第71話 強化と密談
総司令・アルフレッドの口から直接話された、アークル開拓計画とその必要性。
それらが明らかになった会議からさらに時は流れ……実行の時は、すぐ間近に迫ってきていた。
その間に、計画の細かい部分を決定する会議などがたびたび開かれ、その中で『第7特務師団』の立ち位置も明らかになった。
大方の予想通りと言う他ないが……この計画に際して、『第7』は戦力面での主軸たる役割を任せられることが決まっていた。
理由は色々とあるが、やはり最大の理由は『レックス』の存在だ。
まず、これも『レックス』関係ではあるのだが、『サラセニア』に遠征に出た時と同じ理由である。『レックス』の持つ、反則級のエネルギー生産機能。それによって、開拓のために動く部隊全体の諸業務にかかる燃料を賄うためだ。
物資や人員を輸送するのには、相応の性能を持った車両を、相応の台数必要とする。
さらに、道中の安全を確保するために動員する戦力。『第7』だけではなく、他にもあちこちから人員が選抜され、この計画のための戦闘部隊が編成されることになる。
彼らは当然、AWあるいは装甲車などによってに無に従事することとなる。
それらを動かすのにエネルギーは必要になるわけだが、揮発油系の燃料でそれを賄おうとした場合、膨大な量のそれが必要になるため、大きな負担になる。そのため、電力によって機体を駆動させる動力炉を積んだ車両及び機体が用意されることとなった。
そしてそのために必要な電力を、『レックス』が生産して供給する、という手筈である。
さらに、『アークル』に到着して以降も、調査や開拓のための諸業務に必要なエネルギーは、『レックス』の生産能力を活用する方向で計画が立てられている。
そして、今やレックスのもつ機能のうちで最も重宝されている『捕食変換』。
これを用いて、道中発見した資源になるものや、討伐したクリーチャー、そして、『アークル』にあったものの中で、使えそうなものを軒並みインゴットにして資源として回収する。
「……って、働かされ過ぎだろ、レックスと俺ら……」
「まあ、実際便利だし、しかたないんじゃねーの? このご時世だし、使えるもんは使わなきゃ」
「にしたって、ほとんどレックスありきの計画っすよね、コレ」
資料に起こされた『アークル計画』の概要を再度読み込みながら、ハルキ達は事務室で、ため息交じりにそんな雑談を交わしていた。
実行の日が近づくにつれ、日々の業務は『アークル計画』に関連するものが大半を占めるようになり……ハルキ達は、嫌でも自分達がその計画の中心にいるのだと実感するようになっていた。
しかし、比重はともかく、中心にいるのが『レックス』と、そのパイロットであるハルキとアキラだけかと問えば、それも違う。
先程述べたように、『最大の理由』はレックスの存在だが、その他にも『第7特務部隊』が計画の主軸を担うことになった理由はいくつか存在する。
『第7』は、構成メンバーのほとんど全員が、AWパイロットとして『エース級』の実力を持つ人員であり、戦力としての質が非常に高い。
そうでないのはハルキ、アキラ、そしてマリカの3人だけである。
加えて、『第7』は護衛、防衛、討伐、採取、さらには場合によっては土木作業など、多種多様な任務をこなしてきているため、様々な状況に即座に対応できる。
何が起こるかわからない今回の計画においては、その対応力は最も重要な能力の1つだ。
そういった面で、『第7』には所属する隊員全員に対して大きな期待が寄せられている。
それを証明するかのようなある変化が、既に彼らの身ないし周辺には起こっていた。
「それはそうと、ハルキ達って今日も午後から技術部か?」
「ああ、『レックス』から電源供給する装置の動作点検。色んな規格の車両やAWに搭載する動力炉の調整やらなんやらで、もう連日へとへとになるまでだよ」
「? 何でお前らがへとへとになるんだ? お前らの仕事は『レックス』の操作で、生産した電気を試作機に充電させるだけじゃ……もしかして、技術部の作業の方も手伝ってんのか、お前ら?」
「おう、割とガッツリな」
もともと技術畑の出身であるハルキとアキラの兄妹。
『事務室よりも作業場にいた方が落ち着く』とまで言うだけあって、そういった分野は仕事自体も好きでやっている2人だが、流石に疲れることは疲れるらしい。
「まあ、疲れはするけど……実のところ、私らも結構ノリノリでやってるっすからね。そうじゃなきゃ、調整する間コクピットの中で丸々暇な時間なわけだし」
「にしても結構な激務だよなあ、ここんとこは……で、そういうロイド達は? 今日も訓練か?」
「ああ……本番までに少しでも慣らしとかなきゃいけないからな……新しい機体に」
こっちはこっちで大変だよ、とため息をついてみせるロイドだが、その一方でどこか嬉しそうにしているのが動作の端々から感じ取れた。
その理由は恐らく……今彼が自分で言っていた『新しい機体』に起因するのだろう。
同じように、メリルも……いや、こちらはもっと素直に喜びを表情に表しているようだ。
「でも、総司令太っ腹だよねー、まさか私達全員に『第5世代』を配備してくれるなんてさ」
「だな。しかも、俺達好みの仕様に調整したり、カスタムまでしてくれるっていうし」
「おまけに、シドにはその上の最新鋭機……『第6世代』と来たもんだ。総司令部がどれだけ今回のプロジェクトに本気なのかがうかがい知れるってもんだな」
ロイド、クリス、も続いてそう話す。
彼らの話の通り、この数週間の間に、『第7』に配備されている機体は、ほぼ一新されていた。
今までは、『第7』の隊員各位の乗る機体は、第4世代機『ドルデオン』。隊長であるファウーラと、副隊長であるシドの2人のみ、第5世代機である『ブラムスター』だった。
所属する隊員全員が、最新鋭かそれに近い性能の機体を配備されているというだけでもかなりのものなのだが、今回さらにそれが一新され……今まで『ドルデオン』だった全員が『ブラムスター』を受領することとなった。
『ブラムスター』は『ドルデオン』の完全上位互換だ。機動性や精密動作性はそのままに、馬力や装甲強度が大幅に強化されている。
ゆえに、今までと操作感が違いすぎてかえって戦いにくくなるということもないだろう(無論、事前にきちんと操作に慣れておくことが前提だが)。武器もそれに見合ったものが新たに用意されることとなるので、ロイド達4人にとっても、単純な戦力アップになる。
そして、『第7』の中でも最もAWによる戦闘に秀でている『エースオブエース級』の実力を持つシドには、『ブラムスター』すら上回る、つい最近開発されたばかりの『第6世代』の機体が用意されることになっている。
細かい調整などがあり、ロールアウトはまだ先である。どのような機体なのかもまだ詳しくは知らされていない。受領する本人であるシドや、その上司であるファウーラは、ある程度なら知っているかもしれないが。
しかし、世代が1つ違えば、AWの性能は大きく違う。シド自身の技量も相まって、これも大きな戦力アップにつながることだろう。
しかし、そういった部隊レベルでの大幅な強化が嬉しく、頼もしく思える反面で……同時にハルキ達は、不安やプレッシャーも確かに感じていた。
総司令部のこの大盤振る舞いはすなわち、今回の任務が、それだけのことをしなければならないほどに困難なそれだということを表しているのだと、悟っていたからだ。
あからさまな武力方面の強化。
それだけの危険がある、という点は最早疑いようもない。
しかしこの上さらに気になることがあるとすれば……先だっての会議でアルフレッド総司令が言っていたことが、今になってもふとした拍子に、ロイド達の頭をよぎる。
はたしてこの、新たに手にした力を振るう相手は……クリーチャーのみであってくれるのだろうか、と。
☆☆☆
「……滅びたフォートの復興計画だと?」
「あまりにも荒唐無稽な話だが……確かな情報なのか?」
「ええ、かなり厳重に管理されている情報だったので、把握するのに苦労したのですが……その計画とやらが実行する時期に近くなり、協力関係にあるフォートへの情報開示が進んだことで、どうにか全体像がつかめました。位置的には、このあたりにその廃棄されたフォートがあると」
「……確かに、『アークル』が元あった場所だ。ふむ、その話が本当だとすれば……ここ最近あのフォートがやたらと資材や食料をかき集めていた理由にもなるな」
「確かな情報で、なおかつ連中は本気、ということか……どうする?」
「好機には間違いないが……我らはどう動くか……。そもそもその『アークル』とやら、本当にそこまでの価値がある場所なのか?」
「そうでなければ奴らが動くこともないと思うが……」
「待て……話が大きくなりすぎて妙な方向に進もうとしているぞ。我々が重視すべき点は変わらん……もっとシンプルに、今まで通りに考えるべきだろう」
「と、言うと?」
「我々が標的とするのは、あくまで物資と武力……つまりはあの『レックス』なる機体だ。あの辺りならば我々の方が土地勘がある。そこで待ち伏せて、疲弊した隙を突いて奪えばいい。そして、『アークル』とやらに価値があるのかは……今考えても仕方あるまい」
「では、無視するのか?」
「ひとまず様子を見よう。必要なら、襲撃直前まで下調べを継続して……もし、その放棄されたフォートに、奴らが言う通りの価値があるのなら……それも含めて奪えばいい」
「なるほどな。……今回も、誰か他の手駒を使うのか?」
「いや、今回は我々が直接動くべきだ。その計画通りに連中が動くのなら、莫大な物資と『レックス』がセットになって拠点を遠く離れ、自分から確実に孤立してくれるということだからな。周辺の状況等を考えれば、我々にとってもリスクは大きいが……これ以上に魅力的なシチュエーションはこの先あるまい。手駒共にくれてやることはない」
「確かにな。では……準備を進めよう。全ては……『アルリ・バラム』の」
「ああ、先人達が築いた、我らがフォートの未来のために」




