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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第4章 アークル計画
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第68話 アークル計画



「―――ぅらぁっ!!」


 気合と共にハルキが発した一声と共に、ハイキックの要領でその足が振るわれる。

 びゅおん、と空を切る音が響き……しかしその一撃は、むなしくも文字通り『空を切る』だけにとどまった。


 わずかに半歩、横に動いただけでシドは難なくその一撃を回避し、しかしそこで止まらずにハルキは攻め続ける。


 素早く足を引き戻し、その勢いも利用してシドが動いた先に回り込んでつかみかかる。


 が、それを読んでいたシドによってその手は払われ、逆に腕をとられてしまう。そのままシドはハルキの腕を引き、関節技に持ち込もうとするが、ハルキはあえてその動きに乗り、跳んだ。


 そのまま空中で回転するような動きになり、アクロバティックに大上段から飛び蹴りを叩き込もうと足を唸らせるが……


「考えが……甘い!」


「どぉあっ!?」


 蹴りが当たるよりも早く、シドは関節技をキャンセルし、そのまま強引に腕力だけでハルキを空中で540度ほど――確実に一回転以上――振り回し、訓練室の床に叩きつけた。


 この部屋の床は、格闘訓練で使用するため、やや柔らかめかつ、衝撃を吸収しやすい素材で作られているが、流石に大の大人が、その体重がそのまま自分へのダメージに繋がる形で投げ落とされたのはかなり痛かったらしく、悶絶するハルキ。

 そこに追撃を加えるほどシドも鬼ではなかったようだが、その視線には呆れが乗っていた。


「お手本のような『少し強くなって調子に乗った未熟者』の動きだな。もうちょっと冷静に、考えて技を選べ」


「そこまで言われんのかよ……別に俺、調子に乗ってるつもりはねーんだけど……」


 痛みにうめきながらも、どうにか上体を起こすハルキ。

 こうして見事に、あるいはいっそ奇麗に負けたのは、シドの方が自分よりも圧倒的に強いからだし、そもそも自分はまだ素手格闘を少しかじっただけの素人だ。そのことは十分わかっているつもりである彼からすれば、『調子に乗っている』と言われるのは少し面白くなかった。


 が、シドはその呆れた目のまま、しかし突き放すのではなく、説明するように話し始める。


「意味が違う。力量をはき違えて自信過剰になってる、ってわけじゃない……新しく覚えた技を、考えなしに使おうとすんのをやめろ、って言ってんだ」


 シド曰く、ハルキはここ最近の訓練で、きちんと実力をつけてきている。体力はあるが、戦闘技能はさっぱりだった入隊直後の頃に比べれば、むしろ目を見張るレベルの成長だった。

 だからといって調子に乗って自信過剰になることもなく、むしろどんどん上を目指してトレーニングに力を入れ続けるその姿勢は、シドからしても好印象だった。


 ただ、今回問題にしているのは、そのトレーニングやら勉強の中で覚えた知識や技術を、ハルキは戦闘の中で無意識に、しかし積極的に取り入れて使おうとする癖がある点だった。


 それによって戦闘を有利に進めることができるなど、きちんと有効活用できているのならば何も問題はない。しかしハルキは、簡単に言えば、小手先だけ身に着けた不完全な状態のまま、それら使おうとしてしまっている。シドが問題視しているのはそこだった。


 東洋の国の諺にて、『生兵法は大怪我の基』というものがある。知識にせよ技能にせよ、使いこなせていないものを無理に使おうとすると、かえって危険だと、昔から言われているのだ。


 そこらの素人を相手取る分には問題ないだろうが、自分と同じかそれ以上のレベルになるような者達を相手に使うにはあまりにも危険。シドはそう考え、諭すように言って聞かせる。


「相手の動きや力を利用したり、人体構造上対応できない位置からの攻撃は確かに有効だ。しかし相手によっては、今みたいにもっとシンプルな力技でひっくり返されることもあるし、そもそも他にもやりようがあっただろ。それこそ、もっと基礎的な動きを組み合わせるだけでも対応できた」


 不完全な大技よりも、より使いこなせている基本技能を使った方が、ハルキにとってもやりやすく、それでいて確実だったはず。その指摘に、ハルキは何も言い返せなかった。


 はぁ、とため息をついて、シドはハルキに尋ねる。


「焦って強くなろうとするな。むしろ強くなりたいなら、足元をきちんと固めて、少しずつ前に進んで行け……そっちの方が結果的には早いし確実だ」


「それはわかってるさ。けど、あんなこと聞かされちゃあな……」


「……まあ、気持ちはわからんでもないが」


 今度は2人そろってため息。そしてその脳内では、同じことを考えていた。

 今日の午前中、部隊のブリーフィングで、ファウーラの口から連絡された内容……ヴォーダトロン総司令部が検討している重大プロジェクト『アークル計画』についてだ。


 かつて存在し、しかし滅んでしまったという、推定大規模相当のフォート『アークル』。

 そこに眠る資源や情報を手にし……さらに、その『アークル』そのものをフォートとして復活させるというそれは、ハルキ達にとっては寝耳に水どころではない衝撃だった。



 ☆☆☆



「しかもそれを、あたしら『第7特務部隊』が主軸になってやるって言うんすからね……」


「まあ、聞く限り『レックス』が作戦の要というか、思いっきり戦力その他を当てにされてるみたいだもんね。そりゃ、それが所属するうちの隊が引っ張り出されちゃうよね」


「戦闘以外にも、めっちゃ活躍の場多いもんな」


 同時刻、事務室内の談話スペースにて。


 アキラ、メリル、ロイドの3人は、作業の合間の休憩として一服しながら、こちらも『アークル計画』について話していた。

 

 隊長であるファウーラの話によれば、今回のこの『アークル計画』は、現状このフォートにおいて、機体スペック的に、個としての最大戦力である『レックス』の能力に比重を重くした内容になっており、それを操縦するハルキとアキラ、そして2人が所属する隊が中心になるという。


 具体的な仕事の内容やスケジュールなどはまだ決まっていないが、どう転んだとしても、楽な任務にはならないのは明白。正直に言って、3人共今から気が重かった。


 そこに、自分も休憩に入って飲み物を持ってきたところだったらしいマリカが加わった。

 空いている席に腰を下ろし、疲れた表情になっている3人に話しかける。


「まあ……ぶっちゃけ私も聞いた時は『マジか』って思うような内容だったねえ……。既に滅んだフォートを復活させるなんていうんだから。やっぱ大きいフォートは考えることが違うわ」


「いや、こんなんフォートの大きい小さいがどうこうって問題じゃないって。ぶっちゃけ今回ばかりは、一体何考えてこんなプロジェクトが進められてんのかさっぱりわかんねーよ」


「何だよ、それじゃいつもはきちんとわかってるみたいな言い方じゃねーか」


 と、いつの間にか後ろに来ていたクリスがロイドを皮肉って言う。


「うっさいな……じゃお前はわかるのかよ、クリス?」


「いや、悔しいが俺もさっぱりだ。ただ、うちのボスはバカじゃない……やるからにはきちんと理由ってもんがあるんだろうさ。ただ、俺達には聞かされてないだけで」


「そこが不満だし不安なんだけどねー……隊長に聞いたら教えてくれるかな?」


「いや、無理じゃない? こういうパターンで下に情報が回ってこないのってつまり、『知る必要がない』とか『知らない方がいい』とかの理由でしょ?」


「あるいは『いつか知らせるとしても今はまだその時じゃない』とかかもっすね」


「いずれにせよ、今の俺達にできることはない、ってことだ……せいぜい、いつどんな任務が入って来てもいいように鍛えて備えておくくらいだな」


「最近しょっちゅうシドと格闘訓練してるハルキみたいに?」


 ちょうどここにいない2人のことを話題に出すロイド。


 その2人もまた、偶然今と同じ話題について話している所だったのだが、もちろんロイドたちはそんなことは知る由もないし、考えもしない。


「そう言えば確かに最近、特に気合入ってるよね、ハルキ。全体的にそうだけど、特に白兵戦関係の訓練かなり増やしてるみたいだし……何でかな?」


「単純に戦力向上のためらしいわよ? ほら、『レックス』の操縦ってアレだし」


「アレって……ああ、まあ確かに普通とは違うもんな」


 マリカの言葉に、合点がいったようにうなずくロイド。メリルやクリスも同様のようだ。

 アキラは知っていたらしく、特に反応はない。


 通常、AWのパイロットが戦闘技能を向上させようとするのなら、当然ながらやるべきことは、シミュレーターなどを使った操縦の訓練だ。

 機体そのものをカスタムしたり強化するという方向性もなくはないが、そちらについては今はひとまず置いておく。


 トレーニングを重ね、AWという鋼の戦士を理解し、自分の手足のように、あるいはそれ以上に思うように動かせるようになってこそ、戦場において獅子奮迅の活躍ができるようになる。それに間違いはないし、ここにいる面々の大半はそうして強くなってきた。


 しかしハルキの、そして彼が乗る『レックス』の場合は違っている。

 『レックス』の操縦機構は『思考操縦』だ。ハルキがイメージした動きが、そのまま実際の動きに反映される。


 ハルキが強くなれば、それがそのまま強さに反映される……というわけではないが、全く無関係というわけでもない。技術の向上はそのまま期待での戦闘にも生かせるし、『思考操縦』の要となるイメージ力にしても、実際にそうできるだけの力をつけ、経験として積み重ねていた方が、質が高まるだろう。。


 頭だけで理解しているよりも、頭と体両方で覚えていた方が強くなる。それを狙って、単純に『戦う力をつける』ための訓練を、ハルキは今、積み重ねているのだ。


「あとなんか最近、特に蹴り技を中心に練習してるみたいっすね」


「え、何で?」


「『戦闘モード』での戦闘スタイルに直結するからじゃない? 『レックス』が人型になる時、背中のユニットが足に変形するでしょ? だから、足を使った攻撃がめちゃくちゃ強力なのよ。単純な馬力もそうだけど、ジェット噴射で加速したり、蹴った後に砲撃で追撃とかしたりできるから」


「そういや、『オーガングリズリー』の時も、すんごい派手な動きで蹴っ飛ばしてたな」


「『サラセニア』では、ドラゴンの頭を踏みつけながらゼロ距離で爆撃して消し飛ばしてたな」


 ロイドとクリスは、レックスの『足技』の軌跡を思い返してなるほどと納得している。

 

「けど多分、『レックス』の仕事ってそれだけじゃないわよね。具体的な計算とかはまだだろうけど……今回のこのプロジェクト、何から何まで膨大な量のリソースが必要になるし」


「確かに。資源、エネルギー……もちろん武器弾薬もだろうな。多分だが、ちっと考えるのが億劫になるレベルの消費になると思うぜ」


「都市一つ復活させるんだもんな……そりゃそうだ。ホントにさあ、そこまでするだけの価値があるってことだよな、その『アークル』にはさ。一体何があるんだろうな、そこに?」


「わからんし、それは話したって仕方がないってさっき話になったろ。むしろそれらを解決する一助として、ここから『レックス』の仕事は大いに増えてくるだろうから、注視するならそっちだな」


 鉱物に鉄屑、そのままではゴミ同然で、再利用するにもコストが見合っていないものをも、立派な資源に変えてしまえるのが『レックス』だ。


 先だって起こった『メタルスラッグ』の洞窟の一件と同様に、未回収の資源回収やクリーチャーの討伐による、回収系の任務が今後一層増えるだろうとクリスは予想する。


 それに加えて、レックスには太陽光だけで、下手な発電施設をも上回る出力の電力を生産できるだけのエネルギー供給能力もある。

 『サラセニア』に行く際には、揮発油等の燃料を携行せずに、レックスが生産した電力を各車両に供給して動かしつつ進むという形で、大規模な遠征任務にも大いに貢献した実績がある。


「資源も手に入る、エネルギー供給のめども立つ……1機で何役こなすんだって話だよな。需品部の人達の仕事、思いっきりかっさらってね? 文句とか言われねえよな?」


「仕事が楽になって助かるー、ってむしろ喜んでたよ? ヴィルジニアさんとか」


「……うん、まあ、あの人ならそうだろうな」


 とことんマイペースかつ、どこか独特な価値観を持つことで知られる女性のことを思い出しながら、ロイドは頷いた。



 ☆☆☆



 同時刻、総司令部内の、とある会議室。

 ごく小さな、少人数での打ち合わせ程度に使われるその部屋で、ファウーラとセリアが向かい合って座り……これまた偶然にも、ここでも同じ話題について話し合っていた。


 ただし、ほとんど雑談のような形で進められていた他2カ所でのそれとは、彼女達の話は少々内容が異なるようだ。


 机の上に置かれた資料に目を通しているセリア。


 常に無表情な彼女には珍しく、その顔には驚愕が浮かんでいた。

 もっとも、いつもより目を大きく見開いて、ぽかんと口を開けている程度のもので、決してオーバーなリアクションというわけではないが、彼女を知る者達からすれば十分に驚きだ。


 それほどまでに、目の前にある書類の内容は、そしてファウーラから告げられた話は、彼女にとって驚くべきものだった。


「今後の『第7特務部隊』の運用指揮を、私に? 本気なのですか、隊長?」


「正確には、隊長としての職務の代行はシドが行います。あなたにはその補佐と、各関係部局との調整や、作戦立案等を任せたいと思っています。言ってみれば、今もお任せしている仕事の範囲が少し拡大するだけですが……必要であれば、それに応じた権限や立場も付与する予定です」


 常のように、凛とした雰囲気の中でも穏やかそうな微笑みを崩さないファウーラだが、テーブル越しにセリアに向けられる目は真剣そのものだった。冗談で言っているのではないのは明白だ。


「すでに話した通り、『アークル計画』においては我々『第7特務部隊』が主軸となって動くことになりますが、実際に計画に着手するまでの準備段階においても、やることは膨大です。むしろ、準備期間内だからこそ、『第7』がこなさなければならない仕事も発生します」


「各種資源の調達……ですね」


「ええ。当然需品部も手を回してくれる予定ではいますが、この計画の発動に必要となる資源の量はあまりにも膨大です。これまで、コストパフォーマンスに見合わないために放置されていた資源の採掘やクリーチャーの討伐などが主になりますが、その間の任務をあなた達に任せたいのです」


 談話スペースでのクリスの見立て通りの展開である。


 レックスの持つ『捕食変換』の能力により、資源という資源は再利用できる形に加工し直せる。それも、ほぼゼロコストでだ。せいぜい、レックスを動かす手間と、その分のエネルギーくらいであり……エネルギーに至っては、少しの時間太陽光を浴びさせておくだけで解決してしまう。


 そして、『ヴォーダトロン』の周辺には、採掘や加工の際のコストに見合わないという理由で放置されている採掘場などがいくつもあり、それらから最大限資源を拾い上げることで、今回の計画に必要になるそれを補充する狙いなのだ。


 当然そのためには、レックスをあちらこちらに出張させて、それらの資源を食べていくことが必要になる。準備期間と言えど、『第7特務部隊』が忙しいのは変わらないのは明白だった。


「しかし、その間隊長は何を? そういった作業の指揮を隊長が取るわけではないのですか?」


「……まだ詳しくは話せませんが、私はしばらく別な業務につかなければなりません。時間的にも内容的にも『第7』の管理運用と並行して進めるのが困難なのですが、かといってその間、部隊を遊ばせておくわけにはいきません。むしろ、これから仕事はどんどん入ってきますから」


「だから、副隊長と私にしばらく指揮を任せる、ということですか……期間はどの程度ですか?」


「おおよそ3ヶ月程度を見ています。その間、『第7』に入る任務は資源採取系のそれが主となり、戦闘や防衛に関するものは、余程の緊急時を除いて他の部隊が担当します」


「……わかりました、拝命いたします」


 何度か書類を読み返して確認した後、いつもの表情に戻ってセリアはそう答えた。





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