に持って行って有効利用する、というものも想定されている。そのため、運搬用の車両の荷台には、あらかじめそれを想定した空きをある程度作っていた。

 さらに、途中で使う消耗品……食料などを入れているコンテナは、生分解性のバイオ素材で作られていて、途中で破棄できるため、その分のスペースも必要であれば使うつもりだった。


 もっとも、破棄できない廃棄素材などは、こちらは『レックス』の捕食変換で素材に戻してしまうため、色々な面で無駄がない計画が立てられている。


 このように、主な仕事と言えば、『レックス』による各機体へのエネルギーの補充や『捕食変換』による資源の再構築だけである。


 ハルキ達は、自分達が暇なのは、事前に立てていた計画が滞りなく進められている証拠でもあると、感情的な部分はともかく、今の状況を好意的に受け取っていた。


 むしろ、暇でいられる内が花だ、とも思っていた。


 こういった仕事……特に、状況がよくわかっていない地域などに足を運ぶ際には、極端な話、何が起こってもおかしくない。


 未確認のクリーチャーの襲撃か、突然の災害か、はたまた全く別な脅威か……いかなる想定外の事態が起こってもいいように、今何もないとしても、警戒と準備は怠らずにハルキ達は進む。



 ☆☆☆



 予定としてはハルキ達は、最初の数日間……おおよそ『アークル』までの道程の前半部分においては、道中に存在する同盟フォートに協力してもらって補給などを行うつもりでいた。


 フォートに負担にならない範囲で食料などを買い付けたり、機体の整備のためにドックを借りる。タイミング次第では、場所を借りて一晩そこで野営したり、宿をとらせてもらう。

 その見返りに、道中採取したものも含めたいくらかの資材を置いていく仕組みだ。


 もちろん、そうする余裕があるフォートを選んでのことだが。もとから食糧難などに頭を悩ませているフォートは避けているし、立ち寄るフォートにおいても、補給する品目は選んでいる。


 また、道中で積極的にクリーチャーを討伐していたのには、フォート周辺の安全確保を行い、それも合わせて協力フォートへの礼とする意味もあった。


 概ね予定通りに進むことができた遠征初日、ハルキ達『調査団』は最寄りのフォートで宿をとり、ゆっくりと休んで1日の疲れを癒していた。

 『第7特務部隊』の面々がまとまって取った宿の食堂で、夕食を食べ終えたところで、呟くようにロイドが言った。


「遠征任務にしちゃ、今のところ快適と言うか暇というか……楽と言えば楽だな。道中の戦闘とか仕事はほとんど全部他の部隊に任せてられるし、まあ平和でいいけど」


「そーだね。『サラセニア』の時の方が忙しかったくらいだよ。むしろちょっと退屈かも」


「そんなのは本当に今だけだ。むしろ堪能しとけ」


 食後にサービスで出されたお茶を飲みながら、クリスが言う。


「予定通りに進めば、この先どんどんクリーチャーの出現頻度は増えていくだろうし、『ヴォーダトロン』の周辺にいない種族の相手も増える。中小フォートじゃ、あまり広範囲にわたって定期的な討伐や、調査して生態の把握なんかをやれるわけでもないだろうしな。そうなればこちらも無傷ではいられないかもしれないし、俺達にも出番が回ってくる可能性は高い」


「当初の予定では、4日後以降に通過するエリアから、そのような種族が生息域としているエリアを通過する見込みとなっています。一応、事前の情報収集として、周辺のフォートから、生息するクリーチャーの種類や縄張りの位置等の情報を集めてはいましたが、バージル少尉の言う通り、情報量及び制度は芳しいものではなかったようです」


「ほぼぶっつけ本番の道のりになる可能性が高い、ってことか……」


「その場合でも、私の出番はあるかどうかわかんないけどねー……」


 そう、ため息交じりに呟くのは、出番という意味ではこの部隊の中でもっとも乏しい立ち位置にいるマリカだった。


 彼女の場合、AWの操縦もできないわけではないが、その技量は他のメンバーには遠く及ばない。あくまで彼女の愛機は戦闘機であり、ホームグラウンドは空なのだ。


 それゆえに、普段でさえ全くと言っていいほど出撃して戦う機会はない彼女だが、遠征においてはそれは『ほど』がつかずに『全く』そのものになる。滑走路その他設備も何もない場所で戦闘機が発着できるわけもないし、そもそも戦闘機自体、簡単に運べるようなものでもない。


 大きさ、形状、取り扱いの難しさなどは、AWとは大きく違う。AWであれば、専用の大型輸送車で数機まとめて運ぶこともできるが、戦闘機はそうはいかない。縦にも横にも場所をとるし、不安定なため数段注意深く扱わなければならないものだ。


 実際、マリカが『ヴォーダトロン』に派遣されてきて以降、彼女の出番は2回しかなかった。

 フォート周辺に出現した飛行型クリーチャーを相手にするための出撃で、それも彼女自身の腕もあってすぐに終わってしまった。特筆すべきこともほとんどなく。


 もっとも、それも本来は対空用の防衛設備を使うか、『レックス』の大火力で弾幕を作るなどして迎撃すれば、マリカの出撃すら必要ではなかったのだが、シミュレーターばかりで飛ぶ時の感覚を鈍らせないためにという思惑と、単純に出番が欲しかった本人の熱望もあってのことだった。


 結果として、遠征中などにおいては、通信設備の管理や戦闘中の管制、作業用としてのAWの操縦など、雑務の範疇に入る仕事が彼女の受け持ちとなっていた。


 ただ、それを考えると、『遠征』においては本来の実力が発揮できないことが確定している彼女が、今回のこの調査団に『第7』の一員として同行しているのは、単純に雑用その他のためだけなのかと言えば、そうではなかった。


「お前の機体はそうそう簡単には動かせないんだから仕方ないだろ……いくら改造して、前までよりは取り回しというか、フットワークが軽くなったとはいえ……燃費とか前後の準備とか大変なんだからよ」


「それはわかってるってば。まあ……出番があることを祈ってるわよ。それまでは普通にいつも通り、雑務とか引き受けたり手伝ったりしてるから」


「祈らないんで欲しいんだけどな……マリカが出撃するってなったら、そりゃ俺達に出番が回ってくる以上に『よっぽど』な事態だろうし」


「でも、出番なくて手持ち無沙汰っていうか、暇なのが辛い気持ちもわかるけどねー」


 そんな彼らの軽口の会話の意味が明らかになる機会が――すなわちマリカの出番が来るのかどうかは、まだ誰にもわからない。

 だがもしそれが来るとしたら、それはロイドの言う通り、彼らにとってのっぴきならない事態が起こったということにほかならず、文句なしの『緊急事態』として扱われるのだろう。


 来てほしいような来なくていいような、複雑な思いの中で一行は食後の休憩時間を過ごし、遠征初日を無事に終えて各自の部屋に戻っていくのだった。





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