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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第4章 アークル計画
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第70話 3つの理由



 しばらくの間、ハルキ達は採取系の任務に従事し続けていたが、それもようやく終わりを告げた。


 そしていよいよ、そこに至るまでの全てが『準備作業』だった、本番とも言うべきプロジェクトに着手する時がやってきていた。


 場所は、総司令部で一番大きな会議室。重要な会議にも使用されるそこには、そうそうたる面子が集められていた。


 ヴォーダトロン総司令・アルフレッドを筆頭に、フォートの意思決定機関である『議会』の議員達、さらに軍事部門や執政部門の幹部クラスがそろっている。そして、彼らそれぞれに付き従うように、その部下たちも何人か同時に出席している。

 部下たちに関しては、1人か2人のみ出席しているところもあれば、恐らくは隊員全員が出席しているのであろう規模のところもあった。


 『第7特務部隊』はこの中で後者である。他にも、この計画にメインで携わることとなるのであろう部隊などは、ほぼ全員が出席して、直接総司令らの口から計画の概要を聞くようだ。


「それではこれより、ヴォーダトロン総司令部主導による開発放棄区域再開発計画『アークル計画』に関する説明を行います」


 司会進行を務めるらしいファティマが、広い会議室の隅々まで届く声でそう告げた。


 彼女の言葉に続けて、アルフレッドが立ち上がり、全員の視線が集まる中で話し始める。


「さて……諸君、今日は忙しい中よく集まってくれた。今日この場で話す内容は、今後のヴォーダトロンの……いや、人類そのものの存続のために非常に重要な一歩を踏み出すための計画だ。既に各部隊の隊長などから、概要くらいは効いているかもしれないが、全体での確認や、齟齬を埋める意味もかねて……今日この場で改めて、私の口から説明させてもらおう、心して聞いてくれ」


 そうして語られたアルフレッドの話は、彼が言った通り、凡そ既にハルキ達が聞いていた内容と一致するものだった。詳細な補足が追加されている点が、差といえば差だった程度だ。


 かつて、『アークル』というフォートが存在した。


 しかし、様々な理由からそのフォートは放棄され、そこに住んでいた人々は散り散りになって大陸の各所に逃げていった。無事、他のフォートに行き着いた者もいれば、道半ばで力尽きた者もいる。


 その中の、幸運にも逃げ伸びることに成功した何人かから聞いた情報で、総司令・アルフレッドはこのフォートについて、他人よりも詳しく知っていた。


 このフォートは――設置当時まだ『フォート』という呼び名があったかは定かではないが――当時の中国当局が、周辺地域について詳しく調べるための前線基地として設置したものだった。

 しかし、放棄された際に、それまで集めた情報や資料はほとんど持ちだされなかったため、未だに『アークル』の保管施設内に死蔵されている可能性が高い。その中には、ある程度『災害世紀』やクリーチャーに関する研究が進んだ今であれば、千金に値する情報もあるのではないか。


 それらの情報に加え、総司令は『アークル』そのものをフォートとして復興させることにより、新たな人類の生存権確保につなげるという狙いがある、ということまでを語った。


「『アークル』はもともと、当時の中国当局が、クリーチャー等が跋扈している中でも安全に調査が進められる拠点として、それに適した土地を選んで設置した都市だった。もちろん、全くクリーチャーが出なかったわけではないが、それも当時の戦力でも十分対応可能なものだったらしい。放棄するに至った最大の原因……それは、活動継続のための兵站線の確保が困難だったことだ」


 アルフレッドはそう言って、手元の端末を操作し、プロジェクターで会議室前方のスクリーンに画像を映す。


 映し出されたのは、地図だった。

 以前、ハルキ達がセリアから見せられた、古い『地図帳』にも載っていたような、今ではあまり役に立たないであろう正確さの地図だ。様々な災害などによって、あちこちの地形が変わってしまい、当時あった都市なども全く残っていないために。


 使えるとすれば、大まかな位置の把握、説明くらいのものだが、それができれば資料としては十分だと判断されたようだ。


 地図上で指し示された『アークル』の位置は、『ヴォーダトロン』かなり離れた場所にある。距離だけ見ても、『サラセニア』と同じくらい離れている位置だ。


 加えて、そこに向かう途中には同盟関係にある……どころか、フォートそのものが少ない。経路となるであろう道筋の半分ほどまでは他のフォートがあるが、それ以降はほぼ未開の地だ。

 『アークル』の跡地と言われる場所までも、クリーチャーの生息域はあちこちにあり、たどり着くだけでも簡単ではないとわかる。


 それでもなお、危険を冒していく必要があるのか。

 加えて、行くだけでも危険なのに、そこを再度開拓するなどということが可能なのか。そこまでする必要が、価値が、そのフォートにはあるというのか。


 言葉では出なかったが、会議出席者のほとんどは、そう思っていたことだろう。実際、顔色からしてそう思っていることが明らかにわかる者も何人もいた。


 しかし、総司令やその周囲にいる議員達、そして幹部クラスからは、反対や疑問視の声は上がらない。その理由は、すぐに明らかになった。


「君達の中には、こう思っている者も多いだろう。危険を冒してそこまで行くだけに留まらず、膨大な時間と資源を投じて、そんな遠くにあるフォートを復活させる必要があるのか、と。失敗し、つぎ込んだ資源が、時間が、無駄になって全て水泡に帰すだけではないか、と」


 その言葉にも反応はなかったが、出席者の何人かは、眉間にしわを寄せる程度の反応を示した。それだけでも、彼の指摘が図星だった者が何人かいたのは明らかだった。


 そして、このような言い回しを使ったということは、総司令はこう思う者が当然いるだろうことを事前に予想していた。そして恐らくは、それに対する答えを用意しているということだろう。

 総司令に近い位置にいる幹部級の者達が、反応を示さず大人しくしているのも、恐らくはそれが理由。事前に話がついていた、ということだ。


「その疑問に対して私は、はっきりと『是』と言わせてもらおう。最初に言ったことの繰り返しになるが……この計画は、これからの人類の存続の、未来のために必要だ。理由は、大きく3つある」


 そう言いながら、さらに端末を操作するアルフレッド。


 地図上には今、『ヴォーダトロン』と『サラセニア』、他にも、『カプージェン』や『ウルタブデラ』といった同盟フォートのいくつか、そして『アークル』の位置を示すアイコンが表示されている。


 そこに、変化が起きる。『ヴォーダトロン』『サラセニア』『アークル』この3地点が線で結ばれ……1つの大きな三角形を形作った。

 3つの都市の距離はほぼ等しく、ほぼ正三角形といっていい図形が出来上がる。


 それはつまり、それだけ『アークル』が、『ヴォーダトロン』からも『サラセニア』からも遠いということの証明であるが。


「まず1つ目の理由だが……自画自賛になるが、現在、この周辺で最も力のあるフォートは、ここ『ヴォーダトロン』だ。肩を並べられる規模のフォートは……少なくとも、このインド亜大陸には存在しない。続く規模のフォートでも、1段2段規模が下になる……一強状態、というわけだな」


 逆三角形に大陸から突き出している部分を示すようにレーザーポインターを動かしつつ、アルフレッドは言い、そこにさらに、しかし、と続ける。


「長期的に見た場合、この状況は決して好ましいものではない。現在、『ヴォーダトロン』が同盟を組んでいるフォートはいずれも……こう言っては何だが、勢力として脆弱だ。同盟と言いつつ、負担の比重は明らかに『ヴォーダトロン』側に大きくのしかかっており、つり合いが取れていない。もちろん、そうなるのを承知の上で、それでも利になると見て同盟自体は結んだわけだが……状況は変わりつつある。ヴォーダトロン以外にも、この周辺地域の柱となれるフォートが必要だ」


「だから、『アークル』を復興させてその役割を担わせる、と?」


「可能であれば、さらにもう1つ欲しい。等しい位置関係にある『サラセニア』が最有力候補の1つだな。現状では、どこかのフォートが危機に陥った際に『ヴォーダトロン』が主導となって救援に動くことができるが、『ヴォーダトロン』自体が危機に陥った場合、救援という形で対応できるフォートが存在しない。せいぜいできて、各フォートが守りを固めるくらいのものだ。しかしどの道……運営のための各種リソースを『ヴォーダトロン』に依存している現状のままでは、そこが滅びたとなれば、他のフォートも滅びるのを待つばかり、という未来は変わらん」


 ゆえに、必要なのは『ヴォーダトロン』を助けられるフォート。

 ヴォーダトロンの力がかつてないほどに大きくなっている今こそ、のれん分けするような形で、力を持つ別な『大規模フォート』を作り上げ、相互に支え合うことが望ましい、と言う。


「その分の力を『ヴォーダトロン』に結集させて、よりここを発展させるのではだめなのですか? 今から『ヴォーダトロン』に匹敵、あるいはそれに次ぐような勢力のフォートを作り出すのは困難かと……」


「無論、現状を維持するだけならそれでもかまわないだろう。実際、ここ数十年はそれに注力してきたことで『ヴォーダトロン』はここまで盤石な力を手に入れたわけだからね。しかし、これ以上を望むならそれは困難だ。『ヴォーダトロン』がいくら強大な力を持っていても、拠点となる都市が1カ所である以上、そこを中心に、勢力下においてカバーできる範囲はごく限られるからだ」


 例えば、定期的に軍を巡回させて都市周辺のエリアを見回り、危険なクリーチャーが出現していないか、地滑りや崩落の前兆になるようなものが見られないかなど、安全を確保するためにしなければならないことは多い。そしてそれは、物理的に人やモノを移動させて行わなければならない以上、距離的に限界というものがどうしても存在する。


 無論それは『ヴォーダトロン』においても同様だ。潤沢な物資と資金、それに人員によってそれ相応の規模で軍を動かしている総司令部であるが、見回ることができる範囲は、都市から半径数km圏内に限定される。それ以上は時間も手間もかかりすぎるし、そもそも広すぎて見回り切れない。

 今やっている範囲でさえ、一部はレーダーやソナーなどを使って、肉眼でなくとも代用できる部分は省いている。それでようやくカバーできる最大範囲が、今の見回りの範囲なのだ。

 これにより、危険なクリーチャーの接近・出没をいち早く察知し、その動向を観察する。必要なら討伐隊を送り込んで、都市そのものや、行き来する人やモノに被害が出る前に対処する。それでどうにか、『ヴォーダトロン』は平和を維持している。


 さらに、実際に何かあった場合の対応にも関係してくる。都市の近くであれば、すぐに常時配備されている軍の部隊が急行できるが、何かあったのが遠くになるほどそれは難しくなる。


 距離によっては、単純に必要な戦力以上に、兵站管理などを考えて余計に人員や車両を動かす必要すら出てくるだろう。


 その負担も決してばかにできるものではなく、ある一定のラインを超えた時には……救出にかかるコストを計算し、放置する、見捨てるという判断を下さなければならないことすらある。

 助けられない、助けても割に合わない相手の救出のために、それ以上のダメージを『ヴォーダトロン』が負うわけにはいかない。あくまで、フォートの利になるからこそ、その価値があるからこそ、人然りモノ然り、軍を動かしてまで守っているのだ。

 非情な物言いに聞こえるかもしれないが、そうしなければならないご時世なのも間違いない。


 そして、『ヴォーダトロン』でそうなのだから、その他の中小規模のフォートでは当然、警戒・対応できる範囲はもっと狭い。


 少し離れたところでクリーチャーに襲われただけで、その人やモノを助けられず、見殺しにするしかない。その脅威がフォートにせまり、フォートそのものが危機にさらされないように備えることしかできない……そんな話はどこにでも転がっている。


 ゆえに、この問題の解決策として一番好ましいのは、一定以上の力を持った複数のフォートが協力して、相互に補い合う形で広い範囲をカバーする、というものだ。


 単純に範囲を広げられるだけでなく、複数のフォートが協力して管理することで、同一の脅威に対し、より迅速に、より確実に対処できる。


 実際、ごく一部の範囲でのみ、『ヴォーダトロン』とその同盟フォートはこのやり方を実践しており……有用性は既に実証されていた。最大限にこれを生かすノウハウも、既に集まっているのだ。


 アルフレッドはこれを、『サラセニア』と、復活させた『アークル』によって……偶然にも『ヴォーダトロン』と等しい距離関係にある3カ所で実施することで、これまでの何倍も広く、確実で、安全な支配圏を確立しようとしているのである。


 無論、その2つだけではなく、他の同盟フォートに対しても援助を行い、強化する予定ではいるが……基軸となるのは、この3つのフォートだという。


「既存のフォートを援助・強化し、成長させてそれに足る規模にするという選択肢は?」


 先程とはまた別な幹部が挙手して聞く。


「位置的な点だけを見ても、『ヴォーダトロン』から部隊を派遣して開拓するには、『アークル』はあまりに遠すぎます。危険度を鑑みれば、余計に……そこまで遠くに行かずとも、それ以外に有力なフォートを見繕って育てるというのではいけないのですか?」


「それも1つの手だろう。安全面を考えれば、むしろそちらの方がいいかもしれない。だが……それでは範囲を広げるのに時間がかかる。そして、先程言った、残る2つの理由から……我々は今、可及的速やかにこの『勢力拡大』を実行しなければいけないのだ」

 

 そう言ってまた端末を操作するアルフレッド。


 するといったん地図が画面から消え、今度は何やら、表やグラフのようなものが現れる。


「これが2つ目の理由だ。現在のこの周辺にある、各フォートの人口推移を表したものだ。まあ、周辺と言いつつ、『サラセニア』などのいささか離れたところにあるフォートも含んでいるが。見ての通り、ほとんどのフォートで緩やかな減少傾向にある。まあ……こんなご時世だからな。しかし……一部例外があることに気づいただろう?」


 アルフレッドがレーザーポインターで示した個所。

 そこでは、緩やかな右肩下がりになっていたグラフのいくつかが、ある時期一斉に急激に数値を増加させていた。人口がいきなり増えたことを表している。


 続いてもう1カ所、別なグラフを指し示すアルフレッド。そこでは、同じ時期になって……しかしこちらは、グラフそのものがそこから先、空白になって途切れている形になっていた。


 それが示すことは……それ以降、そのフォートには人がいなくなったということ。

 より正確に言えば、何らかの理由でふ、フォートそのものが消滅してしまったということだ。


 そして、なくなってしまったフォートの住民が、新たな生活の場を求めて、周囲のフォートに移住し……結果として、人口が大幅に増加した。それが、1つ前にアルフレッドが示したグラフ。


「人口の減少以上に、このようにフォートそのものが消失してしまうペースの方が深刻なんだ。住処を失った人は、必然的に近くのフォートを頼って移り住むことになるが……そのフォートが、移住者たちを受け入れるだけの余裕があればまだいいが、そうでない場合は単に負担になるだけだ。増えた分の人口を暮らさせるだけの物資も家もなく、またもともといた住民たちとの軋轢もある……そういった不和が原因で滅んでしまったフォートも、中にはあるほどだし……滅びはせずとも、今現在、過剰に人口が増えて困窮しているフォートもいるだろう」


 かといって、ならば人を減らせばいいのかと問われれば、決してそんなことはない。

 むしろ、人の力……マンパワーというのは、社会を回していく上では必須なものであり、この『災害世紀』においてはむしろ、減らしてはいけないものなのだと言える。『サラセニア』の現状や体制を見れば、それがよくわかるだろう。


 しかし、住む場所や食料などがそれを支えることができない。受け皿の部分が、必要なはずの人の重みにすら耐えきれない。今の時代の多くのフォートでは、そんな矛盾した2つの危機が同時に起こっている。


 これを解決するためには、『受け皿』をより大きく、頑丈にする必要がある。

 多くの人が所属し、働いて、暮らしていくことができる生活基盤が必要なのだ。そのためにも、これ以上今ある『フォート』を減らすことはできないし、何なら増やさなくてはならない。


 増やしてもすぐに滅んで減ってしまっては意味がないため、正確に必要とされるのは『多くの人々が生活できるフォート』が『より安全に、より確実に存在できる環境』なのである。


 住む場を失う人々が急増しつつある今、それを早急に用意しなければならない。

 そしてそれは、付け焼刃ですぐに失われてしまうような不完全なフォートであってはならない。それこそむしろ、費やした資源の無駄になってしまうからだ。


 より大きく、より確実な『生存圏』の獲得。これが、2つ目の理由。


 そして3つ目。それを説明するために、アルフレッドは再度画面を切り替えた。


 今度映し出されたのは、AWと思しき機体の……しかし、無残に壊された残骸だった。

 戦闘によるものだろう。単純に劣化しただとか、工事作業中の事故によるものではありえない壊れ方をしている。


 加えて、これをやったのは恐らくクリーチャーではないこともわかった。

 機体のあちこちに刻まれているのが、AW用の剣や銃を使ったことによる破壊痕だったからだ。


 そして、その画像を見て……『第7特務部隊』の面々の何人かが、『あれ?』と反応した。


「数か月前、わが軍のある部隊が、野盗か何かと思しき一団の襲撃を受けた。もっとも、返り討ちにしたためこちらに被害・損害はなかったが……これはその際に回収された、敵が使っていたAWの残骸を記録したものだ。見ての通りの……第4世代AWだな」

 

 それを聞いて、先程反応した面々はもちろん……そうでなかった何人かも気づいた。

 この機体は……自分達『第7』が戦った相手だと。


「そこらの賊がこんなものを用意できるはずもない。案の定偽装していただけで、奴らの正体は、ある中小フォートの正規兵達だった」


 数か月前、まだハルキとアキラ、そして『レックス』が加入して間もない頃、野盗に見せかけて他のフォートの兵士達が、『レックス』を強奪しようと襲って来たことがあった。


 その敵は、『第7特務部隊』の戦闘能力の前に敗れ去り、生き残った何人かは捕虜となった。

 そして、彼らが所属していたフォートは、防衛のための戦力を喪失したことで、都市機能を維持していくことができなくなり……消滅したという。


「それについては、冷たい言い方になるが、彼らの自業自得だ。だが問題はそこではなく……彼らのように、追い詰められた人間は、窮地を脱するために、同胞にも牙をむく、という現実だ」


 そう言うと同時に、心なしか、アルフレッドの目つきが強く、鋭くなったようにも見えた。


 会議室の中の空気が、張り詰め始めたようにも感じられる。


「嫌な予想だが……恐らくこれから先、こういう事態は増える。いや、ほとんど明らかになっていないだけで……今もこの大陸のどこかで普通に起こっていることなのだろう。それも……野盗などという規模ではなく、恐らくは、フォートそのものが略奪に動く、という事態すらも」


 かつて、『災害世紀』が始まって間もない頃……そういった事態はあちこちで起こっていた。


 自分のところにものがない。

 ならば他から盗んで、奪ってしまえ。

 そうしなければ自分が死ぬ。ならば奇麗事なんて言っていられない。


 そんなすさんだ思考があちこちに蔓延し、一時期、世界中が無法地帯のような状態になったことがあった。


 しかし、すぐにそれも収まった。

 そうする余裕すらなくなったからだ。手を取り合い、力を合わせて必死にあがかなければ、生きていくことができないと皆が悟ったからだ。

 奪って一時を凌いでも、後に続かない。ならば、支え合って長く保たせた方がいい。


 それがわからない者は、皆死んでいった。


 全くのゼロになったわけではない。今の時代でも、どこかであぶれて無法に身を落とす者というのはいるもので……物資を狙った盗賊はあちこちに出没していた。

 すぐに正規軍によって討伐されるか、クリーチャーの餌になってしまう者がほとんどだが。


 しかし、今回のコレは問題の重要性が違う。何せ彼らは1つのフォートに……れっきとした公のコミュニティに所属する正規兵達である。

 協力し合っていかなければならない、と寄り集まったはずの人々の側であり、それを守るはずの存在だ。


 なまじ人類が、この世界で生きていく術を確立し、仮初の安定と余裕が生まれたからだとでもいうのだろうか。

 それによって手にした力を、再び人類に向ける者が出始めたのだ……野盗などよりも大きな、1つのコミュニティそのものという単位で。


 そして、アルフレッドは語る。このような事例は……恐らく、今後増える、と。


 人は再び、ギリギリのところで生き延び、力を手にしつつある。


 しかし、依然として世界に資源はほとんど残されておらず……クリーチャーの素材から回収されるそれも、人類全体と言う規模で見れば、ほとんど焼け石に水。

 いくつもの技術革新で、旧時代に比べてかなり省エネな都市運営ができるようになったとしても、結局は人類は、『消費』し続けて生きていかなければならないことに変わりはない。


 そして、資源には限りがある。今度こそ、足りなくなる。無くなる。


 そしてまた……そこに『戦う』そして『奪う』という選択肢が現れてしまうのだ。

 同じ人類を、相手に。


 最後にアルフレッドは、映像にまた地図を……しかし、今度はユーラシア大陸全体や、アフリカ大陸までが見えるほどに縮尺を変え、範囲を広げたそれを映し出す。


 そのあちこちには、さっきまで見ていた地図と同じようにアイコンが記されていた。数は30に満たず……その中の1つに、『ヴォーダトロン』があった。


「現状、『大連合』の資料から読み取れる、この世界に存在するフォートの分布図だ。今のコレは、『大規模』及び『超大規模』のフォートのみに絞って表示している。言ってみれば……『ヴォーダトロン』と同等かそれ以上の力を持つフォートが、これだけあるわけだ。もしも戦いになれば……どうなるかわからない『敵』になりうるものが、な」


 会議室に、誰かが息をのむ音が……呼吸音にも等しい小さな音量であるはずのそれが、妙に響いた。


「この『災害世紀』……最悪を想定して動いても、実際にはそれを上回る『災厄』が訪れることなどざらにある。叶うなら、そんな時は来てほしくないが……可能性があるのなら、備えなければならない。他のフォートからの襲撃、フォート間の戦争……その脅威から『ヴォーダトロン』を、そして同盟関係にある全てのフォートを守る、防衛圏を確立する、そのために……アジア、ヨーロッパ、両方面に対応できる位置にある『アークル』は……戦略拠点として、必要なんだ」





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